銀と雷雨3
カイと二人でキッチンに立ってる、カイは夕食ぐらいまでは一緒に食べて行ってくれるらしい。
まだ私は手首を切らないとも限らない、そんな爆弾を抱えた私が怖い、だから近くに誰でも良いから人がいてほしい、それがたまたまカイだっただけ。
でも私にとってのカイはややこしい人物、こんなコガネとの関係が不安定な時にカイといるのは怖い。
「何か俺らってよく一緒にキッチンに立ってるよな」
「そういう役回りだから」
「最近思うんだけど、俺とヒノリって相性良いよな」
「…………馬鹿じゃない」
私の気持ちを知ってか知らずか、こういう時だけどんくさいんだよね、不覚にもドキドキしてる私が憎い。
カイはチカの彼氏で私はコガネとの関係があやふやなまま、そんな時にカイに気持ちがグラつくなんて、最低な女ね。
「出来たよ」
「私も」
今日はしょうが焼き、カイがしょうが焼きの方を、私は味噌汁を、まぁ殆ど手分けしてやったからあっという間に出来たけど。
食卓を挟んでカイと二人だけ、ココにコテツ一人でもいれば全く違うのに。
「ヒノリ、味噌汁美味しいよ」
「ありがとう」
カイのしょうが焼きも美味しい、何でカイはこんなに料理が上手いんだろ、これはもう好きだからとかじゃなくて才能だよ。
「何か雷酷いな」
「カイは帰れるの?」
「大丈夫じゃない、何とかなるでしょ」
そう言ってカイはテレビを付けた、案の定ニュースで大雨の事をやってる、でも明らかに私が想像してるのよりも酷い光景が写し出された。
「コレって、洪水だよな?」
「どう見ても洪水ね」
「………帰れねぇ」
カイがショックを受けてるとカイの携帯にメールが入った、カイは携帯を開けると何故かビックリしてる。
「二通も同時に来たよ」
「誰と誰?」
「コテツと…………コガネ」
コガネ?何でコガネはカイにメールをしたの?しかもコテツからって、謎が深まるばかりだ。
カイは2通のメールを見て笑いだした、余計に気になる、何でメールで笑えるの?
「どうしたの?」
「とりあえず見ろ」
まずはコテツからのメールだ。
《チカはんが家にいるんやけどどうにかしてぇや》
という切実な叫び、今日生徒会の事があったから一緒に帰って、色々と?
次に緊張するコガネのメール、何か見るのが嫌な気分もする。
《ツバサ君が家にいる、うるさいから早く引き取れ》
私も思わず吹いた後に何となく悲しくなった、コガネの家にはツバサがいるんだ、多分コガネはなんだかんだ言いながら笑ってるんだろうな、ツバサの事だから何するか分からないし。
「コガネが心配か?」
「ちょっとね、相手がツバサだし」
「大丈夫、アイツは何も…………しないって断言出来ない」
カイと本気でお風呂に入ろうとしてるツバサがコガネに何もしないと断言出来ない、一緒に寝るのは序の口かもしれない、ツバサがこんなに怖い女なんて思わなかった。
「それにしてもこの二人、俺に頼るなよ」
「良いの?彼女と妹が寝盗られても」
「コテツは冗談でそういう事は言うけど死んでも実行しないし、コガネがこういう事が出来たら今頃ヒノリは悲しんでないだろ」
鋭い、コテツの冗談は過ぎるけど、所詮は冗談、言って終わり、コガネは彼女の私にも出来ないくらいだからツバサなんて無理でしょ。
でもツバサと一緒にいるだけで不安、今まではやきもちなんて妬いた事なかったのに、何で離れると愛しくなるの?
「ねぇ、洪水だし帰れないから泊めてよ」
「えっ?」
「こんなイケメンを洪水なのに帰すの?」
普通自分でイケメンって言わないよね?カイってナルシストだっけ?
でも否定が出来ない、確かにかっこいいよ、だけどコガネの………、カイと同じ事を言いそうになった、離れてから私がおかしくなってくる。
「で、どうなの?」
「でも………」
「別に襲わないからさぁ」
「…………不純」
「別々でも良いから、お願い!」
カイは頭の上で手を合わせて懇願してる、別にコテツなら何も迷わないけど、カイだからね、多分友達として頼れるだけなんだろうけど、今の私はそれだけでも心が揺らぐ要素なんだよね。
「い、良いよ」
「マジで!?ありがと、やっぱりヒノリは良い女だ」
良い女?そんな事満面の笑みでカイに言われたら誰でも惚れるよ、現に私の心もグラグラ揺れてるし。
「顔真っ赤だよ、俺に惚れた?」
うっ、鋭い、っていうか冗談なんだよね、今の私には冗談も凶器。
カイにドキドキしてるのも全部コガネのせい、コガネが私を引き止めてくれれば今頃はコガネと…………。
「今コガネの事考えてただろ?」
「…………な、何で分かったの?」
「そりゃ分かるよ、いつもコガネの話してる時だけ良い顔してるんだもん」
私ってそんなに分かりやすいんだ、あんまり感情は表に出さないようにしてるのに、カイといると隠し事が出来ないから嫌、チカは嫌にならないのかな?
「多分コガネは仲直りしてくれるよ、もしかしたら今頃ツバサの胸で泣いてるかもな」
私の手に力が入るとお箸が綺麗に二つ折りになった、私は食べ終った食器を片付ける時、カイの青ざめた顔が目に入った。
でもツバサは誰にでも優しいし、コガネは押しに弱いし。
「ツバサが『泣かないなら僕が泣く』とか言ってコガネに抱きついて泣いてそうだな」
「ダメだよそれは!」
「ダメって言われてもな、コガネくらいならキスも出来るんじゃない?」
めまいがしてきた、気付いたら目の前がグルグル回って床に寝てた、カイは慌てて抱き上げてくれるけど…………、顔が近い、近くで見ても否定の余地がない顔、何か悔しい。
「大丈夫だよ、コガネはヒノリ以外とはキスしないと思うから」
顔が近いまま言われても耳に入らない、吸い込まれそうなこの瞳に見つめられたら何されても良いって感じ、実際にされたら軽蔑するけど。
「ヒノリも俺の胸で泣く?」
「泣かない」
「ヒノリなら喜んで貸すんだけどな」
「いつからそんな軽い男になったの?」
「軽くなんか無いよ、好きじゃない奴に胸は貸さないって、チカもコガネもいなかったらこのまま襲いたいくらいなんだから」
カイ、それはダメだよ、思ってても絶対に言っちゃダメだって、しかもそんな事言われたら私のグラついた気持ちが…………。
「冗談だけどね」
そうだよね、そうじゃなきゃ私が困る、私はカイから離れた、もうこの人の側にいたら私がおかしくなる。
「じゃあ俺は寝るから、どこの部屋使えば良い?」
「兄さんの部屋なら大丈夫」
「分かった、ヒノリのベッドで待ってるよ」
「カイ!」
「冗談だよ、おやすみ」
私はおやすみと一言言ってカイの背中を見送った、ドキドキしっぱなしだったけど冷静になって気付いた、カイは私を元気付けようとして冗談を言ってくれたんだ、多分落ち込んだままカイがいなくなったらまた切ってた。
ありがとう、カイ。
私はその日、ぐっすり眠れた、こんなに眠れたのはコガネと一緒に眠った時くらい。
次の日、乾燥機で綺麗に乾いた制服を着たカイがキッチンに立ってる、ってかもう殆ど出来上がってる、早起きなんだ。
「おはよう」
「おはよ、よく眠れた?」
「うん」
「良かった、ほら、早く食って学校行くぞ」
「そんなに慌てなくてもまだ…………」
私は時計を見てビックリした、既に時計は8時になってる、普通ならもう家を出てる時間だよ、間に合うけど私的にはやばい。
「早く行くんだろ?食べやすいようにサンドイッチにしといたから」
「ありがとう」
私はサンドイッチを食べて(正確には押し込んで)部屋に向かった、着替えて最大限のスピードでメイクをしたらもう20分、メイクは殆どすっぴんに近いけど…………、ヤバいけどなんとかなるよね?
降りると笑顔のカイがいた。
「行こう」
家から学校はそんなに遠くない、っていうかかなり近い、歩いて10分の近さ、この時間帯は人で溢れかえってる。
教室に入ると既にコテツとチカがいた、チカは不安そうな顔で私達を見てたけど、カイが一声かけると一瞬で明るくなった、恐るべしカイ。
私はいつものように本を読んでた、いや、本当の事を言うと本を読みながらコガネを待ってる、でも無情にも朝のホームルームのチャイムが鳴り響く。
しかしそれと同時に廊下からかなり大きな叫び声が聞こえた、叫び声は次第に大きくなり、最終的には教室に入ってきた。
叫び声の主は当然コガネだ、コガネはツバサを脇に抱えながらチャイムが鳴り終わると同時に教室に入った、欠席はあっても遅刻はないコガネ、時間に遅れるのが嫌だったんだ。
「よく頑張ったね、コガネん」
「誰のせいで……、こんなに……、遅れたと思ってるんだ?」
「それはコガネんが僕を早く起こさないからいけないんだよ」
今の起こさなかった発言にクラスのほぼ全員が二人を見た、そして何やらヒソヒソと近い者同士で話てる、私の隣の人は遠慮して何も言ってこない。
「メイクが長いんだよ」
「女の子のメイクは長い―――」
「その二人!サッさと座れ!」
いつの間にか教壇に立ってたミドリ先生が怒鳴った、二人は渋々席に戻るとホームルームが始まる、二人とも私になんの挨拶も無いまま。
昼休み、私が弁当を持って退散しようとした時、誰かに腕を掴まれた、私は腕を辿って行くとツバサの険しい顔が目に入った。
「何?」
「コガネんに謝る事があるでしょ?」
「ツバサ君、これは俺とヒノの問題だ、ツバサ君が首を突っ込むな」
コガネがいつの間にか隣にいる、私はツバサを睨むふりをしてコガネの目を見ないようにした。
「だって!コガネんは悪く無いんだよ、ヒノノが謝らなきゃいけないのに!コガネんがいつまで経っても何も言わないから!」
ツバサの言葉の一つ一つが胸に突き刺さる、確かに今回の件はコガネのせいじゃない、少なからず原因がコガネにあるとしても、私がいけない。
「ツバサ、余計な事するな」
「おに………、カイは黙ってて、コガネんの何も知らないくせに!」
「ツバサ、確かに悪いのはヒノリだ、だけどツバサだってヒノリの何も知らないだろ?」
「知りたくない!何で?何でコガネんが――――」
「もう辞めてくれ、俺とヒノで片付けるから、二人は口を挟むな」
コガネが二人を制止して歩き始めた、コガネは教室の出口で私を軽く見て合図する、それが着いて来いって意味だって事は容易に分かった。
シャッフル2回目はどうでしたか?ちなみに一回目は肝試しです、まだシャッフルはある予定です、楽しみにしててください。