青は見た
ユキとマミ姉が元に戻ってから、また昔のように4人で海にいるようになった、ボードは持って行くけど、話して終る事が多い。
その中でも一つだけ変わった事がある、それはユキとマミ姉の関係、今まではドライで大人な感じだったけど、今は常に引っ付いて離れない、その時の二人の顔はどんな時よりも眩しい。
そして触発されるように、チカは俺に寄り添ってくる、嬉しいけど、たまに迷惑なくらいにくっついてくるから考えモノだけどね。
「ユキ君、アオミちゃんの事覚えてる?」
「覚えてるよ、凄く綺麗なマミの親友でしょぉ?」
「……………綺麗?」
マミ姉の顔が一瞬で変わった、ユキが戻ってきてから、また見せるようになった悪魔、温厚なマミ姉がたまに見せる鳥肌モノの笑顔、笑ってるのにココまで怖い人もいないと思う。
「ほ、ほらぁ、一般的な意見だよぉ」
「今は信じてあげる」
ユキは冷や汗を流しながら笑ってる、マミ姉恐るべし、ヒノリも同じようなオーラを出すけど、マミ姉のは段違いに重い。
「それでね、アオミちゃんはカイ君のお姉さんなんだよ」
「嘘ぉ!?あのアオミちゃんがカイのお姉さん?」
「だってアオミも‘四色’じゃん」
「そういえばそうだねぇ」
先入観って凄いよな、まさかあの四色とこの四色が一緒なんて誰も思わないし、親に捨てられた俺に姉弟がいるなんて尚更、でも少しは疑問に思ってくれても良いのに。
「なんか意外だなぁ、カイはしっかりしてるからいても妹とかだと思ったぁ」
「ユキが思ってるほどアオミは立派じゃないよ、なぁ、マミ姉?」
「カイ君の前のアオミちゃんは可愛くて良いよ」
確かにアオミは俺に向ける顔と他人に向ける顔は全く違う、多分家でしっかりしたアオミだったら、俺はもう少し自分の事を考える人間になれたのかもな。
その後は俺やチカ、マミ姉やハヤさんコウさんの近況報告、ツバサが妹だった事や、ハヤさんがアオミに惚れた事、コウさんが俺らの学校の教師になった事、その他色々………。
「何かカイの周りってあり得ないくらいどたばただねぇ」
「カイって疫病神?」
「いやぁ、チカの方が疫病神でしょぉ?カイのそのほっぺたの傷だってぇ、入院したのもチカのせいでしょぉ?」
「そ、それは………」
「ユキは死んでるじゃん」
ユキとマミ姉は笑ってる、今はこの事も笑い事に出来るくらいになった。
その日は殆ど海に入らずに終わった、いつものようにマミ姉とチカ、俺とユキに別れた。
ユキと並ぶと分かるけど、コイツまたでかくなりやがった、見上げるとヘラヘラしてるけど威圧感がある、笑ってるから威圧感があるとか?
「カイ、聞いてる?」
「ん?あぁ、悪い、聞いて無かった」
「だからさぁ、俺サーフィンの世界大会に出たいんだけどぉ、迷ってるんだよねぇ」
そっかぁ、ユキにはユキの夢がある、でも今は時期が時期だから、マミ姉との間で迷ってるのか。
マミ姉は多分分かってくれると思う、でも悲しい顔をするんだろうな、ユキのタメならマミ姉は自分を殺す、それをユキは分かってるから悩んでるんだと思う。
「どれくらいで帰って来れるんだ?」
「場所にもよるけどぉ、最低で2週間くらいかなぁ、長いと1ヶ月くらい、波に慣れなきゃいけないんだよぉ」
「ユキはやりたいんだろ?」
「それが俺の夢だもん」
その笑顔は本当に輝いてた、マミ姉といる時と同じくらいの笑顔。
ユキがサーフィンの世界大会に出るのが、夢だってのは知ってた、前々からずっと言ってた事だし、俺もそれを進めたくらいだから。
でもタイミングが悪いだろ、せめてあと半年、それくらいはマミ姉と一緒にいてほしかった。
「行ってこいよ、でも、なるべく早く、終わったらすぐに帰って来い、マミ姉が悲しい顔するんだから」
「分かってるよぉ、その分、一番取って帰って来るからぁ」
ユキのその顔は自信に満ち溢れてる、俺は世界のサーフィンのレベルがどれくらいだか分からない。
でもユキなら‘もしかしたら’があるかもしれない、俺もユキも出処が分からないけど、それなりの自信があった。
だけど今はそれだけじゃダメなんだよ、ユキがいなくなって分かった、マミ姉は俺達が思ってる程強くない、だからユキに会えない苦しみに耐えられるか不安なんだ。
「マミって弱いよねぇ?」
「何で俺に聞くんだよ、ユキの方が知ってるだろ?」
「知らないよぉ、マミは俺の前ではそんなに弱みを見せないもん、今までの俺は‘死んで’会えなかったぁ、でもそれが‘生きてる’のに会えなかったらぁ、マミは俺に泣き付いてくれるかなぁ、って思うんだぁ」
ユキの歪んだ一面を覗いちゃったような気がした、ユキは間違ってもマミ姉を傷付けない、俺はそう思ってた、多分俺だけじゃなくて、チカとかもそうだと思う。
でも今のユキはマミ姉の全てを手に入れようとしてる、マミ姉がユキの前では強すぎる故に、ユキは満足出来ないのかもしれない。
「別にマミを泣かせようとかぁ、怒らせようとか思ってないよぉ、もう子供じゃないんだから自分の夢を追い掛けても良いかなぁ、って思ったんだぁ。
その過程でマミが傷付いたら、俺がマミをいつもより幸せにすれば良いんじゃない?それが出来なきゃいずれにせよぉ、俺とマミは終わりだよぉ」
俺はユキが考えてる事に、100%賛成は出来なかった、ユキはハヤさん程の自信家でもなければ、チカ程不安を抱えて生きてる訳でもない。
ただ確かめたいだけなんだ、もう子供のままじゃいられなくなった二人が、ちゃんとやっていけるかどうかを。
ユキは自信家でも無ければ不安でもない、ギャンブラーなんだ、全てをイチかバチかで決める、そんな危なっかしい奴、それが俺の知らない樹々下雪なんだ。
ユキ、俺はユキの夢は否定しない、ユキのやろうとしてる事も否定しない、でも、もうあんな寂しそうなマミ姉を見せないでくれ、マミ姉を笑顔に出来るのはユキだけなんだから。