多色の帰り道
わいらはいつの間にか皆とはぐれとった、まぁ遅かれ早かれ別れるつもりやったから大した事ではないんやけど。
最近ツバサが遠くに行ってしまいそうで怖いんや、あんまり構ってやれへんしツバサにも生徒会の仕事を押し付けとる、すれ違うばかりや、だからツバサの心変わりが怖くてしょうがない。
「ツバサ、ツバサはどこにも行かないよな?」
「何で?」
「何となくや」
「行かないよ、コテツが行かなきゃね」
今はこの言葉がわいを支えてくれる唯一のモノや、今は空手よりも何よりもツバサが一番、せやけど生徒会や部長や道場はわいだけの事やない、投げ出す事は簡単やけどそれじゃあ自分で自分を許せない。
何でこないにツバサの事を好きになってしもうたんやろ、好きなだけなら耐えられた、せやけど今はツバサを心から愛してる、鎖で繋いで側にくくり付けておきたいくらいにや。
離れるくらいなら殺したいくらいに歪んでる、ツバサはわいのモノや、誰に何と言われようが、おかしいと言われようがツバサは離さん、それがわいの愛やから。
「何で着いてくるんだよ!」
「さっきからギャーギャーうるさいなぁ、送りたいから送ってるんだよ」
「でも悪いですし…………」
俺は前にいるチビとチビ子の間に入って肩を組んだ、チビはビックリして俺をマジマジと見てる、チビ子はあからさまにイライラしてそっぽを向いてる。
「お前ら少しは気を遣え、お前らを送って行けばそれだけチカと長くいれるだろ、別にお前らの身の危険を案じてる訳じゃないんだよ」
チビは落ち込んだように下を向いた、チビ子はため息と共に頭を押さえて下を向いた。
「潤間先輩!コイツと一緒にいると玩具にされますよ!」
「俺がいつそんな事を言った?」
「大丈夫だよ、カイの半分は性欲で出来てるから」
「あとの半分は何ですか?」
チカは顎に手を当てて明後日の方向を見た、ってか俺の半分が性欲って、そんな風に見られてたんだ、しかも性欲って女の子が発する言葉じゃないだろ。
「アタシの独占欲?」
「ハハッ!確かにそうだな、変態だけが取り柄だし」
「あぁ?テメェも欲の捌け口に成りたいか?」
ゴツッ!
チカに頭を思いっきり殴られた、しかも全体重を乗せた右ストレートが後頭部に、女の子の力じゃねぇ、ってか男よりも強いだろ、殺人マシーンの素質ありだな。
「アタシだけならまだしも他の女の子にまで………」
「冗談だって、ってかこんなガキに手を出したら犯罪だろ」
「誰がガキだって!?」
ボフッ
俺のみぞおちにチビ子の膝がめりこんだ、コイツもチカに負けず劣らず尋常じゃない強さだな、遠退く俺の意識を繋ぎ止めてるのは倒れてる俺の肩を揺らしてるチビ。
「四色先輩大丈夫ですか!?」
「ありがとう、俺の事を心配してくれるのはチビだけだよ」
俺はそういって仰向けになりながらチビを抱き締めた。
「ヒャッ!」
「お、おい」
「カイ、ついに男の子にまで………」
「俺の事殴る女の子より、俺の事を心配してくれる女の子みたいに可愛い男の子の方が良いだろ」
俺は冗談でチビの頬にキスをした、男相手なら唇じゃなければ大丈夫だろ、女の子はどこにしてもダメだけど。
「なななななな、何するんですか!!?」
「キス」
「はぁ、さすがにやりすぎだろ」
「お前馬鹿だろ!?キスする奴がいるか!」
「チビ子もして欲しい?」
「ハルキはダメ、ユウキは男だから冗談で済むけど」
チビ子も十分男だろ、むしろチビよりもチビ子の方が男だな、まぁ一応生物には性別っていうモノがあるし、チビの頬にキスするのが限界だな。
「とりあえずユウも離れろ!」
チビ子はチビを持ち上げて俺から離した、チビは放心状態、チビ子も異様に慌ててる。
俺はその時やっとあることを思い出した、チビが若干ノーマルから反れてるって事に、少し悪戯が過ぎたな。
「ユウ!大丈夫か?」
「…………………」
「私達はこれで帰るから!近くだから送らなくていいからな!」
チビ子はそのままチビを担いで帰って行った、笑ってチカの方を見ると呆れてため息をついてる、でも今日のキスが男だけってのも悲しいよな。
「チカ、キスしてよ」
「な、何でアタシが?」
「約束したじゃん」
「……………そういえば」
俺はその言葉を聞いてショックを受けたふりをして、道の端っこでいじけたふりをした、忘れてるってのは何となく感付いてたんだけどね。
「分かった、き、キスするから!」
「本当に?」
「…………………」
チカは口を開けてフリーズしてる、何故かというと俺が少し悲しい顔をして振り向いたから、俺って演技派、それに新境地。
「どうした?」
「不覚ながらドキッとした」
「女の子もこういうのにドキッとするんだ」
「カイだからだよ」
「ありがとう、じゃあキスして」
「チッ」
今舌打ちした、これで流そうと思ったんならまだまだだね、チカは街頭の薄い明かりでも分かるくらい顔が真っ赤になった。
「目、瞑って」
「はい」
俺は目を瞑ってチカの唇を待つ、数秒すると俺の唇にチカの柔らかい唇が当たった、触れる程度だけど俺からするのとチカからするのとじゃあ違うね、なんかあったかい。
「帰ろう」
「………………うん」
クリコは元気が有り余ってるらしく俺とヒノの前を歩いて騒いでる、クリコのそういう姿を見てると和む、ヒノとこうやって手を繋いでると全てが満たされる、どっちも今の俺には手放せない存在。
「五百蔵先輩と春日先輩って本当にお似合いですね」
「だとよ、ヒノ」
「そうね」
何だかそっけないな、まぁ部活終わりでここまで付き合わされたら疲れるよな、ヒノは後輩とかを相手にしない分、人一倍動くからな、ガキを扱うのとは違った疲労感があるんだろ。
「私ももう少し色気があれば五百蔵先輩に釣り合うのになぁ」
「クリコが俺に釣り合ったところでどうにもならないだろ」
「あれ、さりげなくのろけですか?」
俺は笑って流してヒノを見た、ヒノは少し怖い目でクリコを睨んでるように思える、本当に疲れてるんだ、こんなにちんたらしてたら悪いよな。
「私、五百蔵先輩の2番目でも良いですよ」
「バ〜カ、クリコには2番目なん―――」
「ふざけないで!」
ヒノは俺の手をふりほどいてクリコを睨んでる、その銀色の瞳は氷よりも冷たく刀よりも鋭い、俺でも寒気がするような目でクリコを睨んでる、クリコは完璧に凹んで今にも泣き出しそうだ。
「ヒノ、クリコは冗談―――」
「うるさい!コガネもコガネよ、クリコクリコって、そんなにこの子が大事なの!?」
「ごめんなさい、私はそんなつもりで言ったんじゃないんです」
「そうだ、クリコは付き合ってる奴に手を出すような女じゃない、それにヒノだって分かるだろ?俺にはヒノしかいないんだよ」
こんだけあっさりと言ったけど内心焦ってる、そんな事口に出して言うような事じゃないし、クリコの前だし。
「嘘、もう私には飽きたんでしょ?」
俺はヒノのその言葉が何よりも痛かった、俺がヒノに飽きる?むしろ抑えきれないくらいだ、なのにそれが何で分かってもらえないんだよ。
「私に手を出せないのはもう女として見れないからでしょ?」
「違う!」
「何が違うの!?コガネはおかしいよ、どうして女が寝泊まりしてるのに何もしないでいれるの?」
「それは………………、怖いんだ、ヒノを傷付ける事が」
「違う!もうコガネの中で私は女じゃない!」
女じゃない?辞めてくれ、俺のヒノに対する気持ちは間違ってたのか?誰よりも大事に、誰よりも考えてたのに、それが間違ってたのかよ?
ヒノは怒りとも悲しみともとれない表情を浮かべてる、今の俺には静かに泣いてるクリコを慰める事も、ヒノに俺の気持ちを伝える事も出来ない、苦しい。
「私はコガネの何?」
「何言ってるんだ、彼女に決まってるだろ」
「嘘!コガネは私の事を兄妹として見てるんじゃないの?それなら全てのつじつまが合うの」
「違います!」
クリコは涙声ながらもはっきりと言い放った、俺には反論する気力もない、悲しいとか苦しいとか切ないとかそんな感情じゃない、空っぽで何も考えられない。
「五百蔵先輩はいつも笑顔で春日先輩の話をしてます、それに春日先輩と話てる五百蔵先輩が一番良い顔してます!」
「良い気にならないで、貴方に何が分かるの?貴方が私からコガネを奪ったのよ」
「ヒノ!俺の事は何と言っても良い、でもクリコは何も関係ないだろ!」
「何でコガネは私じゃなくてこの子をかばうの?」
ヒノは悲しそうな顔で俺の目を確りと見つめてる、でも銀色の瞳が悲しく冷たい、それが俺の空っぽの心をアルミ缶を捻り潰すように絞めあげる、今までに感じた事の無い心の痛み。
「それはクリコも大事だからだ、もちろんそれは女としてじゃなくて妹としてだ、でもヒノがココでクリコを見放せって言うなら俺はクリコを突き飛ばす」
俺にはそれしかヒノへの気持ちを示す事が出来ない、でもクリコとヒノなら迷わずヒノを選ぶ、それしか出来ないから。
「それでもコガネは変わらない、私は大事にされたいんじゃない、愛して欲しいの」
「俺はヒノの事を愛してないのか?」
「うん、大事にはされてるけど愛されてるって思えた事は少ない」
「……………そっか」
「私は先に帰る、その子を送ってあげな、さよなら」
ヒノは踵を返して帰って行った、俺はその場に力無く倒れる事しか出来ない。
‘さよなら’という一言が俺の心を簡単に捻り潰した、この場限りの言葉じゃないような気がする、俺は命よりも大事なモノを失ったんじゃないか?
更新があり得ないくらい遅れてすみません、最初の頃、意気込んでた自分が恥ずかしいです、なるべく早く更新するように頑張ります、応援よろしくお願いします。