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黒と白2

私達の夕食にはゼリーが付いてた、それは私達が一番に旅館に着いた証、私達は優越感に浸りながら、あっても無くても同じようなゼリーを食べた。


部屋に帰るとアオミちゃんは一人で本を読んでる、私達はカナコちゃんの持ってきたトランプで大富豪をする事にした。

でもやっぱり大富豪は人が多い方が楽しいよね、それに同じ部屋にいるんだから、一緒にやらなきゃね。


「アオミちゃん、一緒にやろう」

「私は遠慮しとく」

「そんな事言わないでやろうよ四色さん」


カナコちゃんがアオミちゃんの手を取った、アオミちゃんは渋々といった感じで、私達の輪の中に入る。


「何やるの?」

「大富豪よ」


アオミちゃんはふ〜んと言って、配られたカードを手に取った。


「で、大富豪って何?」


全員が唖然、今時大富豪はトランプゲームの定番なのに、高校になるまでには避けては通れない道のはず。

私達は全員で説明だけはした、でもやらなきゃ分からないという事で、アオミちゃんも同意の上で開始。




終わってみればアオミちゃんは大貧民、皆から笑いが無くなったけど、アオミちゃんは無言でカードを切って配った。

アオミちゃんは大富豪の私にカードを2枚くれた、私はそのカードを見て失笑、貰ったのはエースとキング、アオミちゃん、手札弱すぎるよ。


「アオミちゃん、もう一回最初からやる?」

「大丈夫、始めるわよ」


大貧民のアオミちゃんから始まった、まずは345の階段、誰も出せずにまたアオミちゃん、次は567の階段、当然誰も出せない、アオミちゃんは8で切って3二枚で上がっちゃった。


「あ、コレって大革命?」

「そうだね」

「アオミちゃん凄い!」

「でもマミコは大貧民だよ」


そうだ、私は大富豪だったから大貧民だ、でもやっぱりアオミちゃんは凄いよ、大貧民からアオミちゃんだけしかカードを出さないで終わり。


「簡単なゲームね」


アオミちゃんは私の配ったカードを受け取ると笑った、私が2を二枚アオミちゃんに渡し、アオミちゃんから来たのは7と10、強すぎ、運も人並み以上なんだ、羨ましいな。


その後もずっと続いた大富豪は盛り上がった、アオミちゃんの一人勝ちだけどね、全員で一番を狙ったのにアオミちゃんには勝てない、今日初めてやったとは思えない程の強さ、ずるいよ。


「アオミちゃん手加減してよ」

「私は初心者よ」


嘘だ、アオミちゃんは口が達者だから嘘なハズ、そう思わないとやってられないよ。


私達はお風呂に入るまでみんなで恋のお話を、女の子のお泊まりには必須、アオミちゃんは興味なさそうだけど。


「四色さんとか好きな人いるの?」

「あんな浅はかな生き物、好きになるに値しないわよ」

「そうかな?やっぱり女の子なら恋しなきゃ」


カナコちゃんは食い下がらない、カナコちゃんは人一倍そういう話が大好きだからね。

カナコちゃんが詰め寄ってもアオミちゃんは、そこまで嫌そうな顔はしない、少しでも打ち解けられたんだ。

カナコちゃんとアオミちゃんが一歩も、譲ろうとしてなかったその時、窓を誰かが叩いた、アオミちゃん以外の全員が驚いて、部屋の隅っこに寄ると、アオミちゃんは一人で窓際に行った。

窓を開けて下を見ると手招きをする、皆で恐る恐る窓から顔を出した。


「ユキ君!?」

「やっほぉ、暇だから来ちゃったぁ」


私とアオミちゃん以外全員が興奮しはじめた、ユキ君が来てくれたのは嬉しいけど、会うなら二人だけで会いたかったな。


「何で来たの?」

「他の奴らが抜け出そうとしたらバレちゃってさぁ、説教中だから俺一人でつまんないから来ちゃったぁ」


普通は女の子の部屋には来ないよ、私のため息とは別に、他の女の子がユキ君を部屋に入れちゃった、先生にバレたらお説教間違い無しだよ。


「何か女の子の部屋に入ってるっていけない気分だねぇ」


いけない事してるんだよ、カナコちゃんは大丈夫とか言ってあおってるし、なんだか憂鬱。


「マミため息多くない?」

「それはねぇ―――」

「ごめんマミコ!樹々下君と二人で会いたかったよね?」

「そ、そうじゃなくて!」

「樹々下君が非常識なんでしょ?」


私は首が落ちんばかりに頷いた、やっぱりアオミちゃんは救世主だよ、ユキ君は凹んでるけどアオミちゃんの言った通りだからね。


「何だよぉ、せっかくマミに会いに来たのにぃ」


ユキ君はいじけたフリをして口を膨らましてるけど、私はそれどころじゃない、顔が熱くてみんなにバレないようにするのが精一杯、皆は騒いでるけど私の耳には届かない。


「樹々下君ってマミコの事好きなの?」

「好きだよぉ」


私の顔は更に熱くなる、周りの女の子はキャーキャー騒いでるけど、コレって告白だよね?絶対にそうだよね?


「幼馴染みとしてでしょ?」

「そうだけどぉ」


何だ、そういう事か、ちょっとショックだな、それにアオミちゃんが積極的に男の人と話すなんで珍しい、喜ばしい事なのかな?




暫くの間ユキ君はみんなと話してた、でも他の女の子で笑うのが嫌だった、私って嫌な女の子だよね。


「じゃあ俺帰るよぉ」

「えぇ、もう帰っちゃうの?」

「もう少しいようよ」


ユキ君は苦笑いを浮かべて、窓から帰って行った、みんなは悲しんでるけどユキ君には他の女の子に近付いてほしくない、私の歪んだ独占欲、私の嫌いな一面、ユキ君の前だとそんな私が現れる。






次の日のオリエンテーション、私達は可もなく不可もなく、宿題だけは免除されそうなくらいで宝探しになった。

皆は血眼になって得点の書かれた紙を探してる、私は昨日の事を引きずって心ココに在らず、なるべく悟られないようにはしてるけど、やっぱり無理した笑顔になっちゃう。

得点は順調に集まりつつある、殆どアオミちゃんが見付けてるんだけど、アオミちゃんに言わせたら高校生の隠す所なんて高が知れてるらしい。


「その木の枝」


アオミちゃんが指差した先には紙の入った箱がある、でもあんな所にあったら誰も取れないよ、みんな木を揺らしたり石を投げたりしてるけど、落ちてくる気配は無い。


「みんな何してるのぉ?」

「ユキ君」


ユキ君は男子達を引き連れて歩いて来た、手を振る笑顔は私だけに向けられてるモノじゃない、それがこの1ヶ月で変わった事。


「何でも無いよ、ねぇマミコ」

「うん」


多分男子達に横取りされるのを恐れたんだと思う、男子ならこれくらいの木なら登って取れちゃうんだろうし。


「箱があるの」

「四色さん!?」

「言っちゃ駄目だよ四色さん」


アオミちゃんは木の枝を指差した、アオミちゃんの事だから取れないなら同じとか思ったのかな?でも、もしかしたら取れるかもしれないのに、勿体無い事したな。


「本当だぁ」


ユキ君はそのまま木に登った、すいすいと登って、やっぱり取れちゃった。

男子達は喜び私達は落胆した、ユキ君は降りてくると服の埃を叩いて、そのままアオミちゃんに箱を差し出した。


「何?」

「アオミちゃんが見付けたんだからアオミちゃんのでしょぉ?」

「あ、ありがとう」


アオミちゃんはユキ君から箱を受け取ると、それを両手で抱き締めた、ユキ君は男子達に責められてる。

その時のアオミちゃんの顔、それは浅はかな男を見る目じゃなくて、憧れやそれ以上の感情で見る目。

その時に私のユキ君の独占欲は、アオミちゃんなら、という諦めや譲渡に似た感情に変わりつつあった。




私達は何とか宿題は免れてバスに乗った、大半の人は疲れて眠ってる、カナコちゃん達も例外じゃない。

でもアオミちゃんはぼーっと窓の外を眺めてる、眠いってよりは更けてるって感じかな?

私にはその意味が分かるような気がする、否定したいけど内心喜んでる。

アオミちゃんが男の人を許しつつあるって事、アオミちゃんが男の人の事を毛嫌してたのは知ってた、だからユキ君でそれが無くなるなら、私が我慢すればアオミちゃんは恋出来るなら私は諦めようと思ってた。


「ユキ君良い人でしょ?」

「まともな人ね」

「ちょっと好きになっちゃった?」

「ば、馬鹿じゃないの?所詮男よ」


顔を真っ赤にして明らかに同様してる、アオミちゃんもこんな可愛い反応が出来るんだ、ユキ君ならアオミちゃんの闇も溶かしてくれるよ。




バスは学校に着くと生徒は散々に帰って行った、カナコちゃんは私の所に眠い目を擦りながら歩いて来た、私とアオミちゃんは軽く手を振る、でもその逆側からユキ君が歩いて来る。

ユキ君とカナコちゃんに板挟みになった私は自分の心を殺した。


「マミぃ、一緒に―――」

「ユキ君はアオミちゃんを送って行って!」


少し大きな声でユキ君の声を遮った、ユキ君の顔をなるべく見ないように下を向いて。


「私とカナコちゃんは同じ寮だから、アオミちゃんは一人暮らしで一人で帰らせたら危ないでしょ?だからユキ君が送って行って」

「で、でも、俺は―――」

「カナコちゃんも早く帰ろう!」


私はカナコちゃんの手を引いて足早にその場を去った、後ろからユキ君の声が聞こえたけど、軽く手を振って歩くのを速めた、‘幼馴染み’に大切な親友を任せて。




寮に着いて部屋に入ると、そのままベッドにうつ伏せに倒れた、寝返りを打って天井を眺めると何故か視界が歪む。

心の中では『友達のため』と割りきっていても、キモチは正直らしい、誰もいないのに作った笑顔からとめどなく涙が溢れ出す。

今泣けば明日は笑って二人と話せる、そしてアオミちゃんの事を本気で応援出来る、そんな気がした。






アオミちゃんを本当の笑顔に出来るのはユキ君だけ、アオミちゃんを底知れぬ闇から救い出せるのはユキ君だけ、だから私の恋は封印した。

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