碧を送迎
質問、しつも〜ん!何で高校には登校日があるの!?ヤダヤダ、やっとお兄ちゃんに過せたんだから、もっとお兄ちゃんと一緒にいたい。
家にいれば僕とお姉ちゃんとお兄ちゃん、3人で仲良く過ごせるのに、学校なんて隕石が落ちて壊れちゃえば良いのに。
僕とお兄ちゃんは制服に着替えてチカチカの家に向かった、チカチカは良いよね、お兄ちゃんのコウさんを独り占め出来て、僕のお兄ちゃんはチカチカの彼氏だから、少し我慢しなきゃいけないのが嫌。
でもコウさんってミドリちゃんとの噂があるんだよね?僕の情報によると一緒に学校に泊まったらしいし、二人であんなことやこんなことを……………、鼻血が出そう。
お兄ちゃんはいつものようにインターホンを押すと、本当ならチカチカの足音が聞こえるはずなんだけど、凄く静か、お兄ちゃんがもう一回鳴らしても何も聞こえない。
いつもなら着替えてないとか、メイク中とか言ってくれるのに、おかしいな?
お兄ちゃんは難しい顔をしながら、インターホンを連打し始めた、それでも来ないからドアを蹴った。
「お兄ちゃん、それはちょっとやりすぎじゃない?」
「多分チカ寝てるぞ」
やっぱり、でもチカチカが寝坊なんて珍しいなぁ、僕なんてお兄ちゃんに起こされなきゃ起きないもん、お姉ちゃんもだけど、その時に寝惚けてると。
お姫様抱っこでソファーまで連れて行ってくれるんだよ、本当にカッコイイ。
鍵を開ける音が聞こえると、中からボサボサの髪の毛で、目を擦りながらチカチカが出てきた。
「どうしたの、カイ?そんな制服なんて着ちゃって」
「今日登校日だぞ」
「…………嘘でしょ?」
「本当だよチカチカ、コウさんが言ってなかった?」
「……………ヤバッ!」
チカチカは慌てて自分の部屋に入って行った、物凄い物音、そりゃ慌てるよね、どう考えても今からじゃ遅刻だもん。
チカチカはドアを少しだけ開けて顔を出した。
「先に行ってて良いよ、遅刻しちゃうだろ?」
戻るとまた物音が聞こえる、その時のチカチカの上半身は何も着てなかった、お兄ちゃんの前なのに大胆だなぁ、僕も見習わなきゃ。
「ツバサ、先に行ってて良いぞ、俺はチカを待つから」
「う〜ん、お兄ちゃんと行きたいけど、お兄ちゃんはチカチカと二人の方が良いよね!?うん!僕一人で行くよ」
僕はお兄ちゃんを置いてエレベーターに乗った、お兄ちゃんは僕よりもチカチカの方が好きなんだもん、やっぱり僕の一人よがりよりお兄ちゃんの幸せだよね、そんな僕って大人だよね?
いつもの人が少ない通学路、通る人が少ないからお兄ちゃんは好んで通る。
僕が一人で歩いてると、横を黒いベンツの4WDが通った、なんかあんな車に乗ってるってだけでカッコイイよね。
でもそのベンツはすぐそこで停まった、こんな普通の住宅街にベンツ?合わないっていうか家が惨め、ベンツの窓からはドレッドにサングラスの人が、あれはかの有名なハヤさんだ。
「ツバサちゃ〜ん、おはよー!」
「おはよーございます」
朝からカッコイイなぁ、お兄ちゃん程じゃないけどね。
僕はベンツの隣に行くと、ハヤさんは朝から爽やかな笑顔で缶コーヒーを飲んでる。
少ない光ヶ丘の生徒達は目を丸くして、僕とハヤさんを見てる。
「今からお仕事ですか?」
「そうだよ、ツバサちゃんは夏休みなのに学校?」
「登校日ですよ、もう最悪ぅ」
僕は朝から軽く不満をハヤさんにぶちまけた、こうやってグチらなきゃやってられないよ、お兄ちゃんもチカチカもコテツもいないんだもん。
「そんなムスッとしてたら可愛くないよ」
ハヤさんは僕の頭を撫でてくれた、これはハヤさんのクセ、お姉ちゃんにもマミコさんにもチカチカにもやってる、だから僕も慣れちゃった、可愛いってのはコテツでね。
「カイ君とチカ嬢は?いつも一緒じゃないの?」
「チカチカが遅刻しそうだから僕だけ先に来たんです」
「それなら学校まで送って行くよ」
「本当ですか!?」
「本当本当、早く乗って」
僕は喜んでベンツの右側まで走り、助手席に座った、ハヤさんは口だけ笑ってアクセルを踏む、目はサングラスで見えない、それが更にカッコイイ。
「そういえばマミコさん良かったですね」
「ありがとう、それにさ、マミコが喋れるようになった時のアオミの顔、本当に可愛かったよ」
やっぱりこの人おかしいよ、妹が治った事よりも、それで笑ったお姉ちゃんの方が気になってたなんて、マミコさんが可哀想。
「そうだ、これいる?」
ハヤさんはポケットから紙を2枚取り出した、僕はそれを受け取る、その紙は半年前に大ヒットした日本の映画の続編のチケット、しかも完成発表試写会のペア招待券、コレって応募とかでしか貰えないんだよね?
「お姉ちゃんと行けば良いじゃないですか」
「だってその日、アオミとマミコ達で遊びに行っちゃうんだもん、俺が持ってても持ち腐れだよ」
「応募したから貰えたんですよね?それなら勿体無いですって」
「違うよ、助演の女優さんに貰ったんだ」
確かこの映画の女優さんって、世界的に有名な映画祭で、助演女優賞を貰う程の人気若手女優さんだったような、…………ハヤさんってそんな人とも知り合いなの!?
「なんか俺に惚れてるみたいでさぁ、物凄い貢がれるんだ、アオミ連れて行ってギャフンと言わしてやろうと思ったんだけど、出来ないからあげるよ」
「そ、それならありがたく貰っておきます」
ハヤさんが嘘付けなくて本当の事をずけずけと言うのには慣れたけど、こんな芸能界のマスコミなら死ぬ気で手に入れたいような事を、一般人の可愛い女の子に言っちゃって良いの?
でもこんな事怖くて言えないよ、多分ニュースとかは四六時中この話題になっちゃうもん。
「しかもさぁ、この女優さん整形してるんだよ、耳の後ろとかメスの痕があるし」
なんか怖くなってきた、僕の読んでるファッション誌でもモデルとして出てるし、完璧な顔とか言われてたのに、まさか整形だったなんて。
「これは内緒だよ」
「い、言えないですよ」
「それもそうだね」
ハヤさんは笑いながら車を停めた、もう着いちゃったよ、やっぱり車は早いね。
「学校頑張ってね」
「ハヤさんもお仕事頑張って下さい」
僕は軽くお辞儀して車のドアを閉めるとあり得ないくらいの視線が、それに校門指導中のコウさんが思いっきり睨んでるし。
ハヤさんの車はあっという間に女子生徒に囲まれた、ハヤさんが苦笑いを浮かべてると、コウさんが人混みを散らしながらハヤさんに近寄った。
「ココで何してる?」
「未来の妹の送迎」
そっか!お姉ちゃんとハヤさんが結婚したら僕はハヤさんの妹になるのか、なんだか凄い嬉しいな、ハヤさんが有名人とかじゃなくて、こんな優しいお兄ちゃんがいたら幸せ、カイの方のお兄ちゃんも最高だけどね。
「あれ?コウの未来のお嫁さんは?」
その瞬間コウさんの目の色が変わって、ハヤさんの顎を思いっきり掴んだ、ってか超怖いよ、周りの女の子も冷や汗流しながら固まってるし。
「あれは違う」
「わ、分かったよ。
………でもさぁ、弱みを握られてるのはそっちだよ、俺の事は隠してないけど、コウの事はバレたらヤバいんじゃない?」
「だから、そういう関係じゃない」
「まぁ、コウがどう思ってようが、世間が見る目は違うからねぇ」
コウさんは舌打ちと共に手を離した、ハヤさんはそのまま車を走らせて、去って行った。
「鷲鷹」
「はい?」
「あんまりハヤと一緒にいるな、秘密なんだろ?」
何が秘密なの?別に僕とハヤさんとの間に隠さなきゃいけない事なんて無いし、お姉ちゃんにも隠せって言われてないもん。
そんな事を考えてると、コウさんに聞く事は出来ないと思って、僕の周りに皆が集まって来た。
「鷲鷹さん!あの蘭葉夜とはどういう関係なの!?」
「蘭さんが‘妹’とか言ってたわよね!?」
コウさんが言いたかったのはそれか、お兄ちゃんは僕とお兄ちゃん(カイ)が兄妹だってのを隠してる、でもお姉ちゃん(アオミ)と僕が姉妹だってバレると、お兄ちゃんと僕が兄妹ってのがバレちゃうんだよね。
「蘭真珠子さん繋がりだよ、あの二人って兄妹でしょ?」
「それじゃあ妹は!?」
「ハヤさんは冗談が大好きだから、これも冗談だよ、ねぇ、コウさん?」
コウさんは俺にふるなって顔をしてるけど、僕の脳みそじゃあどんなへまするか分からないからね、コウさんなら頭が良いしどうにかしてくれるはず。
「そうだな、アイツの会話の大半は冗談だ」
「じゃあ先生とはどういう関係なの?」
「俺とアイツは腐れ縁だ」
キャイキャイ騒いでる女の子達を、コウさんに全部押し付けて僕は教室に向かった。
ハヤさんは優しくてカッコイイ僕の2人目のお兄ちゃん(候補)、でもね、コテツには誰も勝てないよ、だって誰よりも僕の一番はコテツだもん。