赤の不安
どたばただった夏休みは終わり、アタシ達はまた学校に通う、高校3年のアタシ達には文化祭までしか楽しめない、それが終わったらみんなは受験に向かって走り出す。
そんな中でアタシはやりたい事を探してた、ツバサには曖昧に言ったけど実は何も決まってない、やりたい事も行きたい大学も将来の事も見えてないアタシは必死にもがいてた。
唯一見い出したカイと同じ進路という選択肢はカイの調理師発言により却下、高校をアタシ達がいるからという理由で決めたカイでも進む先を見付けてる。
時間はあるのに一人で何かに追われて、一人で苦しんでる。
そんな事の繰り返しでアタシは自分がどれだけ周りに流されているかを実感した、この高校だって元はと言えばユキとマミ姉がいるから、部活も最初に友達になったツバサが何となく言った事から始まった、趣味のサーフィンだってユキに負けたくなかったから、英語が喋れるのだって兄貴に近付きたかったから。
そう、アタシは自分の事を何一つ自分の意志で決めてない、いつだって誰かの後ろを見て歩いて来た。
そんなアタシにとって大学は魅力的なものじゃなかった、普通の女の子みたいに、普通に大学に行って、普通に就職してOLになって、普通に幸せになって結婚する。
それも悪く無い、でもそれじゃあアタシの人生は味気なさすぎる。
確かに行き着く果てはカイと結婚してたい、でもそれは二人が大人になってからの話。
カイの事だから微笑みながら見守っててくれるはず、でもそれじゃあアタシの人生の意味が無くなる、流れに乗ったままカイと一緒にいてもアタシは胸を張ってカイと一緒に歩けない、立派なカイと同じ人生を歩く資格なんて無い。
好きな人と同じ道を歩くには資格がいる、今のアタシにはカイと歩いていく自信がない、楽しく毎日笑ってられるのは学生の内だけ、だからこそ大学は前(未来)を見て歩かなきゃ。
手を繋いで歩いてるアタシとカイでも違う道を歩いてる、でも、道が無くなった時の選択肢は二つ、手を離して違う道を歩くか、違う道を歩くカイに頼るか。
アタシはどっちも嫌、カイにも負けないくらい強い女にならなきゃいけない。
そのためにはカイの手を離し道の先で待つか、手を繋いだまま前だけを見続けるか、どちらにしろカイだけを見る事は出来ない、それがアタシには辛くて怖くて悲しい。
本当にアタシにはカイが全てだった、遠くにいても手を繋いだままのカイ、でもこのままじゃあカイの手を放さなきゃいけなくなる時が来る。
アタシはアタシの理想像に近付くタメにはカイと離れなきゃいけない、そう思い始めたのは進路を探して始めた時だったのかもしれない。
そんな心ココに在らずなアタシを不快な目で見るコガネ、その不快な視線にもアタシは全く気付かない。
今は学園祭のグループごとに別れての打ち合わせ、最初は渋ってたコガネも一度やると決まれば少しは真面目、いや、アタシ以外は皆真面目に考えてるのかも、アタシは進路の事で頭がいっぱいなのに。
「…………チカちゃん、聞いてる?」
「ん、あぁ、何?」
「はぁ、さっきからボーッとしすぎ、何か悩み事?」
コガネは明らかに聞きたく無さそうな顔だけど、聞いちゃうところがコガネの優しいところ。
「進路の事でね」
「そんなもんカイに合わせれば良いだろ」
やっぱり、みんなそう言うんだよ、アタシの悩みなど知りもせずにカイを頼れって言う。
カイは立派過ぎる、だから近くにいるアタシが悩んじゃうんだよ、欠点の無い人程付き合い辛いなんて思わなかった。
「ヒノだってそんなもだぞ、結局のところ俺のタメだ」
「それってのろけ?」
「違う、人のタメっていうのも一つの進路って事。
それにチカちゃんには英語があるだろ、英語を生かせば何か見えてくるんじゃないの?」
英語をか………、仕事としてやるには不十分だけど、正直アタシには英語以外何も無い、本当に寂しい人間になっちゃったな。
「チカちゃんにはカイしかいないだろ?」
「別にアタシはカイがいなくても大丈夫だよ」
「嘘だね、チカちゃんの心の中からカイを追い出してみな、チカちゃんはダメになるだろ?俺がヒノを必要としてるように」
何でコガネはココまで自分の弱いところを平気で言えるんだろ?アタシはコガネの前で強がった。
本当はカイがいなくなったら心は押し潰されそうになる、好きとか必要とかじゃない、本当にアタシの中では‘海’になってる。
「チカちゃんが何を突っ張ってるのか分かんないけど、寂しい事を隠す必要は無いんじゃない?
人間なんて誰かを必要として、必要にされながら生きていく生き物なんだから」
コガネが羨ましい、そんなに自分の事を弱いって言えるようになりたい。
アタシときたらカイと比べてばかり、本当にカイが全てと実感する。
カイに頼りたくないアタシとカイが全てのアタシ、その二つのせいでアタシは悩んでるんだ、どっちも根底には好きって感情があるせいで悩みは膨らむ一方。
何でアタシにはカイだけなの?他の皆は何かを持ってるのに、何でアタシにはカイしか残らなかったの?