青に降る雪
昨日の試合で勝ち、今日の練習は一段と活気があった、まぁ活気は勝ちから来たモノだけじゃ無いんだけど。
今日、俺達を撮りに記者とカメラマンが来て写真を撮ってた、俺らの学校、光ヶ丘の特集を組むらしく部員やクリコに俺やコガネ、チビの印象を聞いてた。
今日も色々あってチカ達に会えなかった、暇だからコテツを呼ぼうとしたんだけど、コテツは一人で稽古するから来ないとのこと、コテツは空手の事だけは本気らしい。
俺は次の試合のチームの情報や今日の試合の映像を見て明日の作戦を練ってる、コガネに言わせればいつも同じらしいけど、正直コガネがそう言うのも一理ある、殆ど俺の動きが変わるくらいだから、特にコガネに影響は無い。
「カイ、携帯鳴ってるぞ」
「本当だ、サンキュー」
「大会中くらいチカちゃんから離れろよ」
「お互い様だろ?」
コガネは笑って流すとテレビに目を移す、携帯のディスプレイを見るとチカじゃない、相手はチビだ。
《今暇ですか?良かったら来て欲しいんですけど…………》
もうそろそろ寝ようと思ってたのに、まぁ良いか、チビだって一人で心細いんだろうな、俺もいくらコガネでも野郎とずっといたら疲れる、一応チビは女の子だから少しは息抜きになるか。
「コガネ、ちょっと………」
「スー、スー、スー」
爆睡、俺は仕方なく鍵を持って部屋を出た、オートロックだからコレを忘れたらまず部屋には入れないだろう、コガネを起こしたらうるさそうだし。
俺はチビの部屋に行きノックする、にしても熱い、今の俺の服装はタンクトップにハーフパンツだけど熱い、湘南の夏恐るべしって感じだな。
扉は静かに開くとパジャマ姿に大きな枕を抱いたチビが、不覚にもその上目使いを可愛いって思った、寝る前らしく前髪を上げてるから中学生の時のチカに似てる。
「どうした?」
「さ、寂しくて………」
「寝れないのか?」
チビはゆっくり頷いた、まぁチビの秘密を知ってるのは俺だけだし、まぁ少しくらいなら良いか。
俺は中に入るとチビはベッドに座った、俺も隣のベッドに座ると暫しの沈黙。
「寝れば?」
「え?あ、はい」
「どうした?」
「いや、考えてみれば四色先輩は男ですし、私は女じゃないですか………」
チビは俺とチビ子のまでしか『私』って言わない、つまり俺の前だけでは女ってこと、微妙に気になるけど、いちいち気にしてたら普通にできなくなる。
「じゃあ帰るよ」
「それはダメです!」
立ち上がった俺の腕を掴んで必死に止める、こういう必死な顔や上目使いが昔のチカに凄い似てる。
俺は渋々ベッドに座るとチビは大きな枕を抱いて、目から上だけを出して俺を見る、本当にチビは女の子なんだな。
「………見すぎ」
「す、すみません」
「いや、悪いのは親だから」
ヤベェ、何でこんな意味の分かんない会話してるんだろ、ってか何で俺はチビにテンパってんの?長い間チカに会ってないからだ、何か俺が虚しい雄になってきた。
「どうしたんですか?顔が真っ赤ですよ」
一人の世界に入ってた俺の視界いっぱいにチビの顔が広がる、俺は後ろにうつ伏せに倒れるとベッドを殴って理性を抑えた、外れかけたリミッターが悲鳴を上げてる。
「大丈夫ですか四色先輩!?」
うつ伏せになってる俺の肩を叩きながら耳元で喋ってる、俺は無意識にチビをベッドに押し付けて、手を着いて覆い被さる形になった、そこには脅えるような不安なようなチビの顔がある、その表情が初めての時のチカとシンクロする。
「し、四色先輩?」
俺は壊れそうな理性を必死に止める、今俺の理性が飛んだらチビに何をするか分からない。
自分でも信じられないくらい飢えてる、最近チカに会っても疲れててあんまり長くいれない、だから女ってモノに飢えてるのかも。
「ご、ごめん」
俺は必死に堪えてチビの隣に仰向けになった、でもチビはそこから動こうとしない。
「ごめんな、嫌な思いさせて」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない」
今は落ち着いたけどさっきはヤバかった、前々から分かってたけどここまでヤバかったは初めてだ、いや、今まではそこまで抑える必要が無かったのかも、でも今日はまるで体と頭が全く違う生き物みたいだった。
「醜い事して悪かった」
「気にしないでください、四色先輩も男なんですから」
その生々しい言葉が俺に突き刺さる、そんな俺の罪悪感とこの場の気まずい空気を払拭するように携帯が歌う、相手はチカ、ココまでチカの電話に救われたのは初めてだ。
「もしもし」
『カイ?あのさ、今から―――』
「会いたい」
『えっ?』
「今から会いたい」
『う、うん、アタシも』
「じゃあ今からロビーに来て」
そのまま電話を切った、チビは悲しそうな目で俺を見るけど、今の俺といるよりは一人の方が良いはず。
「そういう事だから、ごめん」
「は、はい」
俺はチビの頭にそっと手を置いて撫でた、この髪の毛の長さも昔のチカとシンクロする、今のチビといると俺がおかしくなる。
「…………チビ」
「はい?」
「可愛いな」
チビは顔を真っ赤にして枕を引き寄せて抱いた、俺はそんなチビを残して部屋を出た。
部屋には何故かコガネがいなかった、多分ヒノリの所に行ったのかな、俺はチビに鍵を預けてその事をコガネにメールを送ってロビーに向かった。
ロビーの椅子にはチカが座ってる、時間も時間だから人は皆無。
チカは俺に気づくと立ち上がって手を振る、でもいっぱいいっぱいな俺は速足でチカに近寄り、そのまま抱き締めた。
「………会いたかった」
「か、カイ!どうした!?」
「分かんない、分かんないけど物凄くチカに会いたかった」
俺はチカの肩を掴み軽く離してそのままキスした、少し強引だけどチカは受け入れてくれた、こんな事でチカを使うのは嫌だけど、今の俺にはチカを想って理性を抑える程余裕もない。
「…………ごめん」
「何で謝るんだよ?」
「無理矢理キスしたじゃん、流石に嫌だよな?」
「いつもなら殴ってるかもしれないけど、アタシも寂しかった」
真っ赤になったチカをもう一回抱き締めた、今度は更に強く。
「カイ、苦しいよ」
「ごめん、でもチカと離れたくない」
「まともに会えなかっただけだろ、大袈裟だよ」
確かにそうかも、二人共部活を優先しただけで意図的に会えなかっただけ、俺もチカも1週間くらいはしょうがないと思って部活に専念した。
でも俺がココまで弱いとは思わなかった、弱い俺には1週間は長すぎる。
「俺、こんなにチカが好きだとは思わなかった」
「………う、うん」
「俺、チカがいないとダメっぽい」
俺はチカを離してチカの顔を見た、さっきのチビは昔のチカに似てた、でも今のチカはそれよりも大人っぽい、変わらないと思ってたチカも変わってるんだ、一人ぼっちだった俺も一人がダメなくらいに変わってる、人の心も体も変わるんだな。
「カイ、コンビニ行かない?」
「良いけど遠いよ」
「カイと歩きたい」
「それなら喜んで」
俺はチカの手を取って歩き出した。
外に出ると夏の夜の湿気が篭ったムッとした暑さ、でも暑い夏はチカやユキ、マミ姉といた中学生の頃の夏を思い出す。
あの頃は毎日が楽しかった、今も当然楽しいけどあの頃は何にも追われずに自由があった、初めて居場所を見付けて全部が新鮮、俺は初めて幸せってモノを感じたのかも。
「カイ、部活が終わったら島に戻ろう、マミ姉も待ってるし」
「あぁ、サーフボードも使って無いからすねてるだろうな」
「そっか!カイ、マミ姉のボディーボードが見れるかも」
「そうだな、去年はマミ姉の休みと俺らの休みが合わなかったから一緒に休めなかったんだよな」
マミ姉も今なら待っててくれる、人の心や外見は変わっても根本は変わってないはず、変わったと言えばユキが死んだ事くらい。
「命日もみんなで出来るよな?」
「当たり前だろ、勝手に死んだ罰として墓前で思いっきり騒いでやるか」
「マミ姉にも手話で皮肉言ってもらおう!」
本当に、勝手に死にやがって、チカのいじられは誰がやるんだよ?俺の義兄は誰がやるんだよ?マミ姉の好きな人は誰がやるんだよ?
「コンビニ遠いな」
「湘南の外れだからな、十分田舎だろ」
「でもサーフィンには最高の場所なんだよな!?」
「まぁ日本でもトップクラスのサーフポイントだからな」
でも海は汚いんだよな、確かに見た限りだと良い波があるんだけど、海が汚いと気持ちがなえるよな、島の方が若干波は小さいけど水が綺麗だから気持良い、日本で水質と波を両立出来るような場所は無いんだけどね。
「ボード持ってくれば良かった」
「おとぉの知り合いでいるんじゃない?ここら辺でボード貸してくれる人」
「そうだな!カイ、終わったらまずサーフィンだ!」
「了解、了解」
そういえば俺らのデートって大体がサーフィンだったんだよな、変なもんだけどそれしか無かったんだ。
俺らは話しながら歩いてたらあっという間にコンビニに着いた、昼に行った時は10分以上掛ったのに、今は短いくらいだ。
「うわぁ、冷房が涼しい!」
「いらっしゃいませぇ」
俺とチカはレジを打ちながら独特の口調で喋った男を見て固まった、真っ白なミディアムの髪の毛、小麦色の肌のアイドルのような爽やかな笑顔、モデルのように長い手足の長身。
俺らがこの男を見間違う訳が無い、いくら髪型が変わったとしても分かる、さっきまで話題の種だった死んだはずのアイツ。
「…………ゆ………き?」
「……………ユキ!」