碧と雷雨
コガネんとヒノノが朝から話してない、それだけならまだしも避けてるようにも思える。
僕は皆が仲良しでラブラブが良いのに、いや、そうじゃなきゃダメなのに、何で一番安定してたあの二人なの?
僕はチカチカを呼んでトイレで聞いてみた、でもチカチカも何も知らないみたい。
何だか嫌な気分、もう帰ろう、このまま学校にいても嫌な思いするだけだもん、皆沈んでるしヒノノは怖いし。
僕はいつもよりゆっくり歩いてる、今までの鮮やかな帰り道じゃなくて無機質、僕の事じゃなくても苦しいよ。
僕はたまに皆で寄る公演の前を通った、広いんだけど今の時間帯は誰もいない、そんな中に頭を抱えてベンチに座るコガネん。
僕は速足でコガネの前まで行くと、目の前に立った、コガネんは僕に気付いてゆっくりと見上げる、その目は力無く弱々しい目、そして悲しみと苦しみがにじみ出た顔。
僕はコガネんの顔を見て悲しくなっていつの間にか涙を流してた。
「…………ツバサ君か」
「コガネん、大丈夫?」
コガネんは無理に笑顔を作った、もう見てられないよ。
「正直辛い」
「笑わないで良いよ、泣いて良いんだよ」
「泣けたら楽かもな、泣きたくても泣けないんだ」
泣けない何てあるの?でもコガネんは本当に辛そう、僕は目の前で苦しがってるコガネんを楽にさせてあげたい、でも何も出来ないよ。
「俺の愛が足りないんだとよ」
「そんな事無いよ、コガネんは必死にヒノノを愛してたじゃん」
「大事にされてるだけだって」
大事にするのと愛するのは違うの?愛するモノしか大事に出来ないよ、それなのにそこに愛は無いの?
ヒノノは間違ってるよ、コガネんは誰よりもヒノノの事を愛してるのに。
「『私は兄妹なんでしょ?』だって、ヒノが妹ならどれだけ楽か、ヒノが一人の女になった時から俺は毎日苦しかった、兄妹扱いした方が何倍も楽なのに」
ヒノノはどうしちゃったの?僕にはコガネんの言ってる事が間違ってるとは思えないよ、それともヒノノがコガネんを愛せなくなった言い訳とか?
何でだろう、何でヒノノを悪者にしちゃうの?僕の中でどんどんヒノノが嫌な人になってる、それ自体が嫌なのに、僕の思考は一人歩きしてヒノノを悪者に仕立て上げる、嫌だよ、コガネんもヒノノ大事な親友なのに。
「好きなんだ、どうしようも無いくらいに」
「知ってるよ、ヒノノもコガネんの事を好きなんだよ、でも今は迷ってるだけだよ、コガネんがヒノノに愛を示せば分かってくれる」
「ヒノが考える愛って、き、き―――」
ザーー!!
コガネが言い終わる前に物凄い雨が降って来た、あっという間にびしょびしょだよ。
「とりあえず俺ん家に行くぞ」
「うん」
僕とコガネんは走ってコガネんの家に向かった、走ってる間はコガネんはYシャツを僕の雨避けにしてくれた、コガネんはTシャツを着てるから良いんだって、やっぱり優しいね。
コガネんの優しさは有りがたかったんだけど、雨の酷さには敵わなかったらしい、やっぱりびしょびしょだよ、でもコガネんの暖かさは伝わったよ。
「お風呂貸して」
「返せよ」
「むぅぅぅぅ」
「冗談だって、自由に使え」
今コガネんが笑った、僕がいる事でコガネんが少しでも楽になるなら嬉しいな、コテツもこれくらいなら許してくれるよね。
「でも下着もびしょびしょだよ」
「じゃあ帰れば」
ゴロゴロ!
「キャー!」
カメラのフラッシュよりも強い光と共に雷が近くに落ちた。
「つ、ツバサ君、離れて」
「あれ?アハハ!」
僕はビックリしすぎてコガネんに抱きついてた、コガネんは顔を真っ赤にしてる、可愛いなぁコガネんは。
「で、下着が無いし、寒いのに、このままか弱い女の子を誰もいない家に帰らせるの?」
「う、上目で言われてもな」
「じゃあお願い、裸でも良いから家に置いて」
コガネんは鼻を押さえてしゃがんでる、耳まで真っ赤だな、でも本当に何も無いなら裸でいようかな。
「ヒノのを使えよ」
その瞬間コガネんの顔が悲しそうになった、僕はそういう意味で言ったんじゃないのに、下着を着けなくても良いから服だけ貸して欲しかったのに。
「…………ゴメンね」
「気にするな、むしろツバサ君のお陰で少し楽になった、ありがとな」
コガネんが優しく笑った、今度は苦しくない自然の笑顔、でもこの笑顔はヒノノのために取って置いてほしいな。
「そこのタンスの一番上にあるから、好きなの使え」
「ゴメンね」
「だから気にするな」
僕はコガネんの優しさを無駄にしないように借りる事にした、タンスには寝るときのモノから私服、学校に行くときのモノまで全てが少しずつ揃ってる、これだけで生活出来るよ、それを見て僕は更に苦しくなった。
にしてもヒノノのブラは大きいな、こんなで本当にポロリしないのかな?ヒノノ恐るべし。
「Tシャツはコガネんの貸してよ」
「別に良いけど大きいぞ、ツバサ君なら尚更な」
「だって大きいと安心しない?」
「しない」
即答、何かあのユルユルでダボダボでブカブカなのが何か落ち着くんだよね、お姉ちゃんは鎖骨が見えて色っぽいって言ってくれたし、コテツは新境地だって。
「お兄ちゃんの着たらハマっちゃったんだよね」
「その下にあるから適当に持ってけ」
僕は一式持ってお風呂場に向かった、脱衣所にはメイク落としとか色々女の子の必需品がある、定番の一つのカップに二つの歯ブラシ。
お風呂場にもシャンプー・リンス・トリートメント、全部が女の子向け、コレって…………同棲?コレを見てたらまた悲しくなってきた、僕は涙を流しながらシャワーを浴びた。
おかしいよ、好きなのに何で別れるの?コガネんが可哀想だよ。
僕は二人の思い出が詰まったこの場所にいるのが嫌になって早めに出た、僕は体を拭いてるとまた涙が出てきた。
頭もろくに拭かないで走って、布団でテレビを見てるコガネんに抱きついた。
「ど、どうしたんだよ!?」
「コガネん!ヒノノとやり直してよ!」
「いや、その前にその格好」
「やだよ!絶対におかしいよ、何でコガネんとヒノノと別れなきゃいけないの!?」
「た、頼むから、ズボン履いてくれ」
僕はやっとコガネんの言葉が耳に入って自分の格好を見た、Tシャツにパンツだけ、別に僕的には普通だけどコガネんには刺激が強すぎたかな。
「でもほら、立てば分からないって」
「だからって―――」
「それより!ヒノノ事は好きなんでしょ?」
「当たり前だろ」
「なら今からでも仲直りしてよ、この家にはコガネんとヒノノがいなきゃ寂しいよ」
コガネは黙ってうつ向いてる、こんなに二人で暮らせるようになってる家に、一人で暮らすなんてただの拷問だよ。
「今日は待ってくれ」
「じゃあ明日仲直りするの?」
「そうじゃないけど―――」
「何ですぐにしないの!?好きなら早くしなよ!」
「うるせぇな!俺の事何だから口出しするな!」
コガネんが怖い、でも今のは僕が悪いな、コガネんの言う通りだよ、僕が嫌な気分になるからコガネんとヒノノに仲直りしてほしい、でも二人の幸せを願ってるのは本当だよ。
「ゴメン、言い過ぎた、泣くなよ」
「泣いてないよ」
「こんなに涙流して、ゴメンな」
コガネんは僕の涙を親指で拭いてくれた、確かに僕は泣いてたんだ、僕はコガネんの優しさで拍車がかかって更に涙が出てきた。
「そんなに泣くな」
「コガネん!」
僕はコガネんの胸に飛込んだ、腕を回してコガネんの胸を涙で濡らす。
「ツバサ君、離れてくれよ」
「やだ!コガネんが泣かないから僕が泣く!だから………胸貸して」
「ヒノには言うな」
コガネんありがとう、僕がこんなに泣いてどうするんだろう、でも涙が止まらないよ、僕が泣いちゃいけないのに、悲しいのは僕じゃなくてコガネんのはずなのに、僕がコガネんを慰めてあげなきゃいけないのに。
僕はどれだけ泣いたか分からない、涙が渇れるって表現がなんとなく分かったような気がする、もう涙を絞ろうとしても一滴も出ない、これ以上泣く資格が無いって事かな。
「もう良いのか?」
「うん、ありがとう」
「目が真っ赤だぞ、顔洗ってこい」
僕は素直に顔を洗いに行く事にした、鏡で見た僕の顔は本当に酷い、もう言葉で表すと自分が惨めになるくらい。
気持ちも顔もすっきりして、戻ると窓を開けて外に出ようとしてるコガネんがいる。
もしかして、そんな事って、だから顔を洗うように行ったの?
「コガネん早まっちゃダメだよ!」
「はぁ?」
僕は走ってコガネんを引き止めた、いくら悲しいからって自殺なんか、自殺したら良くなるモノも良くならないよ。
「コガネんが死んだら皆が、ヒノノが悲しむよ!」
「俺が死ぬ?」
「自殺なんかしても誰も報われない、当然コガネんも!」
「何か勘違いしてるみたいだけど、俺はただたんに外が見たかっただけ、それに2階から飛び降りて死ぬ方が無理だろ」
えっ?自殺しないの?何だぁ、つまんないの、…………って何不謹慎な事言ってるんだろ。
僕はコガネんが見てた外を見てビックリ、この見事な2階建デザイナーズ物件が川に浮いてる、どうしよう、帰れないよ。
「何で川に浮いてるの?」
「川に浮いてるんじゃねぇ、道が川になってるんだよ」
「道が川?」
「そう、洪水になってるの」
……………洪水!?そりゃ大変だよ!一大事だ、お兄ちゃんとかちゃんと家に帰ったかな、チカチカとデートして帰れなくなってないかな。
「どうする?タクシーならまだ呼べるぞ」
「今日は帰らないよ」
「はぃ?」
「家に上がった時から傷心してるコガネんを慰めるために泊まる気でいたから、良いでしょ?」
「良いわけ無いだろ!さっさと帰れ!ツバサ君がいると余計に傷心する」
もう、照れちゃって、そんなに僕と一緒に寝るのが恥ずかしいからって、そこまで照れ隠ししなくても良いのに。
「大丈夫だよ、ちゃんと反対向いて寝るから」
「そういう問題じゃないだろ!それ以前に一緒の布団で寝るつもりだったのかよ!?」
「だってベッドが一つしか無いじゃん」
「俺が布団敷いて下で寝るって発想が浮かばないのかよ?」
「だってコガネんと一緒に寝てみたいんだもん」
お兄ちゃんとは週1くらいは寝てるし(半ば強引に)、コテツもよく一緒に寝るし、あとはコガネんだけじゃん、やっぱり目標は完全制覇だよね。
「ベッドが嫌なら下で一緒に寝れば良いじゃん」
「ベッドとか下とかそういう問題じゃなくて!一緒に寝る事自体がダメなんだよ」
「か弱い女の子を一人で寝かすつもりなの?」
「ガキじゃないんだから一人で寝ろ」
コガネんがあまりにも意地っ張りだから最終手段、目に涙を溜めて泣くふり、コガネんはあたふたしながら頭を掻いてる。
あと一押しだ、最後は鼻をすすって涙を人差し指で拭った。
「分かった分かった!床に布団を二つ敷いて寝る、それで良いだろ?」
「今日はそれで我慢するよ」
「‘今日は’ってまた来るの?」
「機会があれば」
「来るな、ってか入れない、ツバサ君を除去するために一刻も早くヒノに俺の気持ちを伝えなくちゃな」
わあぉ、何か僕の事ばっかり考えてたら結果オーライ、でもヒノノと仲直りする理由にしては微妙だよね、まぁ理由は何にせよ仲直りすれば良いんだよ!
僕は冷蔵庫にあるモノでご飯を作った、僕だってご飯くらい作れるよ、そりゃお兄ちゃんやお姉ちゃんよりは美味しくないけど、ヒノノには負けたく無いな。
今日は賞味期限ギリギリの挽き肉がいっぱい余ってたからハンバーグです、多分ヒノノが今日作ろうと思ってたんだろうな。
「どうどう?美味しいでしょ?」
「意外に美味い」
「意外って酷い!」
「まぁヒノには負けるけどな」
「またヒノノの自慢、そんなに好きなんだ」
「当たり前だろ、俺には後にも先にもヒノしかいない、そこら辺の女なんかミジンコ以下だ」
それくらい好きなら大丈夫だね、ヒノノも少しカッとなって変な事言っただけだよ、ヒノノもそう簡単にコガネんを嫌いになれない。
だって二人を見てると運命を信じたくなるんだもん、二人は幼馴染みっていう肩書きの赤い糸で結ばれてるからね。
僕はお姉ちゃんとお兄ちゃんに泊まるとだけメールを送った、誰の家とも言わなかったけど二人共何も聞いてこなかった、まぁいつもの事だけど。
布団を二つ並べて敷いて寝てる、何か襲われちゃいそう、コガネんならキスくらいは許せちゃうな。
「そんなに近付くな」
「何でよ?別に襲うわけじゃないんだから良いじゃん」
「あぁもう!寝る!構うな」
コガネんは反対側を向いて布団を被った、僕は何だか嬉しくなってその大きな背中を眺め続けた。
街灯とたまに落ちる雷だけがコガネんを照らす、そしてコガネんが寝息をたて始めた時、僕はそっとコガネんを後ろから抱き締めた。
少しでも暖かく、少しでも心の傷を癒したかったから。
何かいつの間にか評価があり得ないくらい上がってました、嬉しいです、これからも頑張りますんでよろしくお願いします。
雷雨編はまだまだ続きます、次は分かると思いますが、楽しみにしててください。