青の優しさ
あれよあれよという間に60話まで来てしまいました!本当に長くなりそうな予感です。
ココまで付き合って下さった皆様、本当に感謝感謝です、そしてどうか最後までお付き合い下さい。
各々に各々のエンディングを用意してますので、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
ツバサが珍しく落ち込んでる、その理由はコテツ、前々から映画の試写会に行く約束をしてたらしいんだけど、今日キャンセルされたらしい。
試写会は明日だから突然の事で落ち込みもかなり大きい、アオミは明日マミ姉とかと遊びに行くらしいからココは兄の出番。
ソファーで膝を抱えながから録画しておいたアニメを見るツバサの隣に座った、いつもなら喜んで抱きついてくるのに今日は大人しい、かなりショックだったらしいな。
「ツバサ、一緒に映画見に行こうか?」
ツバサは希望に満ちた目で俺の事を見る、俺は笑顔でそれに応える。
「でも、チカチカとデートに行こうとしてたんじゃないの?」
「お兄ちゃんとデートは嫌?」
「行く!お兄ちゃんとデートする!」
ツバサは笑顔で俺の腕に抱きついてきた、やっぱりツバサには笑顔が一番だな、チカは困った顔も可愛いけどね。
当日、ツバサは珍しく早く起きてた、早起きの俺より早く起きてるんだからかなり頑張ってるな。
物凄い眠そうなんだけど笑顔、コテツの穴埋めになろうとは思ってないけど、寂しさを紛らわせればそれでいい。
映画までは時間があるから暫くはデート、少し高校から離れればツバサはベタベタ、いつもの事だし後ろめたい気持ちも無いから許してる、慣れって怖いな。
「僕達が兄妹だって誰も思って無いよね?」
「それはなぁ」
「恋人同士に見えるよね?」
「見えたいのか?」
「うん!」
まぁツバサなら当たり前だろうな、今はツバサが親友だった頃が無いみたいだ、最初は荷が増えたとか思ったけど、今は俺の大切な妹。
だから妹を悲しませたコテツに多少ムカついてる、俺ならチカをどんな理由があろうと悲しませない、なのにコテツは理由も無しに、会ったら殴ってやりたいけど、無理だから説教で我慢するか。
「…………聞いてる?」
「ゴメン、全く聞いてなかった」
「だからぁ、お兄ちゃんは大学とかどうするの?」
もうそんな時期か、だから最近やたらにチカが勉強を聞きに来るんだな、ツバサは全く勉強してるところ見たこと無いし、大丈夫なのか?
「ギリギリまで考えるよ」
「むぅぅぅぅ」
「何膨れてるだよ?」
「だってだって、コテツは家を手伝うとか言ってるし、コガネんはサッカー頑張るとか言ってるし、ヒノノはコガネんのために栄養士の免許取るって言ってるし、チカチカは教えてくれないし、お兄ちゃんは決まって無いし、僕は何処に行けば良いんだよ?」
それはツバサの進路だろ、かなり人任せにしようとしてるんだよ。
それに皆決まってるんだな、チカは曖昧だけどね、将来か…………。
「調理師でもなるかな」
「えっ?」
「料理を勉強するのもありかな、まぁ俺なら何やっても出来るんだけどね」
「羨ましい、僕なんて全然決まらないのに」
「アオミがいるから歯科大学でも行けば?」
「お兄ちゃんの意地悪!」
歯科大学なんて今から頑張って行けるようなところじゃないもんな、アオミは11月くらいから勉強して受かってたけど。
「やる事が無いならそれを見付けるために大学行ってみれば?」
「せめてチカチカと同じ大学に行ければなぁ」
俺もチカと同じ大学に行きたいけど、行くなら将来に繋がるような勉強したいよな、ツバサも何か見付けてくれれば頑張るのに。
俺達は途中アオミ達に会ってからレストランに入った、アオミが友達といる時の顔は生き生きしてたな、マミ姉も何時にも増して元気そうだったし、やっぱり女同士だと楽なんだろうな。
レストランでツバサは遠い目でチケットを見てた、いくらブラコンのツバサでも彼氏の方が良いに決まってる、親友としてのコテツの意見も尊重したいけど、妹のツバサを優先するのが当たり前。
多分ツバサのためなら平気で他人を傷付けられるんだろうな、人の事をブラコンとか言ってる俺がシスコンなのか?
「今日この女優さん見れるのかな?」
「見れるんじゃない、俺はあんまり好きじゃないけどね」
「何で?こんな綺麗な人なのに」
「完璧すぎて気持悪い、確かに綺麗だし今時の女の子の憧れを一つにまとめた感じだけど、だからこそ怪しいんだよな」
「お兄ちゃん凄い」
「何が?」
「ダメダメ!これは僕とハヤさんの秘密だから」
何の秘密だか、まぁハヤさんは裏事情とか色々知ってそうだし、その事なんだろうな、あの人芸能界でもファンが多いって言ってたし。
ツバサが再びチケットに目を戻し、俺は頬杖をついて外を見た、そして俺は外を見たことを後悔する。
俺の視界に入ったのは満面の笑みで歩くコテツ、コテツの隣にはコテツの幼馴染みがいる、幸いツバサは気付いていない。
俺の中でコテツへの僅かな怒りが膨らみ、抑えきれない程の怒りへと変わる、こんなにムカついたのは久しぶりだ。
「悪いツバサ、用事思い出したから待ってて」
「何?一人じゃ寂しいよ」
「ゴメン、オークションの振り込みが今日までだからさ、忘れない内に済ましてくる、すぐ終わるから待っててよ」
「うん、すぐだよ」
俺はツバサの前では笑顔の兄を演じ、抑えきれない怒りを抱いてレストランを出た。
コテツの声は大きいし姿が目立つから何処にいるかすぐ分かる、俺は小走りでバレないように近寄り、後ろからコテツの肩を掴んだ、こっちに向かせるのと同時に全力でコテツの顔面を殴った。
「コテツ!」
よろけて尻餅を付いたコテツに幼馴染みが近寄る、コテツは目を丸くして血が滲む口元を押さえた。
「か、カイはん?どないしたん?」
「どないしたんじゃねぇだろ?」
俺はコテツの横でしゃがみ、胸ぐらを掴んで思いっきり引き寄せた、辺りはぐるりとギャラリーが囲み、少し脅えた様子で俺らを見てる。
「ツバサとのデートをドタキャンして他の女とデートか?」
「誕生日祝ってやるだけやで、それのなにがあかんの?」
「祝うだけねぇ、じゃあツバサがどんだけ寂しい思いしたか教えてやろうか?テメェのその身勝手な優しさでよぉ」
「お願いします、コテツは悪く無いんです、無理言ったうちが悪いんです」
「あぁ?」
間に入って来ようとした幼馴染みを睨むと、幼馴染みは身を縮ませて一歩退いた、それが気に入らなかったらしくコテツは俺を睨む、コテツの切れ目が開いた時はキレた証。
「メグはんには関係ないやろ?それにわいは悪い事をしたとは思ってへん、たかが映画やろ、そないなもん誕生日に比べたら浅い浅い」
「良かったな、テメェがツバサの彼氏兼俺の親友で、ただの知り合いならぶっ殺してた」
俺はコテツを突き飛ばすように放すと、立ち上がってコテツの脇腹を思いっきり蹴り飛ばした、コテツの事だから折れちゃいないと思うけど、俺もサッカーやってたからそれなりに効いただろ。
「もう一回言うで、わいは間違ってるとは思っとらん」
「じゃなきゃ困る、悪気があってそこの女と遊んでるんなら今頃こんな風に話してねぇよ」
「ははっ、そうやな」
俺はそのまま走ってレストランに向かった、確かにコテツには罪悪感の欠片もない、でも、それがツバサを傷付ける事にもなる。
悔しいけどこればかりはツバサには言えない、ドタキャンされただけであそこまで落ち込むのに、その理由が他の女だって知ったらツバサの涙を見る事になる、そんな事は出来るわけがない。
「お兄ちゃん遅い!」
「ゴメンゴメン、少し手間取っちゃってさ」
「もう来てるから食べよう」
「食べるか」
俺は座るとツバサの兄に戻る、さっきの事はツバサには言えない、会話の流れでコテツの名前が出るとドキドキするほど俺は神経質になってた、それでも笑顔でツバサと話し続ける。
帰ったらアオミにでも相談するか、でもアオミの方がキレそう。
割りと楽しんで試写会を見れた、まぁ主演女優に何度か睨まれたけど、一番前でハヤさんにあげた事から何となく理由は分かるんだけどね。
帰り道のツバサは無駄にテンション高い、近くで女優見れたのがそんなに嬉しかったのかな?
「あの女優さんがねぇ………」
「どうした?」
「な、何でも無いよ!」
怪しいけどツバサが笑顔なんだから良いか、俺は今コテツの事で精一杯だし。
どうやってこの先コテツの事を隠し続けるか、それとも一噌のことツバサと別れさせる手もある、でもそれじゃあツバサが可哀想だ。
コテツに悪気が無いだけに打開策が見付からない、あの幼馴染みは全く悪くない、それにコテツは今後もそういう事を続けるはず。
この時の危険な芽が大きな花を咲かせるとは俺ですら思わなかった、この時に俺が何かをしていれば…………。