蒼とパンク
昨日からカイとツバサが臨海学校に行っちゃって私は一人、なんかつまんない、大学行って、友達と遊んで、家に帰ったら一人でご飯作って一人で食べる、こんなに一人が悲しいなんて知らなかった。
カイとツバサが来てから私も変わった、男の人はまだ嫌いだけど女の友達は作れるようになった、だから人並みにキャンパスライフってのも楽しんでる、男がいなければもっと楽しいのに、女子大に行けば良かった。
今日も大学が終わって友達といつものように遊びに行く事になった、レポートとか皆は忙しいとか言ってるけど私的には大した事ない、だから人並み以上に遊んでる気はする。
友達と大学の門を出ると真っ黒な4WD、こんな車に乗ってるなんてそうとうお金持ちなんだろうな。
4WDはプッと大きな音を鳴らした、彼女待ち?また大層な男で遊んでる女もいるんだね。
プッ!プッ!
うるさいな、こんな門の前で、みんな見てるよ。
「アオミ〜!迎えに来たよ」
アオミ?私?それにこの声、顔を見てないのにドキドキしてる、何緊張してるんだろ私。
私が振り向くと車から顔を出したドレッド、サングラスとドレッドと車がワイルドさをかもしだしてるけど中身は変わらない。
「…………ハヤさん?」
「キャー!蘭さんだよ!」
「凄い!あの蘭葉夜がこんな所に!」
「私サイン貰おうかな?」
何この騒ぎ方?ハヤさんって美容師だけじゃなくてモデルとかもやってるのかな?やってても不思議じゃないし。
ハヤさんは痺を切らして車から降りて来た、それと同時に女の悲鳴にも似た歓声が沸き上がる、近付いて来る女の子をなだめながらハヤさんは私の前まで来た。
「アオミ、迎えに来たよ」
「アオミ!蘭葉夜と知り合いなの!?」
「何、ユミ知ってるの?」
友達のユミ、この大学で一番仲が良い友達、ある程度の事なら本音で話会える友達の一人。
でも何でユミがハヤさんの事知ってるの?しかもかなり興奮気味、周りの人は人気俳優が来たみたいな騒ぎ方。
「アオミ、蘭葉夜と言えば今テレビで引っ張り蛸のカリスマ美容師だよ!今の若い人で蘭葉夜を知らない人はいないよ、あの有名モデルの忍切萌の専属美容師なんだよ!」
忍切萌、今テレビを騒がしてる人気モデル、私はファッション雑誌とか見ないから分からないけど、凄いって事だけは分かる、そういえばハヤさんが言ってたな、モデルも切った事あるって、でも可愛く無いって言ってたよ。
「その蘭葉夜が何でアオミの所に!?どういう関係?」
「ハヤさんは―――」
「アオミは俺の彼女候補だよ、まぁ俺の一方通行だけどね」
更に悲鳴、嘘を付けないからって本当の事をありのままに言うこと無いのに、これで敵が増えたのは何となく分かった。
「あの蘭葉夜が、アオミの事を好き?」
「いや、ユミ、私は――」
「そうだよ、俺はアオミの事が大好きでたまらないんだ」
はぁ、頭が痛い、この人は言わなくて良い事まで言って、私の気持ちの整理はこれっぽっちもついてないのに、好きかどうかも分からないのに何でそういう事を言うの?
でも少し嬉しかったりする、その反面本当に手放しで喜んで良いのかも微妙。
「アオミ、これからデート行くよ」
「ちょ、ちょっと!私はこれから友達と遊びに行くの!困るよ」
「ユミちゃんだっけ?」
「は、はい!」
「コレでアオミを貸して、俺の店でコレ見せれば真っ先に切ってあげるから」
「喜んでアオミをお貸しします!」
私は物じゃないのに、二人で勝手に話つけて、私の一個人の決定権や拒否権は無いの?
「じゃあアオミ、行くよ」
「えっ!あっ!ちょっと!」
ハヤさんは私を抱き上げた、しかもこれは誰もが憧れるお姫様抱っこ、また敵が増えた。
私を助手席に無理矢理乗せると運転席に座ってエンジンをかけた、何かCDの所をいじるとスピーカーから音楽が流れだす。
生粋のパンクって感じの爆音の曲、でもパンクバンドなのにボーカルとドラムは女という変わったバンド。
「この曲………」
「知ってる?案外コアな日本のパンクバンドなんだけどお気に入りなんだよね」
「私も好き!みんなに聴かしてファンを増やしてる途中なんだ、パンクなのに今の感じ曲よりも聴きやすいし、私はコレが一番好き」
「本当に!?俺も一番好きだよ、コイツらジャケとかではすかしてるけど本当は馬鹿で良い奴らなんだよ」
何この話しぶり、いかにも友達だよみたいな、でも人気モデルと関わりがあるくらいだからパンクバンドと知り合いでもおかしくないかも。
「今度会わせてあげようか?」
「本当に!?私ギターのアキラの大ファンなの!」
「あぁ、アキラあいつはかなりの馬鹿だよ、ショック受けなきゃ良いんだけどね」
「そうなんだ」
メンバーは私と同じ歳なのがボーカルとギター、ベースが高校2年、ドラムが21歳。
私の勘だと2年後くらいから売れるよ、………多分。
「まんまなのはベースだけ」
「ナオ?」
「そう、イヤ、想像以上にガキかも」
「へぇ、他は?」
「ドラムのランはめちゃめちゃ男だし、ボーカルのニーナは不思議ちゃんだし、変な奴らだよ」
私の印象だとランは色気があって大人の女性って感じ、少し憧れるような女性、ニーナはクールなバンドのお姫様って感じ、あんまり喋んないし常に何を考えてるのか分からない、そこが不思議なのかな?
「以外だなぁ」
「何が?」
「だってハヤさんの言ってるのと私のイメージが全然違うんだもん、ランとか凄いセクシーで大人って感じだったのに」
「アイツはうるさいよ、いつもアキラと言い合いしてるんだよね、でもナオには物凄く弱いよ」
ナオ、最年少で外見も子供っぽい、でもそんな子供が弾いてるとは思えないほどベースの音は力強いんだよね。
ハヤさんの話を聞いてるとますます会いたくなってきた。
「ハヤさん、私アキラ達に会いたい」
「だから会わせるよ…………ってやっぱり辞めた」
「何で!?」
「だってアキラ女ったらしだから、俺のアオミに何かされたら困るもん」
‘俺のアオミ’その言葉に心臓が過剰に反応した、私の心臓をハヤさんが無理矢理動かしてる、そんな錯覚に襲われた。
私がなんでこんなに苦しい思いをしなきゃいけないの?ハヤさんの事を考えるだけでいてもたってもいられない不思議な感じになる、私にとってのハヤさんは何なの?
「どうしたの?困った顔して」
「考え事してただけ」
「何何?もしかして俺の事?」
「うん、ハヤさんに対する気持ちに整理がつかないんです」
ハヤさんは無言で車を道路の端に停めた、もしかして今日の目的地に着いたとか?それ以前に目的地なんてあったの?
「じゃあこんな事されたらどう?」
ハヤさんは私に顔を近付けて来た、確りと私の目を見て離さない、いや、私がハヤさんから離せないんだ。
徐々にに近付いて目の前がハヤさんでいっぱいになった時、私は覚悟した、覚悟?何か私の中でその表現はしっくりこない、そしてふと浮かんだ言葉が‘期待’、何で期待したのかは理解出来ない、ハヤさんが好きだから?分からない。
ハヤさんのキスを期待して目を瞑った、でもなかなかハヤさんの唇は当たらない、私が恐る恐る目を開けるとやっぱりハヤさんの顔がある。
「嫌かな?」
「分からない、でも嫌じゃないと思う」
「よく分かんないなぁ、それは俺がアオミにキスしても良いって事?」
応えられない、今の気持ちに確信は持てない、キスをされたら分かるような気がする、でもそれが恋心じゃなかった時が怖い。
「分かんないならしないよ」
「えっ?」
「だって無理にキスしたくないんだもん」
ハヤさんが離れた時、悲しかった、期待してたから余計に悲しかった。
私がうつ向いてるとハヤさんはそっと手を握って来た、あったかい、人の手ってこんなにあったかいんだ、凄く落ち着く。
でも何で、何で落ち着くのに、嬉しいのに、優しい気持ちなのに涙が出るの?
「アオミ?」
「何で?何で流れるの?」
「大丈夫?俺の事やっぱり嫌い?」
違う、ハヤさんの事は嫌いじゃない、でも声に出来ない、多分ハヤさんが怖いんじゃない、男の人が信じられないんだ。
涙はその信じられない気持ちをハヤさんが取り払ってくれた、その副作用なんだ、これが恋なの?
「ゴメンアオミ、今日もう帰る?」
私は首を横に振った、声が出せないからそれしか出来ない。
「いつかアオミが好きって言ってくれるのを待つよ」
「……………ありがとう」
今はこれしか言えない、まだ自分の気持ちにケリが付いてないから、ハヤさんの事は信じられる、でもその奥にあるのが恋かただの信頼かは分からない。
どうやって恋すれば良いの?何で恋出来るの?私も普通の女の子みたいに迷わないで恋がしてみたい、ハヤさんを好きになりたい。
今回のパンクバンド、どこかで繋がります、その事を多少、心の片隅に置いて頂けるとありがたいです。
評価システムが変わって前作が両方共ガックリと評価が下がりました、皆さんがせっかくくださった評価が無駄になった気がして悲しいです、でもコメントをくださった評価は確実に作者のプラスになってます、これからも頑張りますんで応援よろしくお願いします。