青と全国
全国大会、俺らは今全国大会に出るためにバスで神奈川を移動中、俺とコガネは内心かなり楽しんでるけど、クリコやチビを筆頭として殆どの部員が緊張してる。
俺とコガネは勝っても負けてもそこまで関係無いし、楽しまなきゃ損じゃん、まぁコガネは何となくサッカーで進学とか考えてるらしいけど。
チビは緊張のあまり顔面蒼白、元からクリコは全国までの隠し玉だったけど、谷口が何故か学校を辞めたから極自然にスタメン入り、そしてそんなチビを見てクリコも顔面蒼白、二人共まだ1年だし全国は少し大き過ぎだけど、何とかなるだろ、コガネは緊張感の欠片も無く隣で爆睡してるし。
「し、四色先輩、僕の部屋はどうなってるんですか?」
前の席に座ってるチビが後ろを向きながら話しかけてきた、チビは一応女の子なんだよな、いくら女扱いしないって言ってもコレばかりはどうにもならないし、クリコと一緒ってのもクリコがチビを好きじゃなきゃ出来るんだよな。
「一人じゃダメか?」
「はい、それでお願いします」
いくら何でも一応高校生だから気にする事も無いか、クリコもしょうがなく一人部屋になってもらったし。
「チビちゃん、何で一人が良いの?」
隣にいたクリコも同じように膝立ちになって話しかけてきた、こうやって並べて見ると女子高生が二人にしか見えない、チビが男っていう先入観が無かったら間違っても男には見えない。
「そ、それは…………」
「体に大きな傷痕があるから他人に見られたくないんだって」
「そうなんですか?何でチビちゃんはマネージャーの私に言ってくれなかったの?」
「そ、それは…………」
「言えないような所にあるから」
クリコは顔を真っ赤にして下を向いた、何よりも真っ赤にしてるのはチビの方、まぁ一応女の子だし色々想像しちゃったんだろうな。
「そ、それにしても五百蔵先輩の寝顔可愛いですね」
クリコが無理矢理話題を変えた、寝てる時は誰でも可愛いもんだからな、特にコガネは男の俺から見ても綺麗な顔立ちだし、何もしなくても良い男ってやつ?
「うらやましいくらい肌が真っ白」
「死んでるみたい」
チビの言うのも分かる、道端でこのまま倒れてたら間違いなく死体に思われるだろうな、髪の毛ツーブロックにして立てて剃り込み入れて、ピアスを大量に着けてるから怖く見えるけど、多分コイツ程女装して様になる奴はいないはず。
「本当に可愛い………」
「クリコ、五百蔵先輩に惚れたの?」
「惚れてないよ!」
チビ、君も女の子なんだから女心ってものを分かってやれよ、女の子なのに鈍感ってのもかなり痛いぞ。
「海外のお人形さんみたいですね」
「でもある意味怖い人形、僕は欲しく無いや」
「春日先輩は毎日こんな綺麗な顔を見て寝てるんだ」
「春日先輩と五百蔵先輩ってそういう関係なの!?」
チビの驚き方が尋常じゃない、まぁ高校生が同棲なんてしてたら普通に驚くよな、俺的にはクリコがコガネとヒノリの同棲を知ってた方がビックリだけど。
「そうなの?いつから?」
「知らないけど、毎日抱き合って寝てるらしいよ」
「うわぁ、僕鼻血が出そう」
尾が生えた、俺的には面白いから訂正しないけど、コガネが知ったらキレるだろうな。
「チビちゃん、五百蔵先輩で興奮しないでよ」
「だ、だってぇ、僕には刺激が強すぎだよ」
「まだまだお子様なんだから」
「……………るせぇな」
コガネがゆっくりと目を開けた、それと同時にクリコとチビから笑顔が消える、コガネは舐め回すように周りを見るとクリコとチビを睨んだ。
「人が寝てるのに、邪魔しやがって…………」
コガネがキレ掛ってる、クリコとチビは静かに席に座るとピクリとも動かなくなった、コガネはお構いなしに立ち上がり、上から覗いてクリコとチビの頭を掴んだ。
「人の眠りを妨げといてタダで済むと思うなよ?」
「ち、チビちゃん、男の子なんだから助けてよ」
「えぇ!?全部クリコがいけないんだろ?」
「チビちゃん酷い!五百蔵先輩、チビちゃんこんな可愛い顔して実は悪魔なんですよ、さっきも寝てる五百蔵先輩に悪戯してたんですから」
「本当かチビ?」
「ううう、嘘ですよ!僕が五百蔵先輩にそんな事するわけ無いじゃないですか!クリコも嘘つかないでよ」
コガネは一気に疲れたらしく、勢いよく座ると再び目を瞑る、10秒くらいすると小さな寝息をたてはじめた、よくこんだけ早く寝れるな、既に神業の領域だよ。
「何で嘘ついたんだよぉ?」
「ほら、女の子を守るのが男の子の仕事でしょ?」
「だからって僕を売らないでよ、五百蔵先輩怖いんだから」
その後も二人の会話は続いた、キャイキャイ騒いでるけど、これから修学旅行に行くんじゃないんだけどな、まぁこの二人はある意味部のムードメーカーだから良いか。
ホテルに着いてから近くの中学校に移動して練習をした、終わってホテルに戻ってからは自由、自由って言ってもこんな所だからホテルにいるしか無いんだけどな。
ホテルの部屋割は二人で一部屋、クリコとチビは例外だけど、俺はコガネと同じ部屋、明日からはコテツとチカ達バレー部も来る、俺らは明日から試合。
「明日のスタメン、最後の一人はやっぱりチビなのか?」
「当たり前だろ、そのためにスパルタしてきたんだから」
「言っちゃ悪いけどチビが全国に通用しないと思う、カイもそんくらい分かってるだろ?」
「多分他の学校に行ったらベンチにすら入れないだろうな、でも俺やコガネには必要なんだよ」
コガネはまだ理解出来てないらしい、でも俺がチビを育てたのはチビにその素質があったから、パスセンスと体力しか無かったチビだけど、俺にはその二つが必要だった。
明日の試合、会場に来てる奴らをあっと言わせてやる、コガネと俺とチビの縦のライン、最高に沸かせてやる。
インターハイ第一回戦後半、1−0で俺らが勝ってる、流石全国と言った感じだけど支配率は70%を超えてる、それでもコガネは納得いかないらしい。
まぁ得点王を取ってるから周りのマークが厳しいのは当たり前、1点もコーナーキックから俺のヘディングでだし。
「カイ、全部俺に回せ、後半は絶対に入れる」
「コガネじゃ無理だ」
「あぁ!?」
コガネは俺の胸ぐらを掴んで睨んでくる、周りの空気は一気に凍り、相手の選手はクスクス笑ってる。
「どうすれば良いか俺をしっかり見てろ」
「偉くなったな、素人だったくせに」
「でも俺の作戦が無かったらコガネは得点王すら取れなかったぞ」
「チッ、好きにしろ、だから俺も好きにさせてもらうからな」
「ご自由に」
コガネはイライラしながらピッチに立った、今笑ってるのは相手選手と俺だけ、コッチの奴らは気まずい空気にあたふたしはじめてる。
後半が始まるとコガネは案の定俺の指示を無視した行動、マークを振り払おうとするけど外れるわけがない。
チビから俺にふわりとしたパスが通るとチビは上がる、俺は中盤辺りで一旦止まると、チビがフリーになりチビにパスをする。
ディフェンスのチビは前線まで上がると、後ろにいた俺にヒールパス、それをダイレクトでロングシュート、でもゴールポストに当たり入らなかった。
その時フリーになってたコガネは芝生を思いっきり蹴り飛ばした。
再びチビが中盤辺りでボールを持つと、俺にスルーパスを出す、チビから俺のパターンはこの試合でシュートに繋がる確率が高い、それに気付き始めた相手はコガネのマークも離れ、俺とチビにマークが付く。
俺はギリギリまで上がるとそのまま逆サイドにパスを出した、そこにはフリーになったコガネがいる、コガネは一瞬ポカンとしたが、すぐに超高校レベルのスピードでゴール前まで走ると鋭いシュートがゴールネットを揺らした。
コレで2−0、全員がコガネを無視してたからコガネを含めた全員が驚いてる。
俺はコガネの所に走り寄ると軽く小突いた、コガネは笑って俺の腹を軽く殴る。
「すっかり騙された、全部演技だったんだろ?」
「当たり前だろ、このチームの奴らは作戦伝えると皆顔に出る、特にコガネは動かない可能性があるから頭に血が昇ってるくらいが丁度良いんだよ」
「流石カイだ」
俺とコガネはハイタッチして戻る。
第一回戦は3−0で快勝、チビを起点として俺とコガネのワンツーやセンタリング、スルーパス等で完全に俺達のペース。
最後の1点はチビのループシュート、俺以外の全員が度肝を抜かれた、クリコに至ってはベンチの隅で嬉し泣き、高校サッカーの雑誌編集者の表情が変わったのも俺は見逃さ無かった。
案の定ベンチから出ようとした時に雑誌の取材が来た、呼ばれたのは俺とコガネとチビ、チビは一人でテンパってたけど、クリコに背中を押されて俺とコガネの間に入った。
「まずは1勝おめでとう」
「ありがとうございます」
「……………ざいます」
「え〜と、あ、ありがとうございます!」
コガネは初対面だし疲れてるから不機嫌そうに見える、でも本当はかなり嬉しいんだろうな。
「快勝だったけど、その事についてどう思う?」
「快勝?」
コガネが嘲笑うように鼻で笑った、確かにコガネが馬鹿にする理由も分かる。
「まぁ得点的には快勝ですけど、うちの持ち味が出たのは後半20分くらいからですね」
「それは五百蔵君のゴールから?」
「そう、本来ならあと2本くらい入ってもおかしく無かったですね、まぁ初戦ですしまだ堅さが残ってましたね」
コガネも小さく頷く、今日の相手はそこまで強く無かった、まだ予選の方が強かったな。
「あと君、ちょっと資料に無いんだけど………」
記者は紙をペラペラ捲りながらチビと紙を交互に見る、チビは顔を真っ赤にしてうつ向いた。
「ちょっと自己紹介してもらえるかな?」
「え、え〜と、1年のディフェンスで黍野祐希です」
「へぇ、1年生なんだ、重圧が大きかったでしょ?」
「はい、でも四色先輩がサポートしてくれたから安心して出来ました」
「俺は?」
忘れられたコガネに皆が笑った、チビは必死にコガネに頭を下げてる。
「でも司令塔でもある四色君は高校に入ってからサッカーを始めたんだよね?」
「はい、運動部に入ろうと思ってた時にコガネに誘われたんで」
「素人から2年ちょっとで全国レベルのチームを引っ張れるってのはやっぱり才能だよね?」
「そんな事ないですよ、体力と判断力が人よりあるだけでテクニックなんて素人に毛が生えたくらいですから」
記者は笑いながら紙を捲ってる、コガネは欠伸してつまらなそうにしてる。
「五百蔵君はテクニックもスピードも全国でトップクラスだけど、やっぱりプロのクラブに入りたいとか思ってるのかな?」
「別に、それにカイがいるから自由に出来るだけで他に行ったら合わないかも」
「それは五百蔵君のレベルに着いて来れないって事?」
「いや、テクニック云々じゃなくて相性でしょ?」
俺もコガネがいなきゃただの素人だろうな、それ以前にコガネがいなきゃサッカーなんてやって無かっただろうし、コガネ様々だな。
「明日練習見に行っても良いかな?」
「良いですけど変わった事はしてないですよ」
「写真が撮りたいだけだから」
「俺は良いですけど」
「僕も大丈夫です」
「邪魔しなきゃ良い」
「じゃあよろしくね」
そのまま記者は消えて行った、チビは疲れたらしくその場に座りこんだ、それと同時にクリコが後ろから走ってきた。
「大丈夫チビちゃん?はい、コレ」
クリコは飲み物をチビに渡す、コガネも受け取ってそのまま帰って行った、俺も受け取るとクリコはチビに手を差し出した。
「頑張ったね、私感動しちゃった」
「大袈裟だよ、でもありがとう」
「次も頑張ってね」
「うん」
「そこのお子様カップル、次の試合が始まるから早く帰るぞ」
クリコとチビは顔を真っ赤にして俺の後ろを着いてきた、チビはクリコをどう思ってるのかな、クリコの中でチビは男の子だから好きになる理由は分かる、でもチビの反応も満更じゃない様子、チビは一応女の子なのに。
これから俺らが大きな波を起こす、でもサッカーばっかりやってないで少しはチカに会いたいな、今はチカも大事だけどサッカーも大事、もう少しの辛抱だな。