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銀と雷雨1

昨日の今日、当然コガネは何も言ってくれないし見てもくれない、やっぱりその程度なの?大事なら引き止めてよ、私は本気でコガネと別れたいんじゃない。


コガネは足早に帰って行った、いや、逃げた、コガネだけが辛いんじゃない、私だって辛いの、コガネの事を考えるだけで傷が痛む。


コガネがいない生活がこんなに苦しいなんて、物心ついた時から隣にはコガネがいた、最初は確かに兄妹みたいなモノだったかもしれない、でもあの日から変わった、そう、全てはあの日から歯車が狂い始めたのかもしれない。










―――――――――――――

あれは私が中学2年生の頃、まだ普通の日本人として生活をしてた頃、私はクォーター、お母さんの方のお祖母ちゃんがロシア人、その血を濃く受け継いだ私は瞳が灰色というよりは銀色、この事を知ってるのはコガネだけだった。

その日は3年生の先輩に呼び出されて、放課後まで教室にいた、先輩は教室に緊張しながら入って来るといきなり告白された。

慣れてた私は簡単に断って、先輩の目を見据える、その時はコガネが好きとかそういう理由じゃなかった、ただたんに好きじゃないから、それだけ。

先輩は泣きそうな目で私を見てくる、でもその目はだんだん驚きへと変わった。


「春日、目、どうしたんだ?」

「元から」

「日本人じゃないのか?」

「日本人よ、お祖母ちゃんがロシア人なだけ」

「けっ、日本人じゃねぇのかよ!日本人じゃない奴に告って損した」


かなり無理のある負け犬、でも始めて受けた差別に私は心が痛んだ、始めてこの瞳を恨んだ。

でも本当に辛いのは次の日からだった。




次の日、昨日の傷も癒えていつものように学校行った、その頃は遅刻しない程度の時間に登校してたから人は沢山いる。

私が友達と一緒に教室に入ると、窓側の一番後ろに人が溜ってる、あそこは私の席?

私は人を掻き分けて自分の机にたどり着いた、私の机が昨日と違う、机の上に所狭しとマジックで文字が書かれてる。


《混血》《異人》《日本人じゃない》《自分の国に帰れ》《死ね》……


その言葉の一つ一つが私の心をえぐった、瞳の事をなんと言われようが構わない、でもこういう形でこういう言葉で書かれたのが苦しかった。

私はそのまま教室を出ようと人混みを出た、扉から出ようとした時、誰かに強くぶつかった。

私は尻餅を付きながら見上げると眠そうな顔をしたコガネがいる、私はそのまま涙を流してた、コガネは驚いた表情で私の肩を揺らす。


「どうした、ヒノ?」


私は黙ってるとコガネは人混みを見つけた、睨むようにそれを見ると自然と人混みが別れて道が出来る、コガネは吸い込まれるように私の机の所までゆっくりと歩いて行った。


「誰がやった!?」

「「「……………」」」


コガネのキレた時の声、喧嘩する事はあってもキレる事はあんまりない、そのコガネがキレる事は皆無に等しい。


「誰がやった!?言わねぇんなら片っ端からぶっ殺すぞ!」


今度は机を殴りながら叫んだ、教室は静まりかえって私のすすり泣く声と脅えて泣き出す女の子声だけが響く。


「テメェ、知ってるか?」


コガネは近くにいた男子の胸ぐらを掴んで聞いてる、男子の足はあり得ないくらい震えて今にも泣き出しそう。


「し、知りません!」


コガネは机の足を持って、そのまま机で窓ガラスを割った、大きな音と共に男子は泣き出した、コガネは机を担ぎながら睨み続ける。


「もう一回聞く、誰がやった?」

「は、橋本君です!」

「橋本!!」


今度は同じクラスの橋本の方に道が開く、橋本は苦笑いを浮かべながらコガネを眺めようとしてる、コガネは机を担ぎながら橋本に近寄る。


「い、五百蔵聞けよ、春日はロシア人、ごぉふぉ!」


コガネは問答無用で机で橋本を殴った、橋本は頭から血を流して倒れてる、気絶して教室の床が徐々に赤く染める、泣いてた女の子も泣き止んだ。


「他には!?一人の字じゃねぇよな!」

「「「………………」」」


恐怖で誰も口を開こうとしない、私もこんなコガネを見るのは始めて、いつも私といる時は可愛い笑顔なのに、今のコガネは私でも怖い。

コガネは机を窓から外に投げ捨て、近くにいる不良っぽい人や目立つ人を殴り始めた、回りの人は止める事もしない。


「辞めてコガネ!」


私は見るに見かねて叫んでた、それと同時に先生が教室に入ってきてコガネを取り押さえる、コガネは力が抜けて抵抗してない。

机はめちゃくちゃになり床には怪我をした人が何人も、大体が気絶してる。

私は仲の良い友達に連れられて保健室に連れて行かれた、他の生徒は全員帰されて私も兄さんが来るまで待つことしかできなかった。




私は夜コガネの家に行った、両親も兄さんにも強く反対されたけど私は何故かコガネに会いたくなった。

コガネの部屋に向かう階段を登ってると、上からスーツを着た中年の男性と、スーツを着たまだ若い男性が降りてきた、私は軽く会釈すると中年の男性は立ち止まる。


「私の息子が迷惑をかけたようで、息子に変わって謝らせていただきたい」

「そんな事は―――」

「あのクズには近寄らないでいただきたい、春日のところの娘にまでクズを移したくないのでな」


コガネの事を息子やらクズと呼ぶコガネの父親、小さい頃はよく見てたけど、コガネがココに引っ越してからは見てない。

コガネの父親はそのまま階段を降りて行った、私は迷わずコガネの部屋を目指す。

合鍵でドアを開けるとベッドでうなだれるコガネが目に入った、私はコガネの前に座るとコガネを見上げた。


「今日はありがとう」

「大丈夫か?」

「コガネも大丈夫?」

「あのクソ親父が全部揉み消してくれたよ、無駄な事しやがって」


コガネの父親は何かとコガネのやった事を揉み消してる、自分の名前に傷が付くのを嫌うからだ。

コガネもまだ中学生だ、少しは父親に構ってほしいんだと思う、でもコガネの父親はコガネを邪魔者扱いして自分から遠ざけようとする、コガネの何も知らないくせに。

コガネがこういう不良っぽい格好をしはじめたのは小学校6年生の時だった、私もビックリしたけどコガネがオシャレって言ったから私は信じた、現に中身は何も変わらない優しいコガネのままだったから。

コガネの中身を変えたのは父親に捨てられてから、少しずつ父親と喧嘩する事が多くなってきて、最終的にはこの家に隔離された。

私はコガネの全てを知ってたから出来るだけ毎日来るようにしてた、それは幼馴染みとして、自惚れじゃなければ私がいなかったらコガネは今頃犯罪という犯罪に手を染めてたかも、まだ喧嘩だけしかしてないから良いけどね。


「何て言ってたの?」

「『また余計な事しやがって、お前は何もせずに大人しくしてれば良いんだ、私や白金の邪魔をするな』だとよ、正直シロの名前が出てきた時はしんどかった」


コガネがシロと呼んでるのは弟の白金、コガネとは正反対で父親の思った通りに育ってる、コガネは小さい頃から自由にやってきたから何かと比べられてきた。

コガネは比べられる事は嫌がって無いけど、コガネをけなす時に使うから嫌らしい。


「まぁいつもの事だけど、久しぶりに言われると堪えるな」

「コガネ…………」

「悪いな愚痴っちゃって、あれから飯食ってないから腹減った、何か作って」

「分かった」




私がコガネを好きになったのは多分その日からだと思う、次の日から私はコガネに弁当を作って行くようになった、コガネは最初の方は驚いてたけど一ヶ月もすればそれが当たり前。

その時から半同棲生活も始まった、親にはどう思われてるか分からないけどその時コガネを支えられるのは私だけ、私を分かってくれるのもコガネだけだった、多分、必然的にお互いを支えあってたんだと思う。

―――――――――――――












あれから4年、私は始めてコガネと喧嘩した、いや、コガネがいた人生の中で始めて、でもお弁当を作るのだけは辞めれなかった。

何かあって学校を休んでもお弁当だけは家に届けてた、だから私が作ったお弁当をコガネが食べないのも始めて。



コガネとツバサが早退してからすぐに雨が降り始めた、コガネのお弁当は食べるべき人を無くした、私はトイレに行って無意識の内にコガネのお弁当を流してた。

全部が終わったんだ、コガネといた17年間、そういえば明日はコガネの誕生日だ、もう誕生日プレゼント買えないんだよね。

あんな事言わなきゃよかった、好きなのに、好きだからこそコガネの優しさが辛い、でもこれからはその優しさもない。

私はスカートのポケットから小さな袋を取り出した、それを左手に持ち右手で左手の袖を捲る、腕には私が巻いた包帯、包帯の下には真っ赤なガーゼ、包帯はスカートのポケットに入れてガーゼは流した。

ガーゼの下の手首からは傷口の塞がってない昨日の切傷、その他にも無数の切傷。

私は左手に持った袋から剃刀の刃を取り出す、その刃を左手手首に当てた。














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