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青と再開

今日はサッカー部は休みでバレー部はあるから俺の用事を済ましてる、用事って言ってもアオミのパシリだけどね。

小さなインディーズのCDショップにしか売ってないCD、アオミの大好きなバンドでそのCDがどうしても欲しいから買ってこいとのこと。



多少市街地から外れた所にあるこのCDショップ、確かにかなりコアな雰囲気漂う店だな。

俺は目的のCDに手を伸ばす、でも丁度同じタイミングで手を伸ばした誰かの手と重なった、定番過ぎて頭がフリーズする。


「すみません」

「すみま………、カイ?」

「ん?……、あぁ、サエか」


サエ、俺とチカの中学校の頃の友達で委員長をやってた、かなり頭の良いエスカレーターの高校に行ってる。


「コレ買うの?」

「カイも?」

「パシられてね」

「チカに?」

「違う、本物の姉」


サエはメガネの奥の鋭い目を真ん丸にしてる、まぁ中学校時代の波乱万丈を知ってるから更にビックリだろうな。


「それならカイ買う?」

「別に、姉貴ならコネで帰るよ、プライドが許さないだけで」

「コネ?」

「ハヤさんだよ、このバンドと繋がってるんだって」


ハヤさんは今や島のヒーローだ、サエも納得してそのままCDをレジに持って行った。



俺達はその後近くにあるカフェのチェーン店に入った、こういう女の人が多い所は誰か女を連れてなきゃ色々とかったるいからな。


「チカとはまだ続いてるの?」

「当たり前じゃん、未だにラブラブです」

「思ってても言わないで」

「サエは彼氏とどうなの?」


サエは顔を真っ赤にしながらカフェオレを見つめた、サエにもこんな女の子らしい一面があるんだ、ってこんな事口にしたら思いっきり怒られるだろうな。


「………楽しくやってるよ」

「そうなんだ、サエの彼氏見てみた―――」

トントン


俺の肩をそっと誰かが叩いた、サエも叩かれたらしく同時に振り返る、でも高い椅子だから誰もいない、そのまま下に目を移すとゆったりとしたツインテールと左腕に抱いた人形、コイツは………。


「ユメちゃん?」

「デート?」

「そう、俺の愛人」

「ユメ、こんなの放っておいて、こんな所で一人で何してるの?」


クソ、相変わらずサエは厳しいな、ユメちゃんはよじ登るように椅子に座ると膝に大きな人形を乗せた、人形が人形を抱いてるみたいで可愛い、周りの女性客も釘付け、多分人形を見るような感じで見てるんだろ。


「カイとサエ、見つけたから」

「ユメちゃん成長してる?」

「カイ、聞いて良いことといけない事がある」

「それくらい知ってるよ、で、伸びた?」


ユメちゃんは怒って反対側を向いちゃった、なんかユメちゃんがこんなイジって可愛いなんて思わなかった、反応がアニメ見てるみたいで楽しい。


「ゲンちゃんと待ち合わせ?」

「そうだ、ゲンも伸びてるの?」

「…………ゲンちゃん」


ユメちゃんは人形に顔を埋めた、ゲン、ユメちゃんの彼氏で小さいやんちゃ坊主って感じ、ユメちゃんを守る時だけは男の顔を覗かせるんだよな。

でもユメちゃんのこの反応を見ると、もしかして触れちゃいけない傷に触れたとか?


「言いたくなきゃ言わなくて良いから」

「そうだよユメ、私達が軽率だった」

「ゲンちゃん、ゲンちゃんいないの」

「「いない」」


ユメちゃんは人形から顔を離すと話し始めた、ゲンは高校に入ってから何処に行ったか分からないらしい、親に心配かけないように親には電話するんだけど、ユメちゃんとは音信不通、いわば自然消滅の状態、でもユメちゃんはまだ諦めきれずに東京の何処かにいるゲンをたまにこうやって探してるらしい。


「ゲンちゃんとそういう事があったんだ、でもユメ、もうユメも高3だよ、新しい恋しなきゃ」

「せめて、別れの言葉が欲しい」

「アイツ、ユメちゃんを守るって俺と約束したのに」

「ゲンちゃんを責めないで」


こんなユメちゃんを見たらゲンを責めるわけにはいかないな、ユメちゃんがそれで良いなら俺はこれ以上は言わないし、ユメちゃんも言ってほしくないだろ。


「もしもしランさん?何が良いの?」


こんな時にうるさいな、人がいる場所ではボリュームを絞れよ。


「いつもの?僕知らないよ、いつもアキラ君に買わせてるじゃん、……………えぇ?ニーナさんなら知ってる?………だってニーナさん、知ってる?」

「その前、視線感じる」

「えっ、誰の…………」


うるさい奴らの前にユメちゃんが立った、女のニーナと呼ばれた方はぱっつんで体から不思議ちゃんがにじみ出てる、もう一人のうるさいチビは大量のヘアピンで動く余裕すらない俺よりは短いロング。


「ナオ、知り合い?」

「どうしたユメちゃん?」


俺は近づいてユメちゃんの顔を覗きこんだ、そしてうるさいチビことナオを見た、耳にはピアスが大量に着いていて服装はN〇NAばりのコテコテのパンク系、でもコイツ、俺が見間違うわけがない。


「ゲン?」

「ユメ?カイさん?それにサエさんも」

「ナオ、ラン怒る、早く行こう」

「そうだね、ニーナさん」


俺はその場から離れようとしたゲンの腕を掴んで睨んだ、ゲンは俺と顔を会わせようせず、斜め下を向いたまま。


「カイ、コレ」


サエは俺の前にCDを差し出した、こんな時に何がしたいんだ………って、このジャケットに写ってる内の二人、今目の前にいる。


「それ、うちらのCD」

「って事は、ゲンちゃんはODD GALEのベーシストのナオ?」

「そうなの?ゲンちゃん」


ゲンは静かに頷いた、世界って狭いな、それにこのジャケット、こうやって並べてるから分かるけど、ジャケットだけで見たら分かんねぇな。

人って変わるもんなんだな、あのガキだった(今もだけど)ゲンがこんな事やってるなんて、でもユメちゃんは悲しいだろうな。


「ナオ、早く、この人達も一緒に」

「分かったよ、皆、とりあえず着いてきて、今日ライブでリハーサルが迫ってるから」

「よろこんで」


サエ早いな、ユメちゃんも体から『行く』ってオーラがにじみ出てるし、俺も楽しそうだしアオミの土産話に行くか。




ゲンとニーナは重い扉を開けると中には不機嫌そうな二人が、男はタバコを吸いながらギターを持ってホールに座ってる、髪はショートで金色、女の方はスティックでホールの床を叩いてる、黒い綺麗なストレートだけど何だかワイルド。


「遅いんだよ!」

「まぁラン、キレるな、ナオやニーナにだって情事はあるだろ」

「アキラ、逆、‘情事’じゃなくて‘事情’」


俺が腹を抱えて笑ってると金髪男のアキラが目の前に立った、俺が笑ったせいで不機嫌に拍車がかかったらしい。


「ニーナ、誰だコイツら?」

「知らない」

「ちょっと皆、聞いてほしい事があるんだけど」


今まで黙ってたゲンが口を挟んだ、ってかさっきからゲンやらナオやら、何となく話が繋がってきたけど、未だにしっくりこない。

ゲンはユメちゃんの隣に立つと全員の視線が集まる、黒髪の女ことランはアキラのタバコを奪って思いっきり吸い込んだ、それでタバコをアキラの口に戻すとゲンの前に立つ、そのままゲンの顔に紫煙を吹きかけた。


「それよりコーヒーは?こんな不思議ちゃん連れて来いとは言ってないんだけど」


ランはユメちゃんの持ってた人形を奪った、俺より先にランの前に立ったのはサエ、サエは自分よりも多少デかいランを睨むと人形を奪った。


「何だ?」

「ユメの人形を返して欲しかっただけ」

「人形、可愛い」

「ニーナ、こんな化物とも継ぎ接ぎとも分からない人形の何が良いんだよ?」

「可愛い、ニコルナ星人?」

「違う、ヤラニコフ」


ロシア人?二人にしか分からない世界があるんだけど、しかも無表情でも何故か分かる、二人は今の会話でかなり意気投合してる。

ランは呆れてその場に座った、アキラはタバコをくわえながらクスクス笑ってる、サエはユメちゃんの頭を撫でて戻ってきた。


「それで、この女の子、僕の……彼女だったんだ」


ユメちゃんはその過去形の言い回しにショックを受けてる、でも過去形な事は確かだ。


「僕は親にもユメにも島のみんなにも内緒でバンドをしてる、バンドのみんなにも僕の素性は言わずに‘ナオ’って偽名を使ってる、これがバレた以上僕は言い訳はしない、ユメともやり直したい、バンドも続けたい、ダメかな?」


ニーナはユメちゃんから借りた人形に夢中で聞いてない、ランはコーヒーが無い事にあり得ないくらいイライラしてて聞いてない、サエはユメちゃんを慰めるように頭を撫でてる。


「別に良いんじゃねぇの?恋は偉人の自由だろ?」

「個人な」

「青ブリーチは黙ってろ!」

「自毛だから」

「じ……げ………?」

「アキラ君はもう黙ってて、これはユメ次第なんだ」


アキラって本当に馬鹿だな、俺が出会った人間の中で最も馬鹿で最もアホだ。


「ユメ、やっぱり嫌?」


ユメちゃんは黙って何処を見てるとも分からない目から涙を流した、ゲンは慌てながらも涙を拭いた、ニーナは自分が人形を取り上げたせいだと思って、人形を返したけどユメちゃんは拒否した、ニーナは安心してまた抱き始める。


「メソメソうるせぇな!」

「あんた女心を分かってない」


キレたランにサエが再び食い付く。


「分かってるって!おい、ユメって言ったか?お前、泣くくらいムカつくなら頬を殴れ、それでもムカつくならドス突き付けてやれ」


姉さん、言ってる事が怖すぎます、ランなら本当に人を殺しそう、ユメちゃんは顔が外れそうなくらいブンブンと振った。


「ありがとう、私ゲンちゃんのこと捜してた、だから会えただけで嬉しかったのに―――」

「なぁ、何でこのお嬢ちゃんは泣いてんの?仲直り出来て万々歳じゃん」

「「馬鹿はすっこんでろ!」」


サエとランがハモった、しかもサエの口から出てくるとは到底思えないような言葉、確実にランに触発されたんだ、じゃなきゃサエがこんな言葉言わない。


「じゃあ僕の事許してくれるの?」

「うん」

「良かったね、ユメ」

「ナオ、今度このユメとやらを泣かしてみろ、二度とベース弾けないようにしてやる」


ユメちゃんはノソノソと人形を抱きながら座ってるニーナの所に行った、ニーナは満面の笑みでユメちゃんに人形を差し出す。


「あげる、まだいっぱいあるから」

「ホントに?」

「うん、見に来る?」

「行く」

「うちのお姫様に気に入られたみたいだな」


いつの間にか俺の隣にアキラが立ってた、タバコに火を付けて紫煙を輪ににして吐き出す、こんなところだけ器用なんだな、頭はネジが外れまくってるけど。


「お姫様のご機嫌取れるなんてかなりの世渡り上手とみた」

「類は友を呼ぶ、じゃない?」


理解出来ない様子、アキラと会話する時は幼稚園児にも分かるように会話しなきゃ、アオミにも耳タコだな。


「似た者同士って事だよ」

「共鳴って事?」

「そんなもんだろ」


俺的にはそっちの方が難しいと思うんだけど。

ランはライブ前なのに酒を飲んでる、本当にあの人は女なのかよ?そこら辺の男より何倍も男じゃん、豪快さだけでいったら俺よりも遥か上。

そんなランにサエが近寄った、もしかしてまだ修羅場やり足りないとか?


「言葉は悪いけど良いこと言うのね」

「私も女だ、でも女だからって男にヘイコラしてる必要はないだろ?」

「確かにね」

「飲むか?」


ランはもう一本あったアメリカ産のビンビールを渡した、サエは何の躊躇もなく受け取り栓を抜く、そのままくわえて飲んでる、サエも豪快。


「何だ、お嬢さんだと思ったらそういう事も出来るんだな」

「これでも島育ちよ、並よりは鍛えられてる」

「島の純情お嬢さん?」

「親友の男を盗ろうとする女が純情って言える?」


ランは大声で笑い出した、多分サエが言ってるのは俺の事だ、後にも先にもサエとチカが喧嘩したのはあの時だけだったらしい。


「気に入った!名前は?」

「サエよ、ラン」

「私の名前知ってるんだ、サエ」

「それは何回も呼ばれてたし、前はファンの一人だったから」

「………前は?」


ランの声が一気に低くなった、表情も子供くらいなら泡を噴いて倒れるくらいキツイもの、正直マジギレのコガネよりも恐い。


「今は友達、でしょ?」


再び大笑いした、今回は腹を抱えながら目に涙を浮かべてる、全く正反対の二人だけど案外相性が良いんだな。


「私が男だったらこの場で犯してるくらい良い女だ」

「女で残念―――!」


ランはサエが言い終わる前にランの唇でサエの唇を塞いだ、流石のサエも着いて行けてない、ってか俺の思考は壊滅寸前、アキラはケラケラ笑ってる。


「イチモツが無いから犯せないけど、唇を奪う事は出来る」

「…………初めてだったのに」


ランの表情が固まった、アキラは更にケラケラ笑いだす。


「ま、マジかよ?ゴメン、悪い事したな」

「嘘よ、そこまでうぶな訳ないでしょ」

「……………犯す!」


ランはサエに飛び付いた、そのままサエの胸とかその他諸々を揉み始めた、アキラは床にころげながら笑ってる。

サエがそろそろヤバくなってきた頃にゲンがランをサエから引き離した。


「ランさん、リハーサル始めますよ」

「ちぇっ、つまんねぇ」

「いじけないで、ほらニーナさんも、アキラ君も」

「「は〜い」」


意外な事実が判明した、一番年下のゲンがこのバンドを仕切っている事、まぁ不思議ちゃんに大馬鹿に豪快女ならガキのゲンが一番マシだな。


4人はステージに立った瞬間顔が変わった、ゲンは体に不釣り合いにデかいベースを担ぎ、アキラはギター担いだ、ランはドラムに座り、ニーナもギターを担ぐ。


「シークレットライブ、始まり始まり」

「コレでお前らも俺らのライブの中毒者決定だな」

「ユメ、僕のやりたいこと、ちゃんと見てて」

「行くぞお前ら!」


ランがスティックでカウントダウンをすると一気に音が鳴り響く、轟音、その中でも栄えるニーナの独特の声、それを煽るようにアキラの疾走感溢れるギターが掻き鳴らされる、ニーナはそれを底上げするような滑らかなギターサウンド、その疾走感に厚みを加えるゲンの重低音、ランの正確で力強いドラムは全ての音を乗せて直接鼓膜を振動させた、そしてニーナとアキラがハモった時、体を電流が突き抜けるような錯覚すら覚えた。




ユメちゃん、分かるだろ?ゲンがユメちゃんを捨ててまで見付けた居場所、最高にカッコイイところだな。

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