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銀と登校日

夏休みの登校日でも教室には誰もいない、この広い空間に私だけってのが気持ち良かったりする。

私が自分の席に座り、本を取り出した時に誰かが教室に入って来た、こんなに早く登校してくる人はいないし、先生なんかがこの時間帯に教室に入ってくるわけがない。

私は開いた扉を見ると、そこには矢野さんが立ってた、矢野さんは1・2年の頃に、私と同じ時間に登校してきたから、仲良くなったお友達。


「久しぶり、矢野さん」

「久しぶり」


矢野さんは1年の頃に比べて格段に可愛くなった、ボサボサだった髪の毛もちゃんと整え、長かったスカートも膝上まで短くした、薄いメイクでも顔のパーツが際立つ、元から綺麗だったんだけど、自分に自信が持てなくてオシャレをしてなかったらしい。


「春日さん、聞きたい事があるんだけど………」

「何?」

「男の人ってどんな物貰ったら喜ぶの?」


矢野さんからそんな言葉が出てくるとは思わなかった、男どころか女友達も少ない矢野さんが、男の人へのプレゼントで悩んでる。


「コガネは光り物とか好きだけどなぁ」

「年上だから………」

「彼氏?」

「ち、違うよ!」


矢野さんは顔を真っ赤にしながら首を横に振った、コガネも言ってたけど、スタイルも良いし、性格も良いし、顔も良い、直すところ直せば可愛くなるって言ってたけど、それは本気だったらしい、おしとやかな感じで本当に可愛くなったね。


「ただ、私が一方的に好きなだけ」

「ふ〜ん、彼は社会人?」

「一応そうなる―――」

「まいど!」


コテツが馬鹿みたいに大きな声で教室に入って来た、いつもよりもかなり早い、コテツは私の右隣に座る、席代えしてこの席になった。


「え〜と、矢野はんやったっけ?」

「は、はい」

「メチャメチャ可愛いなぁ、ミスコン出る気あらへん?」


矢野さんは顔を真っ赤にしてる、多分コテツはコンテストを盛り上げるために誘ってるんだろうな、可愛いは本心であって話術じゃない、全て本能のままに喋るとこうなるのね。


「で、でも私なんて………」

「‘私なんて’、あかんあかん、そないな事言ったらあきまへんで、ミスコンで良いところ見せれば、愛しのあの人も振り向いてくれるかもしれへんで」


こんなタイムリーな交渉術を使うなんて、流石コテツって感じだね、これも本能で察知したとか?


「自信が持てへんのなら、これを期に持てばええやないか、どや?出てみる気になってくれた?」

「コテツの言ってる事も一理あるわね、矢野さんは可愛いんだから、自信を付けてみれば?プレゼントはそれからでも遅くないでしょ?」

「春日さんがそう言うなら、私ミスコンに出てみます」

「ほんまに!?そうなったらヒノリはんと矢野はんはライバルやな」


ちょっと待って、私はミスコンにエントリーしてないしする気もない、大勢の前で一芸なんてするもんじゃないし。


「春日さんも出るの?」

「出ないわよ」

「生徒会の3人は強制参加や、学校の行事を盛り上げんのも立派な仕事やで」

「春日さん、頑張ろうね!」


矢野さんは笑顔で私の手を握って、そのまま教室を出て行った、これで私はミスコンに出ざるおえない、最悪。



今日やる事はホームルーム、しかも文化祭の出し物を決めるらしい、別にやらなくてもいいのに、コテツがいやに乗り気なんだよね。

ミドリちゃんは端っこの方で外を眺めてる、去年にも増して女らしさが増したミドリちゃんの噂は絶えない、最初は皆冗談で言ってたんだけど、最近は本格的にコウ先生と付き合ってるって噂、チカも知らないくらいだから嘘なんだろうけどね。


「今から配るプリント見てや」


私は何も聞いてなかったから事態が把握出来てない、でも、前から配られてきたコテツが作ったプリントを見てめまいがした。


《メイド喫茶改》


改って何?改って、クラスが静かなのはコガネが寝てるから、多分コガネが起きてたら騒ぐような内容。


「改っちゅうのは男子にもやってもらうっちゅう事や、女の子は当然メイド服、男子はサスペンダーに蝶ネクタイ、眼鏡とか萌えやろ?」


コテツ、キモイ。

でもそんなツッコミもいれてられない、メイド服って何?完璧にコテツの趣味じゃない。


「コテツ、喫茶って事は厨房もいるんだよな?」

「そやで」

「なら、俺は当然そこだよな?」


カイ頭良い、私もそこなら喜んでやるよ、あんな恥ずかしい格好で人前に出れる訳無いじゃない。


「それなら私も――」

「ちゃんと裏見てや、配置分けもしとるで」


本当にしてある、流石コテツ、こういうところだけは抜かり無いのね。

運営は3組に別れてやるらしい、私はコテツと、カイはツバサ、コガネはチカ、全員ホールでコテツのずる賢さが分かる、本当に商売上手。


「厨房はまたプリントを渡すからそれ見てや。

打ち上げ代稼ごうなんてせこい事考えたらあきまへんで、やるからには一番取ってクラス旅行に行こうや!」


コテツ、生徒会長の権限を使ってそんな豪華賞品用意してたんだ、しかも私が見ても分かるくらいかなりの客寄せ、特にコガネとチカをお昼時にしてる、やっぱりずる賢い。


「それと、自由時間も服を脱いだらあかんで」


クラスからの大ブーイング、そりゃそうだよ、割りきって一時的に着るのは我慢するけど、外をそれで歩くのは絶対に無理、カイの説得術にかけるしかないな。


「コテツ、お前が良くても俺らは良くないんだよ、少しは俺らの意見も取り入れろ、コテツのワンマンじゃないんだぞ」


クラス全員を味方に付けたカイ、ツバサとチカを味方に付けたコテツ、チカは微妙にコスプレ願望があったらしい、でもコテツが劣勢なのに変わりない。


「一日服装我慢すれば、2日間も沖縄で遊べるんやで、しかも皆が必死こいて勉強してる時に、皆はんはどっちを選ぶ?」


うっ、カイの言う事は全面的に正しいのにコテツの方が魅力的、何でコテツはこんなに他人を味方につけられるの?


「皆はんはどっちがええ?人の目を集めるだけで2日間も沖縄で遊べるんやで、簡単な事やろ?」


ゴメンねカイ、私はコテツの話術に負けた、目を集めるだけで遊べるなら最高でしょ?クラスも段々コテツ寄りに。


「ほな、外でもコスプレ反対の人、いる?」


カイと少数の人が手を上げた、でも多数決にしたら圧倒的にコテツの勝利、カイの正当性がコテツの話術に勝った瞬間だった。


「決定やな、皆はん頑張って沖縄行きましょ」


悔しいけどコテツには人をまとめる力がある、カイの人を惹き付ける力以上にコテツには人をまとめる力。

これだけ周りが騒いでるのにコガネは起きない、でもコガネが起きたら話がややこしくなるから寝てても良いかも、隣同士のチカとツバサはかなりテンションが高い、ツバサはともかく何でチカまで?

それにしてもコテツも考えたわね、チカとツバサがいればメイド服なんて着なくても人は集まる、メイド服着たらオタクじゃなくても見たいよね、いつも制服を着崩してるカイとコガネがキチッと着てる姿も魅力的、ブランド力だけでも十分、客観的に見ても売上一番必至。



コガネが綺麗に着こなしてるのを見てみたい、でも、カイのも見てみたいと思ってる自分がいる、あの喧嘩以来私とコガネの関係は更に近付いた、でもそれに比例してコガネへの罪悪感も強まる。

コガネの事は心の底から愛してる、でも心のどこかにカイがいる、消そうとすればするほど滲んで広まる、これって‘好き’なの?それともコガネに無い積極性を求めてるだけ?

どちらにしろ、私はカイのあの妖しい笑顔に魅いられた一人、カイに狂わされた内の一人。






コガネ、もっともっと私を侵蝕して、私がコガネ以外の誰も考えられなくなるくらい、カイに負ける前に。

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