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翠の憂鬱

私もこの学校に赴任してから2年目だ、生徒達も話し易くて良い学校だと思う。

私はテニス部の顧問をやっている、この学校のテニス部の顧問は私だけだから男女一緒に教えなくちゃいけない、それが悩みの種だ。


「はぁ」

「どうしたんですか?ため息なんて」

「潤間先生か」


潤間先生、私のクラスの生徒のお兄さんだ、今年から赴任になったばっかりなのにもう女子生徒から人気がある、確かにカッコイイけどこの冷たい目が嫌いだ。


「ちょっと悩みがね」

「聞きましょうか?暇ですし」


悩みを聞いてくれるのは嬉しいけど一言多い、しかも内心めんどくさそうだし、まぁ話すだけなら良いか。


「実はテニス部の顧問が私だけでキツイんだ、男の顧問がいれば楽なんだけどな」

「俺がやりましょうか?」

「えっ?」

「テニスなら高校と大学でやってましたから」


救世主発見!この人にお願いするのは気が進まないけどこの際関係無い、背に腹は変えられないよ。

私は潤間先生の手を取って立ち上がった。


「是非とも!」

「じゃあ放課後、よろしくお願いします」


ヤッター!これで私の荷が降りる、いっそのこと全部任しちゃおうかな、いやいや、やっぱりそれはダメだ、可愛い生徒をあんな野郎に売る事は出来ない。




放課後、潤間先生はスーツのズボンにTシャツという即席の格好で現れた、不覚にもカッコイイとか思ってる私に自己嫌悪した。


「みんな集合!」


私が声を張り上げると全員集まってきた、潤間先生を見るや否や女子部員はキャーキャー騒ぎだす。


「男子テニス部の顧問になった潤間先生だ」

「潤間紅、俺はぬるい練習が大っ嫌いだ、やるからには全てに全力で挑め、それが出来ない奴は辞めろ」


この人上司と生徒に対するギャップが激しい、しかも全てが命令口調、まぁ男子の方だし私には関係無いから良いか。


「お前ら、今から一人一回ずつ俺と打ち合え、どんなかたちでも1ポイント入ったら交代だ」


潤間先生はコートに立った、現役の選手相手に引退した英語の先生が宣戦布告してどうするの、負けたらそれで信用はゼロよ。

女子は全員が見いってる、その中に私も入ってるんだけど。




終わってみたらビックリ、誰も歯が立たない、決して部員達が弱い訳じゃないと思う、去年は都大会でベスト8まで行ったし。

潤間先生って本当に強いんだ。


「お前らなんだこれは?俺はお前らを勝たせるタメに鬼になる、勝ちたい奴だけ残れ、確実にお前らを強くする」


女子部員の悲鳴にも似た声がこだまする、ダメだ、私もドキドキする、自分勝手で自信過剰で冷たくて、私の大っ嫌いなタイプなのに何でドキドキしてるんだろう。




部活も終わり生徒も教師も殆ど帰った、私も着替えて職員玄関で靴を履き替えてる時、またあの男が。

誰もいないのを良いことにくわえ煙草、ネクタイしないでYシャツのボタンは大きく開いてる、仮にも教師なんだから身なりくらいきっちりしてよ。


「校内は禁煙だ」

「別に、もう俺とあんたと清掃の人しかいない、それともあんたが誰かに言いつけるか?」


何この人、仕事が終わった途端にあんたよばわり?確かに同じ歳だったけどココでは私は上司なのよ、上司にあんたとは。


「潤間先生、仮にも私は上司だ、上司に向かってあんたは無いだろ?」

「いつまで上司でいるつもりだ、時代錯誤もいい加減にしろ、仕事が終わったらただの男と女だ、それ以上でも以下でもない」


男と女?この人は私をそういう目で見てるの?いや、違うな、表現の一つなんだろうな。

潤間先生は携帯を見ると舌打ちをして閉じた、そして何かを考えた末に。


「ミドリ、飲みに行くぞ」

「み、ミドリ!?」

「あんたが嫌なんだろ、三柴じゃ学校と変わらない、あんたかミドリ、好きな方を選べ」


何この人、おかしい、絶対におかしい、ってかやっぱりムカつく、何でコイツと飲みに行かなきゃいけないんだよ。


「何で潤間先生と飲みに行かなきゃいけないの?」

「その潤間も辞めろ、チカとごっちゃになるだろ、俺はプライベートに仕事を持ち込むのが嫌いなんだ、コウって呼べ、それ以外はシカトする」

「こ、コウ、何で私が付き合わなきゃいけないの?」

「チカの帰りが遅くて俺が暇だから」


自分勝手、自己チューの見本がココにいる、こんなのと飲んだら悪酔いするってぇの、こういうイライラしてる時は一人で居酒屋が通例なのに。


「ボケッとしてるな、行くぞ」

「あっ!ちょ、ちょっと!」


コウは私の手を無理矢理掴んで歩き出した、でも何、今のドキッて、何で手を繋がれたくらいでドキドキしてるの、大人になってこんなのって情けない。




コウが連れて来たのはオシャレなバーだった、悔しいけど物凄い似合ってる、なんか絵みたい。

ちなみにココに連れて来られるまでずっと手を握られてた、そのせいかずっと無言で歩いてたと思う、正直何も考えられなかった。


「飲めよ、俺の奢りだ」

「金くらい私も持ってる!」

「無理矢理連れて来たのは俺だ、それに俺の目の前で女に財布を出させるのは、俺のプライドが許さない」


くだらないプライド、でもカッコイイ、ってウソウソ!前言撤回、こんな奴1ミクロンもかっこよく無い!


「何一人で焦ってるんだ?」

「あ、焦ってなんかいない!」

「そうか?顔が真っ赤だ、常にそうしてれば可愛いのにな」


可愛い?私が?って待て、常にって事はいつもは可愛く無いって事だろ、やっぱり一言多い。

私は一気にお酒を飲み干した、そしておかわりと一言。


「なぁ、何で体育教師なんだ?」

「好きだからよ、コウもそうでしょ?好きだから英語教師になったんでしょ?」

「違う、俺は英語の楽しさを知って欲しいからだ、今の世の中英語は必須科目だ、でも嫌いなモノを無理矢理やらせたら嫌いなまんまだろ、嫌いだからイコール出来ないと勘違いする奴らばっかりなんだ、だから楽しければ皆は英語を覚えてくれる、俺は教えるんじゃなくて伝えたいんだ」


またドキッとしちゃった、今回は認める、コウがメチャクチャかっこよく見えた、でもコウの理由を聞いたら私の理由がちっぽけに思えてきた、散々偉そうな事言っておきながら私の方がダメダメじゃん。


「でも純粋に好きっていうのも俺は羨ましい、理想があるからその理想を生徒に押し付けてる自分がいるんだ、楽しければそんな事も無いだろ?」


私をかばってくれたの?そんな事ないよな、この人にかばえるほどの優しさがあるとは思えない。




そこから記憶が曖昧になった、気付いた時には朝になってて自分のベッドの上に寝てた。

二日酔いでガンガンする頭を抱えながから水を一杯飲んだ、そして仕事を休む口実を探してる時、机の上の一枚の紙が目に入った。


《悪い、勝手に家に上がった、二日酔いが酷いと思うから俺にメールなり電話なり入れとけ、ミドリに言い訳を考えられる頭は無いと思う


コウ》


やっぱり一言多い、でもコウの電話番号もアドレスも知らないんだけど、アイツにも抜けてるところがあるんだな。

私は学校に電話しようと携帯のアドレス帳を開いた、そこで私の目は点になった。


《潤間紅様》


自分に様を付けるかな普通、しかもなんで名前の順で一番上に?もしかして。


《アアア》


読み仮名これ?これは一番上になるよ。

私はコウに休むとだけメールを送っておいた、そして置き手紙は手帳の中へ、私とコウの最初の思い出、アドレスもずっとこのまま。

驚いて頂けたでしょうか?いきなり三柴翠、新キャラから始まりました。

物語を動かす上で早めにこの話しは書きたかったんです、全く正反対の二人がどうなるのか、楽しみにしてて下さい。

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