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金銀の一過

俺はヒノと教室を出た、向かう先は屋上、屋上は俺らがいるので有名だから誰も来ようとはしない、前に調子に乗った後輩が俺らから奪おうとしたけど、俺が殴ったらあっさりと引いて行った。

案の定屋上には誰もいない、昨日の雨で所々水溜まりが出来てるのは計算外だけど、まぁ二人だけになれればそれで良い。

俺は振り返ってヒノを見るとヒノはうつ向いたまま何も言おうとしない、俺も無理矢理連れて来たのは良いけどココで話す事はないんだよな。


「とりあえず、ツバサ君を泊めたのは謝る」

「別に良いよ、私もカイに泊まってもらったし」


俺はそうかと言うしかできなかった、正直カイとヒノが一緒にいられるのは最も避けたいパターン、ヒノが俺と話す時とヒノがカイと話す時、微妙に似てるから。

そこから話が続かない、ツバサ君が感情的になりすぎてるからいけないんだ、俺だって今日何の考えも無しに来たわけじゃない。


「今日、俺ん家に来て、話しはその後するから」


俺はそのまま屋上を後にした、屋上から校舎に入ってすぐにチカちゃんがいたけど、空元気の笑顔で隣を通りすぎた。















コガネの背中は寂しく見えた、私とコガネの気持ちがシンクロして普通より寂しく。

私はぼーっと快晴の空を見上げた、雲一つ無く今の私には眩し過ぎる空、始めて快晴が憎たらしく思えた。


「ヒノリ、大丈夫?」


私は視線を空から入口にやると、そこには泣きそうな顔のチカがいる、アシンメトリーの前髪が片目を隠して更に暗く見えた、チカが泣き虫だってのは最近気付いた、試合とかで失敗が続くと裏で泣いてるのをいつも私が慰めてる。


「大丈夫よ、チカよりはね」

「アタシは大丈夫、…………じゃないよな、ゴメン」


チカはボロボロと泣き始めた、私はしょうがなくチカの背中を叩きながら抱き寄せた、チカはいつものように胸に顔を埋めて泣いてる、何か私の無駄に大きな胸がチカの特等席になってる。


「ひ、ヒノリ、大丈夫、大丈夫だからね、アタシがいるから」


これじゃあどっちが失恋の危機なのか分からない、でも昨日はカイを借りちゃったしそのお返しだと思えば易いよね。

チカはある程度泣き終わると私の胸から顔を離して上目使いで私を見つめる、同性の私でもドキドキできるその可愛さ、少し憎い。


「大丈夫?」

「アタシは大丈夫だよ、でもヒノリは大丈夫じゃないだろ?」

「そうね、この場で無理矢理抱き締めてほしかったのに――――」

「ヒノノ!」


抱き合ったまま私とチカは入口を見た、その呼び方をするのは一人しかいないから分かる、でもおかしい、ツバサは明らかに怒ってる、心当たりは無くもないけど、ツバサには関係ない。

私とチカが離れるとツバサは速足で私の目の前に来た、私より小さいツバサは多少見上げる形となる。


「何で謝らないの!?コガネんは何も悪く無いんだよ、全部ヒノノがいけないのに何で謝らないの!?」

「ツバサ!言い過ぎだよ、ヒノリだって何か理由があったんだよ、ね、ヒノリ?」

「無いよ、私が全部いけないの」

バチン!


私の頬に鈍い衝撃が走る、ツバサに思いっきり叩かれた、真っ赤になる頬と共に心が大きく揺れる。


「言い訳くらいしてよ!少しくらいコガネんのせいにしてよ!コガネんが可哀想だよ…………」

「痛いわね、でもこれくらいの痛みじゃ私は癒せない、心が痛むだけ」


私は何を言ってるんだろ、まだ自分を傷付けなきゃ気が済まないの?

でも体を傷付けても心の傷は消えない、更に大きな傷を付けて分からなくしてるだけ、それが分かった今は心の痛みすら生易しい。


「おかしいよヒノノ、何でそんなに悲しそうなの?」

「ツバサ、分かってあげようよ、ヒノリだって辛いんだよ、私達で支えてあげなきゃ」

「ありがとう、でももう支えなんていらない、支えられる事すら苦しいから」


私はその場を離れた、今の私には傷を癒そうとするその行為ですら傷に触れる、今の私の傷薬になるのはコガネだけ、謝るだけなのにそれが出来ない、謝りたいのに謝れない。













帰り、俺は帰り仕度をしてヒノの隣に行った。


「帰ろう」


ヒノは頷きもせずに俺の後ろを着いて来る、ヒノの表情は時間が経てば経つほど悲しくなってきた、今すぐこの場で抱き締めたいけど拒まれたくない、ヒノは俺を避けてるように思えるから。

こんなにヒノに触れるのが怖いと思った事はない、あれだけ話したかったのに今は話したら何かが崩れそうな気がする。















帰り道、コガネは何も言わずにひたすら前を歩き続ける、時折悲しそうな目で振り返る、私はその度にそのままなりふり構わず抱き締めてほしいと思うけど、コガネはそのまま歩き続ける。

もしかしたら怒ってるのかも、私はコガネが振り返る度に喉から謝罪の言葉を吐き出そうとする、ても心とは裏腹にちっとも口は動かない。













ヒノは無言で俺の後ろを歩いてる、足音が聞こえなくなる度に振り返るけど、ヒノの表情は無表情で怒ってるようにも思えた、多分こんなに無言で連れ回されて嫌なんだろ。

確かに全て俺が悪い、こんなに長い時間一緒にいたのにヒノの何一つ分かってやれない、心の傷も分かってやれない、俺はヒノの苦しみを何も知らない、俺がヒノの苦しみを背負えたらと何回思った事か。












コガネの家に着くといつもの場所に座った、コガネは私の好きなグレープフルーツジュースを私のコップに入れてテーブルに置いた。

そうだよ、コガネは私の事を誰よりも見てくれた、

私の好きな色も、

私の好きな季節も、

私の好きな音楽も、

何もかもコガネは知ってる、それなのに私は自分の事ばっかり、何も分かって無いのは私の方だった。


「………ゴメンね、コガネ」


コガネは麦茶を飲み干して立ち上がる、何も言わずにコガネは自分の部屋に入っていった。

そうだよね、虫が良すぎるよね、でも嫌だよ、私はコガネの側にいたい、嫌われても邪険にされても、私はコガネしかいない、少し気付いたのが遅かったんだね。

私は帰ろうと立ち上がろうとする、でも体は思うように動かない、それどころか涙がとめどなく流れ出す。

そんな事してる間にコガネは部屋から出てきた、コガネは静かに私の隣に座った、私はコガネの方を向いてコガネにしがみつく、醜くてもいい、私はコガネが大好き、それだけコガネに伝われば。


「お願いコガネ、私コガネの事が好きなの、だから側にいさせて、私何でもするから!」


コガネはコガネの肩を掴んだ私の手を払ってポケットに手を入れた、コガネは私の耳に手を伸ばしピアスを慣れた手付きで外した。


「お願いコガネ!それだけは外さないで……………私の宝物なの」


このピアスは私とコガネのお揃い、高校2年の始めに空けた穴にってコガネの誕生日にお揃いで買ったモノ、私はそれ以来ココにはこのピアスしか着けてない。

コガネはポケットに入れた手で私の耳に触れた、今気付けばコガネの耳には違うピアスが着いてる、これがコガネが出した答えなんだ。

コガネは軽く笑って私の前に鏡をだした、ピアスの無くなった私の顔なんて見たくない。


「似合ってるよ」


似合ってる?私は恐る恐る鏡を見ると新しいピアスが着いてる、コガネは前まで私とお揃いのピアスだった場所のピアスを指で弾いてる。

嘘、嘘でしょ?私は交互に何度も見たけど間違うわけがない、このピアスはコガネとお揃いだ。


「誕生日おめでとう」

「え?」

「忘れたのか?今日は俺とヒノの誕生日だろ」


そうだった、今日は私の誕生日でもあるんだ、いつもコガネに言われる言葉だ、いつもと同じ場所、毎年誕生日は二人だけでコガネの家で祝うのが通例、なのに何で私はそんな大事な事を忘れるんだろ。


「コガネは私を嫌いになったんじゃないの?」

「そんなわけないだろ、むしろ俺が嫌われたと思ったくらいだ、ヒノがあんな事言うからさ」


ツバサの言う通りだ、私ばっかり苦しい思いをしてると思ってた、でも私があんな事言ったからコガネは話てくれなくなった、全部私がいけないのに私が苦しいふりをしてた、最低な女。


「ゴメンなさい、本当にゴメンなさい」

「もう良いって、あれだけ必死に好きって言われたからプレゼント渡す気になれたんだ、ヒノがあのまま黙ってたら俺は怖くて何も出来なかったと思う」

「でも、私は何も用意してない」


いつも前日まで考えてるから買うのは当日か前日、だから私にはコガネに渡すプレゼントがない、コガネはあんな事した私にプレゼントを用意してくれたのに。

ダメだ、コガネと一緒にいると私がどんどん惨めになる、私がコガネを支えてるつもりだったのに、コガネに支えられっぱなしだったなんて知らなかった。


「じゃあ頂戴」

「分かった、今から勝ってくる」

「そうじゃない、俺が欲しいのはヒノの全てだ」


そう言うとコガネの顔があっという間に大きくなって、私の唇に柔らかい何かが当たった。













俺は爆発しそうな心臓を無視して、ヒノの唇に俺の唇を重ねた、これが俺の精一杯の触れる程度のキス。

我ながらベタな事したと思ってる、色々な意味で顔の血が沸騰してるみたいだ、でもこれが俺とヒノの始めてのキス。


「貰ったからな、ヒノの初めてを」

「プッ」


ヒノは吹き出して笑い始めた、俺はヒノが笑い声を奏でる度に恥ずかしさが増す、俺はうつ向いて恥ずかしさを抑えてるとヒノに抱きつかれた。


「恥ずかしいなら言わなければ良いのに」

「ヒノの落ち込んだ顔を見たく無かったんだよ」

「でもありがとう」


ヒノの満面の笑み、涙の跡が頬に付いてるしメイクはいつもより薄い、それでも俺には女神に見える、好きな人が俺で笑ってくれる、それだけで嬉しさがこみあげてくる。

でもまだ残ってる、俺はヒノの肩を掴んでそっと話した、ヒノは笑顔だけど俺はまだ本気で笑えない。

ヒノの左の袖を捲るとそこからは包帯でグルグルに巻かれた手首が現れた、ヒノは慌てて隠そうとしたけど、目で訴えると手を退けた。

包帯をほどくと下から痛々しい切傷が現れた、俺は見るのが苦しいくらいだけどヒノはもっと苦しいはず、俺がココで引き下がったらヒノは痛いだけだ。


「この左腕、これも頂戴?」

「冗談言わないで」

「本気だ、今日からヒノの左腕は俺のだ、傷付けてみろ、傷付くのはヒノだけじゃないんだからな」


これが今の俺に出来る精一杯の思いやり、これでヒノがリストカットをしなくなるなら俺はヒノの全てを奪う、それでヒノ痛みが無くなるなら。


「カイに聞いたんだ?」

「カイも知ってるのか?」

「カイに聞いたんじゃないの?」

「カイは秘密を守る男だ、殴っても口は割れないよ、第一こんな事に俺が気付かないとでも思ったのか?」


俺はヒノが落ち込んだ時にリストカットをしてるのを知ってる、毎日俺はヒノが眠ってから傷の手当をしてた、ヒノは俺にバレないようにしてるから手当が不十分だ。

何度手当してる時に吐いた事か、でもヒノの苦しみを考えたらこれくらい楽だろ?

俺は救急箱を取り出していつものように手当した、ヒノは涙を流しながら俺の手当を受けてる、ヒノが痛みで体を動かす度に涙が出そうになるのを堪えてた、俺が泣いたらヒノは罪悪感で苦しくなるだけだ。
















コガネは慣れた手付きで私の腕の処置をする、痛くて顔をしかめたりするとコガネは凄く心配な顔をして見る、その後は空っぽな笑みで手当を続ける。

私が一番コガネには知られたくなかった事なのに、コガネは知らなかったんじゃない、知らないふりをするのがコガネ優しさだったんだ。


「終了」

「……………ありがとう」

「痛かっただろ?ゴメンな、優しく出来なくて」


コガネは大きな両手で私の手首を覆った、コガネは顔を手首を覆った手に乗せた。


「本当は怖かったんだ、知ったらいけない事を知ったような気がして、この傷は俺のせいだよな?」

「違う、コガネのせいじゃない、私がいけないの」


コガネが肩を震わせてるのが分かった、コガネはいつも私の前ではどんな事があっても気丈に振る舞ってた、だから私はコガネが泣いたとこを見た事がない。

でもそのコガネが私のせいで泣いてる、私がこんな事しなければコガネは苦しまずに済んだのに。


「今度からは全部俺に悩みは話せ、分かったな?」

「でも…………」

「悩みを話してくれない方が迷惑だ、それに、ヒノが抱えてる事を迷惑って一言で片付けるほど俺は非情にはなれない。

ヒノは人一倍抱え込み易いんだから、俺にくらいは全部話してくれ」


私、コガネの事好きになって良かった、コガネは誰よりも私を大切にしてくれる、今までの私ならそこまでだった、でも今なら分かる、そこに愛があるからコガネは私の全てを受け入れてくれる。

私が頼ればコガネはそれに応える、私が頼る事でコガネは私に愛を示せるんだ、クールなコガネの不器用な愛し方。




コガネ、もう離さない、私もっと強くなるから、コガネに弱みを打ち明けられるくらい強く、だからコガネはちゃんと受け止めてね。

雷雨編は続きます、次は一日戻ってまた雷雨です、長々とやってすみません。

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