黒と雷雨
私がお店で仕事してる時だった、外が大雨で行き交う人が慌てだしたのは。
私もお店に慣れて最近はシャンプーなどもやらして貰ってる、やっぱり有名店だけあって周りの人は厳しいけどやりがいはある、言葉が喋れない事にもどかしさを感じる事もあったけど、今はそんな言い訳をしないぐらいに頑張るよう心がけてるの。
お兄ちゃんは雷が鳴り出してからそわそわしてる、私達みたいにいつもお兄ちゃんを見てるような人じゃないと分からないような、小さなミスも連発してるし。
「ゴメン、ちょっと電話してくる」
お兄ちゃんはカットが終わると事務所に走って行った、多分お兄ちゃんが電話する先はアオミちゃんしかいない。
でも最近二人が接近して私としては悲しい、アオミちゃんとお兄ちゃんの両方を取られたような気がして。
本当は喜ばなきゃいけないのに私は素直に喜べない、多分まだ色々引きずってるからだ、今でもあの人の事を思い出すと苦しくなる、名前すらも私を苦しめる。
お兄ちゃんは事務所から出てくると皆に頼み回ってる、お兄ちゃんはアオミちゃんの事になると周りが見えなくなる、それが唯一の決定。
「マミコ、帰るよ」
『何で?』
「アオミが一人で家にいるから」
『今はお仕事中だしカイ君とかツバサちゃんがいるでしょ?』
「それまでだよ、仕事なんてやってられないよ、帰ろう!」
お兄ちゃんは私の身支度を無理矢理して、腕を引っ張って店を出た、本当に強引なんだから、そこがあの人とお兄ちゃんの一番の違い。
お兄ちゃんの運転はいつになく荒い、前にもこんなに荒いことはあったなぁ。
確か電話してる時にアオミちゃんがくしゃみをした時だったっけ、お兄ちゃんは同じようにお仕事をすっぽかしてアオミちゃんの所に行ったんだよ、アオミちゃんは埃を吸っただけなのに。
マンションに着くと私の手を引っ張りながら走り出した、別に私は家に帰っても良いんだけどな。
お兄ちゃんはいつものようにオートロックの前でアオミちゃんを呼び、いつものようにエレベーターに乗り込み、いつものように14階を押す。
走って家の前まで行くとインターホンを連打してる、これは迷惑だよ、アオミちゃんも迷惑だって。
アオミちゃんが鍵を開けるとすぐにお兄ちゃんが家に入った、お兄ちゃんは手を握って良かったを連呼してる。
「マミコ、ハヤさんどうしたの?」
『知らない、多分雷が鳴って不安だったんだよ』
「別に私は子供じゃないのに」
「良いの!俺がアオミちゃんの側にいないと不安なだけだから」
わがまま、お兄ちゃんがこうやってわがままになるのはアオミちゃんの事だけ、アオミちゃんが可哀想。
でもアオミちゃんは嫌な顔はしてない、喜んでもないけど、お兄ちゃんも好きなのは良いんだけど、これはストーカーレベルなのに気付かないのかな?
「とりあえず上がって」
「はいは〜い」
私は声は出ないけどため息は出るわよ、何かお兄ちゃんといると調子が狂うのよね、兄妹なのにね。
部屋に上がると私はソファーに座った、お兄ちゃんはキッチンでお茶をいれてるアオミちゃんを見てる、本当に悩みの種。
「今日はマミコも仕事だったんだよね?」
私はアオミちゃんの方を見て頷いた、アオミちゃんはため息をついてる、私にも分かるわよ、そのため息の意味がね。
「ハヤさん、お願いだから仕事くらいはしてきてよ、何だか私が悪い事したみたいなんだけど」
「アオミは俺の事嫌いなの?」
「嫌いとか好きの前に―――」
「アオミ〜、俺悪い事したかな?」
私はお兄ちゃんの目を強く睨んで頷いた、お兄ちゃんはガーンという効果音が似合うような反応、アオミちゃんは無視してお盆にお茶を乗せて、私の前に置くついでに私の隣に座った。
「変なお兄さんもったのね」
『分かる?アオミちゃんも変な人に好かれたのね』
「お互い苦労が絶えないよね」
私はお茶を飲みながらゆっくりと頷いた、二人は同時にため息をつき同時にお茶を飲んだ。
お兄ちゃんは私達の前のソファーに座ると沈みながらお茶を飲む、何で私のお兄ちゃんはこんななんだろ?
「アオミ最近俺に冷たくない?」
「ハヤさんがしつこいだけ」
「マミコ、アオミちゃんってこんなに冷たい娘だっけ?」
『お兄ちゃんにだけね』
でもアオミちゃんはこうも言ってた『ハヤさんを受け入れたら私が私じゃなくなりそう、だから冷たくしちゃうの』って、多分アオミちゃんは誰よりも恋をするのが怖いんだと思うの、男の人を毛嫌してるし、だからアオミちゃんがあの人を好きだったって聞いた時は私まで悲しくなった、だって私がいなければアオミちゃんは男の人に心を開けたかもしれないのに。
「でも不思議、何でハヤさんと彼が似てるんだろ?」
「そんなに似てるかな?アイツは凄いマイペースじゃん」
私の周りの人はあの人の名前を口にしない、多分私がその名前を聞く度に悲しい思いをしてたのが分かったからだよ、私は隠してるつもりだったのに。
「そうそう、マイペースと言えばコウだ、何か最近コウが生き生きしてない?」
『コウ君が?』
「コウさんってあのチカのお兄さんの?」
「そう。俺の予想ではコウも恋をしてるね」
コウ君が恋?コウ君には悪いけどそんなのあり得ない、コウ君もお兄ちゃんも女の人に全く興味が無かったのに、しかもコウ君に至ってはあんな性格だから女の人が近寄っても逃げちゃうるし。
「私はあの人は苦手だな、何か目があっただけで心の奥底まで見られてるみたい」
『でも根は優しい人よ、あの憎まれ口も優しさの裏返しだよ』
「そうかな?アイツは生まれつき目付きが悪いし、憎まれ口だって相手が悔しがるのを楽しんでるだけだろ」
お兄ちゃんは何でそうやってコウ君の事を悪く言うのかな、唯一お兄ちゃんの事を理解してくれる人なのに。
お兄ちゃんは友達は多いけど、しっかり理解してくれる人はすくないんだよね、コウ君はお兄ちゃんの全てを知ってる、多分お兄ちゃんは言ってないけどアオミちゃんの事も感付いてるんだろうな。
「そういえばこの前コウと女の人が話してたな」
コウ君と女の人が!?コウ君は本当に女の人に興味が無いのに、それどころかあんな容姿だから内面嫌ってるのかも、そのコウ君が女の人と一緒にいるだけで奇跡よね。
「気の強そうな人だったなぁ」
『見間違いじゃないの?』
「俺がコウを見間違うわけないだろ、まぁ一目見ただけだから分からないけどね」
「私知ってるわよ」
アオミちゃんが?でもこの中だとアオミちゃんが一番会える機会があるし、気になる、本当にコウ君が女の人と一緒にいたのかな?
「多分学校の先生仲間じゃない」
「アイツ先生をたらしこんだのか」
『仕事仲間じゃないの?』
「でもあのコウが例え仕事仲間でも女と一緒にはいないでしょ」
確かに、この前コウ君が家にいた時お兄ちゃんが仕事でいなくなった後、コウ君がコンビニ行くって言うから私も着いて行こうとしたら嫌がられた。
例え私でも一緒に外に出るのを嫌がるのに、本当にその女の人の事が好きなのかな?
「まぁコウは好きでも相手からは嫌われるだろうね」
『応援しないの?』
「応援してもアイツの性格が治るとは思えないもん、いくらかっこよくても性格が伴わなきゃね」
「それはハヤさんも」
そうだよ、お兄ちゃんは人の事ばっかり言ってるけど、自分も十分伴ってないんだよね。
『お兄ちゃん、もう遅いし帰ろう、アオミちゃんは大丈夫だよ、カイ君も帰って来るだろうし』
「カイもツバサも帰って来ないよ、二人とも訳あってお泊まり」
二人してお泊まりって…………、しかもお兄ちゃんは何か電話してるし、何処に?しかも怒って切った。
「コウの奴電話にでないよ」
『何でコウ君に電話?』
「妹がたらしこまれてる、って言おうとしたの」
悪魔、何で他人の幸せな時間をそうやって踏みにじろうとするの?別に二人共高校生なんだから良いのに。
「デート中じゃないの?」
お兄ちゃん驚愕の表情で固まった、でもこんな大雨なのにデート?………もしかしてコウ君も?
「それじゃあチカちゃんは一人かぁ」
『何で?』
「カイは誰にも言うなって口止されてるし、ツバサも口止、つまり二人共やましい事があるって事。
いつもならツバサは自ら言うし、カイは無駄に隠そうとしないからね」
深まる謎?つまりそうなると本当に大変な事だよ、カイ君の事だからわざとああいう文面にしたんだ、多分ツバサちゃんはミスなんだろうけど。
「チカちゃんが家にいない」
「何か楽しくなってきたねぇ、教師は秘密のデート、その生徒はドロドロかぁ」
何でお兄ちゃんはそういう考えに行き着くのかな、こんな雨だからみんな帰れなくなってるだけかもしれないのに。
「でもあの六人でドロドロってのも面白いかもね」
「だよね、マミコはわからない?」
『分かりたくない』
「ツバサとコガネ君、カイとヒノリちゃん、チカちゃんとコテツ君とみた」
確かにそれが一番自然だな、って何で私は納得してるんだろ。
コガネ君は確か色白で人形みたいに綺麗な顔したハーフの不良の男の子だよね、ヒノリちゃんは氷のお姫様みたいな冷たい感じの女の子、コテツ君は糸目でチクチクしたいつもうるさい男の子。
お似合いなのはカイ君とヒノリちゃんだけだね。
『でもカイ君やチカちゃんが浮気なんてあり得ないよね?』
「まぁね、カイは一途過ぎるくらいだから」
「俺は?」
『「馬鹿」
』
「手話と言葉のコラボ?なんかハモりより悲しいよ」
カイ君もチカちゃんもお互い好き過ぎるくらいだからね。
でもチカちゃんは少し不安らしいけど、カイ君は本当に完璧過ぎる人だからチカちゃんは不安なんだろうな、カイ君は何があってもチカちゃんを信じてるのに、恋って盲目とは良く言ったもんだね。
「みんなラブラブ出来て良いな、俺もアオミとラブラブしたいな」
「それを世の中のハヤさんファンに言ってあげれば?」
「無理だよ、俺嘘付けないもん」
でも本当の事ばっかり言うのは問題有りだよ、お兄ちゃんのせいでどれだけの人が泣いた事か。
女の人はお兄ちゃんに夢中で気付いて無いだけでカット中もかなり言ってるんだよ、仕事くらいお世辞とか言ってほしいよね。
「何でモテる男は一途でモテない男程浮気するんだろ?」
『モテるから品定する余裕があるんじゃないの?』
「モテない男は必死だからね、少しでも良い思いがしたいんだよ、俺には理解出来ないけど」
それって遠回しに自分がかっこいいって言ってるよね、言わなくても分かるから黙っててよ、妹の私が悲しいよ。
「マミコ泊まって行く?」
「俺なら喜んで泊まるよ!」
『良いの?』
「良いよ、一人で寂しいから」
「俺なら最高の夜を提供するから」
『アオミちゃんのために泊まるよ』
「色々女同士で話したいしね」
「俺なら何でも相談にのる――」
『「黙ってて!」
』
再び手話と言葉のコラボでお兄ちゃんは小さくなった、あぁ、私までお兄ちゃんを邪険にしちゃった。
でもお兄ちゃんも分かってよ、たまには女同士で話したい事もあるんだよ。
「ハヤさんも泊まっても良いけどカイの部屋だよ?」
「えぇえ、アオミと寝たい」
『お兄ちゃん、本気で言ってるの?』
「じょ、冗談だよ、だからそんな負のオーラを出すなよ、な?」
また私負のオーラ出してたのかな?たまにあるんだよね、みんな本当に恐いって言うんだけど、私的にはそんな事してるって実感は無いんだけどな。
「マミコは小悪魔だね」
「小悪魔?丸っきり悪魔だよ、むしろ魔王?」
あっ、何となく分かった、今負のオーラが出てる、お兄ちゃんが小動物みたいにガクガク震えてるのが証拠だね。
でもそんなに恐いのかな?確かあの人もたまにビクビクしてたし、あのカイ君も苦笑いを浮かべる事があった。
少し自重しなきゃ。
「じゃあ私ご飯作るから、適当にくつろいでて」
「俺、手伝うよ」
「結構です」
お兄ちゃんは再び絞んだ、アオミちゃんも本当に嫌なんだろうな、あんなに見られたら料理も捗らなそうだし、私が言うのもなんだけどいくらかっこいい人でもあれだけ見られたらねぇ。
私はツバサちゃんの布団で寝かしてもらう事にした、お兄ちゃんはカイ君の部屋、私の隣にはアオミちゃんが寝てる、いつもこうやってツバサちゃんと寝てるんだ、仲の良い姉妹。
「ハヤさん大丈夫かな?」
『お兄ちゃんはそこまでしないよ』
多分、多分だけどお兄ちゃんは来ないと思う、100%と言いきれないのが悲しいんだけど。
「もうそろそろ彼が死んでから2年が経つわね」
『そうだね、まだ名前を聞いたりするのは嫌だけど、思い出にはなった』
「たまに思うんだよね、マミコはあんなに苦労したのに私ばっかりこんな良い思いしてて良いのか?ってね」
アオミちゃんはそんな事考えててくれたんだ、でもそんな風に気を使われると私も苦しくなる、確かにあの人がいない世界は味気なくて殺風景だった、今もそう、でも慣れって恐いんだね、今はそれが当たり前になっちゃった。
『アオミちゃんが気にしなくても良いよ、私の願いはアオミちゃんが男の人と付き合える事なんだから、アオミちゃんが幸せなら私の心の隙間を埋めてくれる』
アオミちゃんは枕に顔を埋めてゴメンねと何回も繰り返した、私は一度アオミちゃんから好きな人を奪ってる、だから今度こそは目一杯アオミちゃんに幸せになってほしい、それが誰でも私はアオミちゃんの事を応援するつもり。
「私ってハヤさんの事好きなのかな?」
『分からない、でもアオミちゃんがあの人を見る目とお兄ちゃんを見る目が同じ目をしてる、多分お兄ちゃんがあんなだから分かんないだけだよ』
「まだ分からない、本当に好きなのか、それとも頼れるお兄さん的存在なのかは」
アオミちゃんはあの人が好きだと言った時は迷いの無い目だった、でも今は自分の気持が分からない、たぶんあの時私がいなければ、そう思う事がある。
まだ私はアオミちゃんが男の人が嫌いな理由をちゃんと聞いた事がない、いつかは話してくれると思ってる、でも、誰も知らないくらいだからよっぽどの事があるんだろうな。
今だけは口にするよ、君の名前を。
ユキ君、ユキ君は今どんなモノを見てるの?私の見てる世界は殺風景で白黒の世界、好きな人がいない世界って苦痛の他には何もないんだよ、ユキ君も苦しい?
実はマミコ目線で書くのは初めてです、ユキが死んじゃってマミコは前に進めない分、過去がいろいろ明らかになります、楽しみにしてて下さい。