銀の憂鬱
朝は気持良い、空気も澄んでるし昨日の汚れを無にした世界、私はその朝の世界が大好き、だから出来る限り早く来て一人で朝を楽しむのが好き。
でも朝早く来ても誰もいないからやることがない、いても話さないから意味がないんだけど。
だから私は読書という事を覚えた、朝の空気と共に文字がすぅっと入って来る、その朝の空気との錯覚で読書も好きになった。
人もまばらに登校してきた、私の統計データによるともうそろそろコテツが登校してくる。
「まいど!」
ほら来た。
「おはよー、ヒノノ」
あれ、ツバサ?何でツバサとコテツが一緒に?ツバサはカイとチカと一緒にギリギリのハズなのに。
「今日は早いね」
「うん、でも少し寝不足で眠いよ」
コテツ?寝不足?もしかして、私が考えてる事が間違ってなきゃ、………不純。
「朝帰り?」
「ありゃ、分かっちゃった?」
隠そうよ、しかも朝帰りっていうか同伴出勤、バレないようにするとか言い訳するとかしないの?むしろバレるように話してたとか?
「一旦帰るとかしないの?」
「家に帰ると遅刻しちゃうからお兄ちゃんに下着だけ持ってきてもらうんだ」
どんだけ隠し事がない兄妹なの?いくら兄でも私は下着を触られるのも嫌だよ、ましてやそんな不純な事を隠そうともせずに兄妹を利用するなんて、もしかしてカイとツバサも一線超えたとか?不純兄妹?
「カイに下着触られて嫌じゃないの?」
「全然、だって半分血が繋がってるんだよ、嫌がる事じゃないじゃん」
おかしい、この子絶対におかしい、カイは嫌嫌やってるんだろうけどツバサはそれが当たり前だと思ってる。
教室の後ろのドアからコガネが入って来た、いつもの事ながら眠そう、物凄い寝てるんだよ、8時間睡眠は当たり前らしいし、それでも眠いって何で?
「ヒノ、おはよ」
「おはよ」
「おはよー!」
「あれ、ツバサ君もいるの?カイとチカちゃんは?」
「まだだよ」
「じゃあ何でツバサ君が?」
「昨日コテツの家に泊まったから」
コガネにすら隠そうとしないの?コガネは顔を真っ赤にしながら自分の席の方に歩いて行った、途中から鼻を押さえてる、ツバサで変な想像しないでよ。
朝のホームルームギリギリでカイとチカが登校して来た、カイの手には小さな紙袋が握られてる、カイはツバサの席に行くと紙袋を置いた、あの中にはツバサの下着が一式、不純。
「ありがとう、カイ」
「俺にこんな事させるな」
そういえばツバサがカイの妹だって知ってるのは私達くらいなんだよね、皆は何の事か分からないけど私達には分かる、少し優越感。
その後ツバサはトイレに直行した、それと行き違うようにミドリちゃんが入ってきた。
昼休み、コガネが何処を探してもいない、せっかく二人で食べようと思ったのに、ツバサもいないから多分執行部の事で何かあるんだと思う。
カイもいつの間にかいなくなってたからチカとコテツの3人で机を合わして食べた、でも二人は生徒会の話をしてたから私はさっさと食べて外に行く事にした、今日はポカポカしてるし風も気持良いから絶好の読書日和。
校庭の端の方にある木陰、ここは校庭で遊んでる生徒も来ない、学校で一人になれる所の一つ。
私は座ると本を広げた、皆で騒いでるのも良いけどこうやって静かに読書も良い。
でもやっぱりコガネに会いたいな、最近はご飯作りに行くくらいしか会えなくなった、私も部活があるしコガネは部長だもん、ちょっと寂しいな。
「はぁ、デートしたいな」
「欲求不満?」
何処からか声がした、私は立ち上がり周りを見回すけど誰もいない、木の裏を見たけどやっぱりいない、空耳かな?でも今の声。
「空耳?」
「空耳じゃないよ」
「ヒッ!」
また声が聞こえると上から青い何かが落ちて来た、それは髪の毛、青い髪の毛は私の目線で止まると同時に私はビックリして尻餅をついた。
そこには木からコウモリみたいにぶら下がったカイ、首を上げて私を見てる、でも目を見てない。
「ピンクか」
私はカイの目線を追うと大きく開いた足、そして少し捲れたスカート、私は慌てて足を閉じスカートを押さえた。
「…………最低」
「男の前でそんだけ足を広げてるのがいけないんだよ」
「見なくても良いでしょ」
「いやぁ、ヒノリがピンクなんて意外だったから」
私の顔が一気に熱くなっていくのが分かる、幻想かもしれないけどカイは見て見ぬふりすると思ったのに、私だって可愛い下着くらい身に付けたいよ。
カイはクルッと回って着地した、サルみたいに身軽なんだね。
「何でこんな所にいるんだよ?」
「それは私が聞きたい」
「ココは俺のお気に入り、誰にも見付からないし風が通る、それに寝るには丁度良い枝もあるし」
太い木の枝が寝やすそうな形をしてる、でもあんな所に登れるのはサルのカイだけだよ。
「私はコガネがいないから読書しに、私もココ気に入ってるの」
「コガネは文化祭関係のポスター貼りでコテツにこき使われてる」
そんなに早く準備するんだ、私達が忙しくなるのはこれからか、またコガネに会えなくなっちゃう。
「で、欲求不満なの?」
「違うわよ、ただコガネと一緒の時間を過ごしたいだけ、それにカイの妹の方が重症だと思うけど」
カイはその事かと言って頭を抱えた、やっぱりカイにとっては頭が痛い事なんだ、そうだよね、あんな妹を持ったら辛いよね、正直兄を男として見てるのかどうかも疑わしいし。
「何も言わなきゃ良いのに、自分で泊まったって言うか?普通」
「元々普通だと思ってたの?」
「そこまでおかしいとは思わなかった、ってか思えなかった」
確かに、私もツバサがおかしいのは分かってたけど、そこまでとは思わなかった、カイの事が大好きって時点でショックが大きかったけどね。
「正直ショックだよ」
「馬鹿さが?」
「違う、経験があるのは知ってたけどこんな生々しく言われるとは思わなかった。
もうツバサに親友の面影はないし、俺の中では完全に可愛い妹なんだよね、だから泊まったから下着持って来いとかかなり凹んだよ」
まぁそうだよね、皆でいる時とかチカの大切さは痛いくらい分かる、でもツバサをその次に大切にしてる、だから皆カイとツバサの関係は仲の良い兄妹として見てた、ツバサもカイの事少しは考えた方が良いんじゃない?
「幸せなのは嬉しいんだけどね」
「ツバサに頼めば不純な事も喜んでやってくれるんじゃない?」
「妹にさせるかよ、それに俺にはチカがいるし」
チカも愛されてるね、はぁ、私ももっとコガネに愛されたい、付き合って1年半経つのにキスもしてくれない、私からするのは簡単だけどそれじゃあ切ないよ。
それともコガネの好きって……………、嫌だ、考えたくない、もしそうだとしても私はコガネの側にいたい、もしも、私とコガネとカイとツバサが同じような関係だったとしても。