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黄と命日

今日で学校もついに夏休みに突入や、って言っても夏休みは全国大会があるさかいにあんまり遊べへん。

奇跡やろ、わいら6人全員全国やで、カイはんとコガネはんのサッカー部は下馬評を裏切って圧倒的な優勝、女子のバレー部はインターハイ出るハズの学校がコーチの暴力沙汰で出場取り消し、奇跡の繰り上げで出場、わいは当然オール一本勝ちや。


「お前ら受験生なんだからたまには勉強しろよ!」


たまにでえぇんか?わいはやらんと思うけどな、コガネはんはヒノリはんに強制的にやらされるやろうな、カイはんは必要ないんやろうけどチカはんが教えを請うと見た、ツバサは絶対にやらへん。


「あとは警察に捕まるな!」

「はいは〜い、捕まらなきゃ何してもえぇんか?」

「教師的にはダメって言わなきゃいけないんだろうな」


ちゅうことは暗にえぇって事やろ、やっぱりミドリはんは違うなぁ、コウはんやったら物凄い怖い目で睨まれて終わりやろうな。


「じゃあ解散!」


クモの子を散らしたように全員が散っていった、わいはバックを持って教室を出ようとした。


「コテツ!」


後ろからツバサに肩を掴まれた。


「今日はバレー部早く終るんだけどコテツは?」

「まぁ早く終わらせようと思えば終らせられるで」

「じゃあデートしようよ」

「えぇけど用事があるからそっちが先になるけどええか?」

「うん、良いけどどんな用事?」

「それは秘密や」


わいはそのまま教室を出た、まぁもうそろそろツバサを連れて行ってもえぇ頃やろ、家族以外の人間を連れていくのはツバサが初めてやな。


部活はすでに夏休みモード、まぁ全国行くのはわいだけやし3年は引退やし、当たり前って言っちゃぁ当たり前やな、わいもしんみりしてるのは嫌いやし、正直ココで稽古してるより道場でやってた方が稽古になるんや。


「お前ら部長が全国に出るのにお前らが遊んでどうする!」


名尻がキレた、部活を無理矢理引っ張るわいのサポート役の名尻がキレる事は皆無に等しい、先にわいが一喝するのが先なだけなんやけどな。


「別にえぇで、どうせ皆はもう夏休みさかい、浮足立つのは当たり前やろ?」

「でも烏丸には最後の全国大会だろ、一昨年は怪我で辞退したし去年は電車の事故で遅刻して出れなかった、最後くらいキッチリ優勝してほしいんだよ」


わいは全国大会に嫌われてまんねん、毎回毎回、まぁ今回もただじゃ終わらないと思うねんけど、まともにやれば高校生なんて相手やない。


「まぁ名尻のその気持はありがたいけど、今日は早くあがらしてもらうで」

「何で―――」

「コテツぅ!」


ツバサは道場の玄関の所でピョンピョン跳ねてる、わいが彼女とか友達を道場の事を知ってるさかいに入っては来ないけど、練習中の奴らの手を止めるのには十分やったな。


「烏丸、まさかデートだから早く帰る訳じゃないよな?」


名尻は拳を握って小刻みに震えてる。


「ちゃうちゃう、本当は今日顔出す気ぃ無かったんやけど、ツバサを待つついでの部活や」

「じゃあ本当は何なんだ?」


わいはツバサに背を向けて胸の前で手を合わせた、去年も同じやったから名尻は思い出したらしい。


「それを早く言え」

「悪い悪い、ほなわいはあがるで」

「明日からはしっかりやれよ!」

「当たり前やろ」




ツバサはわいの腕をグイグイ引っ張って歩いてる、わいも高3やさかい、少しは落ち着いたけど、ツバサに落ち着く気配はあらへんな。


「ねぇ、今日よる所って何処?」

「家族以外やとツバサが初めて踏み入れる所や」

「本当に!?何か僕って特別ぅ!」


いや、そりゃかなり前から特別やで、まぁデートの前に行くような所やないんやけど、しょうがないな。


「あんまり楽しい所やないで」

「コテツと行く所につまんない所は無いよ」


そうやったらえぇんやけどな。



わいは近くにある花屋で花を買って目的地に向かった、ツバサの鈍感さもここまでくると一級品やな、まだ気付いてへん。


「まだ?」

「着いたで、ココや」


ツバサは嬉しそうに辺りを見回す、まぁそないにがっついて見てもあるのはピカピカの石だけやけど。


「お墓?」

「そう、今日はわいのおかんの命日や」


案の定ツバサはテンションが下がった、まぁ当たり前っちゃあ当たり前やな。

わいはバケツに水を入れておかんの墓の前に行った、あんまり人がきいひんからちょっと汚れとるな。


「そこに座っててえぇで、少し時間がかかるさかい」

「僕もやる!」

「掃除やぞ、無理せえへんでええで」

「だってお義母さんのお墓だもん、僕もやる!」


お義母さんって、まぁメチャクチャ嬉しいのが本音やけどな。

ツバサは墓石を、わいは辺りの草むしりを、毎年親父が掃除する暇が無いからわいが一人でやってるんやけど、今回はツバサもいるからはよう終わりそうやな。


「そっかぁ、お義母さんの命日って…………」

「どないしたん?」

「何でもないよ」


ツバサは歯を思いっきり見せて墓石を磨き始めた。


わいが草むしりが終わってツバサを見ると必死に背伸びしててっぺんを洗おうとしてる、わいは見かねてタワシを取るとてっぺんを磨いた。


「ほれ、終わったで」

「やっと終わったぁ!」

「ご苦労さん」


わいは花を差して線香に火を付けた、一年にそう何度も来れないんやけど、来たからには土産話っちゅうもんがいっぱいあるもんやろ。


手を合わしてからしばしの沈黙、隣ではツバサも手を合わせとる、わいが目を開いた後でもツバサは長々と手を合わせたまま。

終ると何故か清々しい笑顔でわいの事を見る、そないに墓参りって楽しいもんなん?


「何でこない長かったん?」

「内緒だよ、ねぇ、お義母さん!」


ツバサは墓石に向かって微笑んだ、死んだ彼氏の母親にここまで好意的な彼女もそこまでいないやろ、やっぱりツバサは最高の彼女や。


「ねぇねぇ、何か食べに行こうよ」

「そんなら近くにパスタ屋があるさかいそこに行く?」

「行く行く!」


わいはツバサの手を掴んで歩き出した、けどまだわいは知らない、今日が何の日かは。




前々から目を付けてたパスタ屋やけど、ココに来るのは大体一人やから来た事が無い。

店内は落ち着いてて可もなく不可もない感じやな、どっちかって言うたら喫茶店やないか?店員はウェイトレスと厨房の二人だけ。


「わいはミートソースで」

「僕カルボナーラ!」

「かしこまりました」


ツバサはさっきから異様に楽しそう、そないに墓参りが楽しかったんか?わいには到底理解出来ない娯楽やけど。


「全国はどうなん?」

「目指せ一回戦突破!だね」

「なんや、もう少し頑張ろうや」

「だってコテツに会えないなら早く終らしたいんだもん」

「それなら安心しぃや、バレー部とサッカー部とわいは同じホテルにしといた」


これも生徒会長の権限や、軽く保護者、顧問や校長にもかまかけたんやけどな、まぁカイはんの頑張りもあって楽に一緒に出来たで。


「それじゃあ会えるの!?」

「当たり前やろ」

「やったー!」


ツバサの叫び声に数少ない客が振り向く、まぁこないな事はしょっちゅうやから慣れたけど。


「何処なの?今年は神奈川でしょ?」

「湘南の外れのプリンスホテルや、寂れた所やけど団体にはうってつけや」

「楽しみぃ」


修学旅行やないんやで、まぁツバサにとっては旅行みたいなもんか、棚ぼたの全国やしな。


「お待たせいたしました」


テーブルに並べられたミートソースとカルボナーラ、ツバサは手を合わして頂きますと一言言うと大口を開けて食べ始めた、こういうところとかはまだまだガキのまんまなんやな、それが可愛いっちゅうのもあるんやけどな。


「何?」

「頬にソースが付いてるで」

「えへへ、ありがとう」


ツバサはナプキンでソースを取るとまた食べ始めた、わいもゆっくりと食べ始める。



空になった皿が二枚机の上にある、綺麗に完食っちゅうやっちゃな、味は案外っちゅうかかなり美味かった。


「コテツ、今日が何の日だか覚えてる?」

「おかんの命日」

「ぶっぶぅ!もっと僕達に大事な事があるでしょ」

「付き合ったのはちゃうし、初キスはクリスマスやし、初めてのエッ―――」

「わーわー!もう、これくらい覚えててよ」

「ツバサの誕生日!?」


ツバサはため息をついてバックを開けた、中をガサガサとあさると何かを見つけたらしい、そのままわいの方を見て豪快に取り出した、小さな紙袋?


「お誕生日おめでと!」

「…………あぁ!?」


そうやった、毎年忘れてるんや、おかんがわいを産んですぐに死んだっちゅう事はおかんの命日とわいの誕生日がかぶるのは必然やな。


「すっかり忘れとった」

「やっぱりね、ほら、開けてみてよ」


紙袋を取ると微妙に思い、中を覗くとグルグル巻かれた長いモノ、わいはそれを取り出してビックリ、中身はベルト。


「僕のアイデアじゃないんだ、お兄ちゃんに聞いたらこれだって言ったから」

「よく買えたなぁ、並ばなきゃ買えへんかったやろ?」

「そうだよ、2時間も一人で並んだんだから」


一日限定発売のベルトを買いに行こうとしたんやけどその日は丁度空手の大会で買いに行かれへんかったんや、カイはんにもコガネはんにも断固拒否されて諦めてたのに。


「ホンマにありがとうな」

「お兄ちゃんと誕生日が近いからもう金欠だよ」

「カイはんはいつなん?」

「確か7月28日だよ」


今日が21やから丁度一週間違いやな、そりゃ悪い事したな。


「まぁお兄ちゃんも忘れてるんだろうけどね」

「まともに覚えてるのはコガネはんだけか」

「コガネんは覚えてたの!?」


ツバサは身を乗り出して興味津々、まぁコガネはんは外見はあんなやけど一番律義やからな、ありとあらゆる記念日覚えてても不思議やない。


「ヒノリはんと仲直りした時や」

「そうなんだ、なんか仲直りの誕生日会って楽しそう」

「喧嘩しててもちゃんとプレゼントは渡したらしいで」

「僕の前ではそんな素振り見せなかったのに」


わざわざ自分の誕生日を申告する奴もおらへんやろ、いるとしたら明らかにプレゼント目当てやな。

それに今までお揃いのピアス付けてた所に付いてるのがその時のプレゼント、ペアリングよりもさりげなくてえぇ感じやねん。




誕生日、自分の中では大した事ないイベントやけど、大好きな人と二人で過ごすと最高のイベントやな。

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