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赤と誕生日

今日は大切な記念日、っていってもアタシのでも無いしアタシとカイのでも無いよ、今日はカイが産まれて18回目のバースデー。

何かアタシの方がドキドキしてる、去年は二人共部活だったし、部活を仕切る立場にいきなりなったから余裕が無くて忘れてた、だから今日は初めてカイの誕生日を祝うんだ。

部活はツバサとヒノリに無理矢理休まされたし、カイもコガネやリコやユウキに無理矢理休まされたんだって。


「で、どんな所を用意してくれたの?」


えっ?用意?…………ヤバい!今日という日を迎える事だけに気を取られて行く所とか考えて無かった。

最悪だ、何だか視界が揺らいできた、涙?何でアタシはこういう時に泣くんだよ、今日はアタシがエスコートするハズだったのに、これじゃあカイに迷惑がかかる。


「やっぱりな、泣くなよ、こんな事もあろうかとアオミに良さそうな店聞いてきたから」

「あり得ないだろ、カイの誕生日なのに…………」

「俺の誕生日だからだよ、どうせ今日を空けるのに必死で大事な事忘れてたんだろ?」


流石カイ、何でもお見通しなんだな、やっぱりアタシはカイがいないと何も出来ないのか。

カイはアタシ涙をそっと拭ってくれた、この慣れた手付きがアタシを安心させてくれる、最近になって泣き虫がぶり返したアタシはカイやヒノリに助けられっぱなし。


「まぁそのお気持ちだけはありがたく貰っておきます」

「ダメだよ!今日だけはカイを引っ張ろうと思ったのに………」

「じゃあ任した」


カイはアオミさんから貰った紙をクシャクシャにして捨てた、カイは上から微笑む、いつになったらこの笑顔に慣れるんだろ、まだカイの笑顔にはドキドキする。


「今日は全部チカに任せるよ」

「でも何も用意してない」

「なら歩きながら探そうよ、全部チカに任せるから」

「それで良いのか?」

「当たり前じゃん、チカの選んだ所だもん」


カイはアタシの腕を引っ張って歩き出す、アタシに任せるって言われても、カイを満足させられる所なんて見つけられないって。




暫く歩いてたけど見付かんないよそんな店、何でカイの誕生日一回すら祝えないんだろ、ってかカイが完璧過ぎるからいけないんだよ、もっとカイに抜けてるところがあればアタシだって少しは惨めにならずに済んだのに。


「………見付かんない」

「チカ、ビルがいっぱいあるよな?」

「まぁ東京だからね」

「どれか指差して」


分かんないけどとりあえず一番綺麗な近くにあるビルを指した。


「じゃああそこに行こうか」

「えっ?あっ、ちょっと!」


カイは強引にアタシの腕を引っ張ってビルに入った、雑居というよりは小さなお店がポツポツある程度のビル。


「ほら、店があるじゃん」

「本当だ」

「流石チカ、一発で見付けるなんて、じゃあココに行こうか」


カイは階段を上がり3階にある小さなコース系のお店に入った。

小さいけどオシャレで店長一人だけで経営してるらしい、テーブルは3つしか無くて趣味で経営してるような感じ。

座るとメニューを出されて開いてみたらビックリ、そんなに高くない、そりゃ高校生にはちょっと高いかもしれないけど、世間一般的に見たら全然安いよ。


「やるじゃんチカ、こりゃ当たりだね」


でも不味かったらどうしよう、こんな小さいって事はお客さんが来ないし美味しいって保証はない、何だか怖くなってきた。


「どうしたの?」

「こんなに小さな店だから不味いかもしれないだろ?」


アタシは聞こえないようにそっと耳打ちした、でもカイは優しい笑顔で返す。


「それなら大丈夫でしょ、見た所真新しさは無いからそれなりに長くやってるって事だろ?それにこんな所にあるのに長くやれるってのはリピーターが多いからなんだ、だから小さい店で長くやってる方が味の信頼ってのは確かなんだよ」


カイ凄い、さっきからキョロキョロしてたのはそれだったんだ、カイがそこまで言うんだから確かなんだろうな。


「でも何頼めば良いんだろ?」

「それならコース系には大体お試しみたいのがあるからそれ頼む?」


アタシは目を真ん丸にして頷いた、カイは凄いよ、本当に高校生?大卒って言っても外見も中身も全く疑わないよ。


「俺こういう店好きだなぁ」

「じゃあカイがお店造ったらアタシはウェイトレスだ」

「別にチカがやりたい事やっても良いんだぞ」

「良いの、カイのやりたい事はアタシのやりたい事だから」


ていうかアタシのやりたい事がそこまで無いんだよね、だからカイの側で働けたら満足かな。

でもカイが気になって仕事にならないよな。


「仕事とプライベートくらいは別けるから気にするな」

「何で分かったの!?」

「そりゃチカの事なら何でも分かるからな」


嬉しいような悲しいような、今日のミスもそうだったし、嫌なところばっかりお見通しなんだよな、気付いてほしいところはちっとも気付いてくれないのに。



料理は少しずつ次々と運ばれてきた、カイの言うとおり本当に美味しい、もしかしたらカイのより美味しいかも。


「スゲェ、こんな美味いとは思わなかった」

「カイのとどっかが美味しい?」

「月とすっぽんだろ、こっちは素人の趣味だぞ、まったく違うもんみたい」


カイはちょくちょく料理の事を聞いてる、一回何かを教えてもらう度にカイの顔が輝く、なんか何をやってる時より生き生きしてる、何かこういうカイもカッコイイ。


「何?俺に見とれてた?」

「そうだよ!」

「なんか素直じゃん」

「いけないのかよ?」

「良いんじゃない、可愛いしね」


こうやって平気で恥ずかしい事を言う、しかもそういう時に限って妖しい顔でアタシの事を見つめる、でもそんなカイを独り占め出来るのはアタシだけ。

カイは誰もが分かるくらい妖しいオーラをにじみ出してる、それは高校の後半から始まっ、でも本当にそういうのを出すのはアタシの前だけ、多分それがアタシがドキドキ出来る理由だと思う。


「本当に美味い、チカのお手柄だな」

「別にカイがああ言わなきゃココには来てないし………」

「でもチカの勘のお陰だよ、最高の誕生日決定だな」


カイが無邪気に笑う、最近じゃ見られなくなった笑顔、最近めっきり大人っぽくなったカイ(元から大人っぽかったけど)、だからこういう子供っぽい笑顔を見れると凄く嬉しい。


「カイももう大人か」

「何で?」

「17歳と18歳じゃ大違いだよ、何か大人って感じだろ?」

「そうか?別に年齢が変わっただけで他は変わらないけどね、俺のこの変わらないチカへの愛もね」


本当だ、何も変わってない、そういうところが一番変わってほしいのに、嫌な訳じゃないんだけど、何回も何回も言われたら本当かどうか疑わしくなるだろ?カイは言わないと苦しくなるって言ってるけど、アタシ的には嬉しくないんだよな。




その後は普通のデートをして帰宅、夜はアオミさんが作ってくれるらしい、何か兄妹水入らずの誕生日会にアタシがいるのは微妙なんだけど、アオミさんやツバサが来なきゃカイを犯すって言うから、その時の目が二人共マジだったから、申し訳ないけどアタシも参加する事になった。


帰りの電車に乗るホーム、人はそんなにいないけど帰りは座れないんだろうな、少し疲れてるのに。

もうすぐ電車が来るというアナウンスがながれる、遠くの方から電車のライトが見えた。


「ユージ危ない!!」


女性、恐らく母親と思われる女性の声と同時に、アタシ達の隣を小学生低学年程度の男の子が通り過ぎ、線路に落ちた。

まだスピードがある電車がすぐそこにある、ホームには悲鳴等がこだました、アタシも分かる、この男の子はこのままだとアタシ達の前で…………。


「チッ」

「カイ?」


カイは舌打ちと共に線路に飛び下りた、その時電車とカイ達の距離は2mを切ってた。


キイイイィィィ!


電車のけたたましいブレーキ音と共にアタシは目を反らし、その場に崩れた、すぐ後ろでは母親が大きな声で泣いてる。

アタシが目を開けると目の前には電車の車体だけがある、アタシは正座が崩れ腕が力無く垂れる、目の前は歪み、頬から涙が流れ、アタシの世界に音が無くなった。

周りにいる人は慌てて何かをしている、でも今のアタシはそんなことどうでもいい、電車がカイ達がいた所を横切った、つまりカイは電車に当たって……………。


「イヤァァァァ!!」


今になって悲しみと恐怖が襲ってきた、カイは電車の下敷きに、嫌だ、今日はカイの誕生日なのにいなくなるなんて。

誰かがアタシの肩を叩いて何か言ってる、そんな声もどうでもいい、肩を叩いてた人も諦めてどこかに行った、まだ周りは慌ただしい。


「大丈夫ですか?お嬢さん」


目の前に青い髪の毛がだらんと垂れる、そしてアタシの前に座るにっこりと笑う。


「………か……………い…………?」

「正解かもね」

「嘘、カイは電車に………」

「勝手に殺すな、ガキも生きてるし」


後ろには子供と抱き合う母親の姿が、目の前にはカイが、生きてたんだ、何で生きてるのに涙が出るんだろ?


「泣くなよ、俺が悪い事したみたいじゃん」


カイはアタシの事をそっと抱き締めてくれた、一瞬でもカイが死んだと思っちゃった、でもあの距離とスピードで避けられた方が奇跡だよ。


「あ、あの、ありがとうございます、うちの子が大変ご迷惑をかけまして」


子供の母親がカイにペコペコ頭を下げてる、隣にいる事件の張本人目を腫らして衰弱してる。


「大丈夫ですよ、それより坊主、今度落ちても誰も助けてくれないからな、もう落ちるなよ」


カイは子供の頭に手を乗せて笑顔を作った、子供は小さく頷くと母親の後ろに隠れてカイをジッと見る。


「無茶しすぎ」

「助けられる自信があったからな」

「蛇以外に怖いモノは無いの?」

「今のはかなり怖かったよ、危うく誕生日にマグロになるところだったからね」


カイはいつもチカのためなら腕の一本や二本安いもんだとか言ってるけど、もしかしたら本気なのかも、目の前にいる見ず知らずの子供ですら命がけで助けたんだもん。






カイ、アタシが死にそうになっても命がけで助けないで、アタシ一人残してカイが死ぬならそのまま見殺しにしてよ、そっちの方がアタシは救われる。

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