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金の憂鬱

俺が部屋の所まで行くと扉の前にカイが座ってた、少し遠くからカイに鍵を投げると、カイは鍵をキャッチして部屋の扉を開けた。

俺とカイは同時に中に入ると、俺は先にベッドに座った。

カイはベッドの横に立ったまま俺を見てる、カイのこの表情は何か大事な事を考えてる時、特にチカちゃんやアオミさんの事を考えてる時の顔。

もしかして本当にチカちゃんの事で呼び出されたとか?でも俺に話すような事なんて無いよな。


「コガネ、コガネが俺よりも大事な人のためなら全てを捨てる事は出来るか?」

「ヒノって事?」

「コガネにとってはクリコだ」


カイは俺に何を言いたいんだよ?カイにとってはチビ?でもカイにとってのチビは弟分、自惚れじゃないけど俺と同等くらいだと思う。


「クリコのタメなら、カイを裏切る事も出来るかもな」

「じゃあ、俺、サッカー部を裏切る」


俺の思考はまだ追いつかない、でもカイが何か大きな決心をしてるのは何となく分かる。


「何かあったのか?」

「………………ユキ」

「あぁ?」

「ユキが生きてる」


ユキ?もしかして、でもカイの口から出てくる‘ユキ’は一人しかいない、それにその人は2年前に死んでる。


「ユキって樹々下さん?」

「あぁ、あのユキが生きてた」

「そんな冗談誰が信じるかよ」

「こんな嘘付くかよ」


カイは本気だ、少なくともこんな下らない嘘を付くような奴じゃない。

でもあの樹々下さんは確かに2年前に死んだはず、現にあの蘭さんはそのせいで言葉を失った。


「ユキが生きてたんだよ」

「分かった、それは信じる、それがどうかしたのか?」

「俺、帰る」

「いつ?」

「今から島に」


俺は一瞬カイの言動が理解できなかった、チカちゃんを我慢してまでこの大会に備えたカイが簡単に帰ると言ってる、そのカイがマジでそれを放棄しようとしてる。


「ユキ、記憶喪失なんだ、だから島に連れて行けば記憶が戻るかもしれない」

「今じゃなきゃいけないのか?」

「早くマミ姉に会わせたい」


分かる、蘭さんと樹々下さんは引き裂かれちゃいけない二人だ、もしかしたら蘭さんの言葉と樹々下さんの記憶が戻るかもしれない。

でも今の俺達にもカイは必要だ、二人を会わせるのにカイが必要なのも分かる。


「それにこの事を引きずりながら試合しても部に迷惑だ」


俺がココでキレてカイをぶん殴って、明後日の試合に出したとしても心ココにあらずだろう、むしろカイなら俺を殴ってでも行くかもな。


「俺さぁ、もっとカイとサッカーしたかった、カイがいたからストライカーに成れた、サッカーは好きだったけど、チームプレイが楽しくなったのもカイのお陰だ、これでも全国でも得点王を狙ってたんだから………」

「……………コガネ」

「俺の夢を踏みにじったんだ、後悔するなよ」

「ごめん、それにありがとう」


カイは荷物の準備をし始めた、カイにとっての蘭さんや樹々下さんの大切さは分かってる、カイが何度も話してくれたから、今のカイがいるのはチカちゃんと蘭さんと樹々下さんがいたからだって。


「でもカイの過去は隠せないからな、俺はカイみたいに口が達者じゃないからありのまましか言えない、部員達を納得させるのも事実を話すしかない、それでも良いのか?」

「あぁ、同情されるのが嫌だから黙っててもらっただけだ、それでアイツらが納得するなら話せ」


カイは大きなバックを肩に担ぐと立ち上がった、ゆっくりと歩きすれ違い様にごめんと一言謝って部屋を出た。

俺はベッドに倒れ込むとシーツを強く握る、怒りでも悔しさでもない、全国でカイとプレーが出来ない悲しみから。

俺が感傷に浸ってる時、忙しい携帯がまた鳴り響く、流石に今の俺には不相応なメロディだな。

電話の相手はヒノ、それから判断するにチカちゃんも帰ったんだろう、俺は迷わずに通話ボタンを押した。


「どうした?」

『コガネ、チカが帰っちゃった』

「カイもだよ」

『今から会える、何か寂しい』

「俺も会いたい」

『今から行くから待ってて』


あんなチカちゃんでも部長だ、いくらヒノでも大会前に部長がいなくなれば不安になる、それは司令塔を無くした俺にも言える事。


ヒノが来たのは電話から5分くらいしてからだ、俺が扉を開くと飛び込むようにヒノが抱きついて来た、こんなヒノは始めてかも。


「私、チカに部長失格って言っちゃった」

「はは、それは失敗だな」

「チカ泣いてた」


今年になってから泣き虫になったチカちゃん、カイ曰くあれが本当のチカちゃんらしいけど、泣きすぎなくらいだ。


「ツバサは笑って見送ってたのに」

「ヒノは間違ってない、ツバサ君も間違ってないし、こればかりは正解は無いだろ?」


ヒノは更に俺を強く抱き締めた、俺はヒノの背中を軽く撫でる程度。

多分誰よりもヒノは責任感が強いからだと思う、チカちゃんは頑張って部長をやっててそれで精一杯って感じ、ツバサ君は悩みを溜め込まないだろうし、でもヒノは全てを抱え込む性格だから、誰よりもチカちゃんを責めた事を悔やんでるんだろうな。


「コガネは大丈夫なの?」


ヒノは俺の胸から顔を離して上目使いで俺を見る、俺はヒノの頭を軽く撫でてやると少し落ち着いた顔になる。


「大丈夫な訳だろ、俺じゃチーム一つもまとめられない、俺の穴は埋まってもカイの穴は絶対に埋まらないのに…………」


俺がいなくてもこのチームは得点率が下がるだけだ、勝てないことはない、でもカイ一人いなくなるとこのチームは動かなくなる。


「でも、カイもチカちゃんも樹々下さんが必要なんだ」

「チームプレイでも?それがチームに迷惑をかけるとしても?」

「チームってのは一人を殺すもんじゃない、一人を全員がサポートするもんだろ?今はアイツらの貸しを作っておけば良いじゃん、次は俺らの番かもしれないんだから」


ヒノは静かに頷いた、あれだけチームを大事にするカイが決めた事なんだ、生半可な決心じゃないのは分かる、そうやって割り切るしかない、カイがいないせいで負けたとか言い訳しないように。


「ココで寝るんだろ?」

「大丈夫?」

「大丈夫に決まってるだろ」

「ありがとう」


問題は明日だな、ヒノには理屈が通じるけど、サッカー部の連中に理屈とかが通じたらどれだけ楽な事か、まぁいつもカイに尻拭いしてもらってるんだ、たまにはカイの尻拭いもしないとな。

この日はヒノと寄り添うように寝た、いつも冷静よ装ってるヒノでもこれだけはキツかったよな。










朝はヒノに起こされた、慣れたけどホテルってなが微妙、少しぎこちない感じでヒノは笑う、それはこの場所からかチカちゃんの一件から来るものかは分からないけど。

ヒノは俺を起こしてすぐに自分の部屋に戻って行った、俺は支度をしながらカイの事をどう説明するか考えた。

俺はカイみたいに口が達者じゃないから納得させるのは無理だろうな、それなら少しでも部員達が引きずらないようにするだけだ。



俺達は団体だから広間で飯を食う、皆朝っぱらからうるさい、まぁサッカー部なんて元気だけが取り柄だしな。

でもこの中でカイが帰った事を知ってる奴はいない、カイがいない事に気付いた奴すら少ない、チビやクリコは気付いてるけど、その他は数えるくらいだな。


ある程度皆が食い終った頃、正直言い辛いけど隠し通せるわけ無いもんな。


「皆に話がある」


それで俺の方を向く奴はそんなに多くない、大半はまだ大きな声で喋ってる。


「聞け!」


怒鳴ってやっと静かになった、全員が静かに俺の方を見る。


「昨日カイが帰った」

「冗談はよせ、四色が帰る訳ないじゃん、どうせ部屋にいて俺らを驚かそうとしてるんだろ?」

「遅刻が嫌いな俺がそんな冗談すると思うか?」


気まずい沈黙、明らかに同様する者、ヘラヘラ笑って流そうとする者、チビとクリコは前者だ。


「アイツの今の親は義理の親なんだ、中学生の頃に実の親に捨てられて今の親に拾われた、その時に義理の兄になった奴はフェリーの事項で死んだハズだったんだけど、記憶喪失になって生きてたらしい、それでそいつのタメに島に帰った」


大半の者達が苛立ち始めた、そりゃそうだろ、帰る理由には不十分もいいところだ、俺が部員側だったらキレてるだろうし。


「カイにとって義理の兄は恩人の一人なんだ、今お前らに納得のいく説明は出来ない、でもカイ一人いないくらいで俺達は弱くならない」

「でも四色は司令塔だぞ、司令塔がいなくて試合が出来るわけないだろ」

「前にカイがいなくなった時は勝てただろ、俺らはカイが中心のチームじゃない、カイがいれば強くなるだけだ、俺らはカイが帰った事に腹を立てるよりも今やれる事をやる、それでもムカつくんなら帰ってカイをぶん殴れ」


多少元気が戻った、チビ以外のモチベーションは悪くない、チビの落ち込み方はかなり大きい、誰よりもカイに支えられてたからな。

もうカイが帰った事を悔やんでも、苛立ってもしょうがない、俺達がやる事は精一杯プレーするだけ。






ヒノは大丈夫か?俺の方は何とかチームがまとまった、辛かったらもう一回俺が愚痴聞いてやるから、もう抱え込むな。

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