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青と密室

ミドリちゃんとコウさんがびしょびしょで帰って来たって大騒ぎしてる、ミドリちゃんが防波堤から足を滑らせて落ちたんだとよ、それを王子様のコウさんが助けた、と。

皆はコウさんがカッコイイと騒いでるけど俺は驚いてる、コウさんってカナヅチなのに海に飛込んだ。

ただのシスコンじゃなかったんだな、これで学校全体からの疑惑が膨らむんだろうな、楽しくなりそう。


コガネは皆が騒いでる隙にどっかに行った、いわずもがなヒノリの所だな、コテツは俺に宣言して消えたし。

一人で備え付けのテレビを見てると誰かが部屋をノックした、俺は面倒だからシカトしてると、今度は蹴ってるような物凄い音、俺はイライラしながら扉を開けた。


「うるせぇ―――」

「ノックしたんだから出ろ!」

「チカか、男の部屋に来るなんて、欲求不満?」

ボフッ!


チカは俺のみぞおちを殴って部屋に入って行った、コイツまた力が強くなってる、この俺様を一発でノックアウトするとは、侮るなかれ。


「何してるんだよ、早く来い」

「殴られて苦しいです」

「アタシの彼氏を殴るなんて、怖いもの知らずな奴もいるんだな」


つっこまない、つっこんだら俺の負けだ。

俺はベッドに座ってるチカの隣に座った。


「寂しくなって来たんだろ?」

「ツバサもヒノリもいなくなるんだもん」


うつ向いてても分かる、顔が真っ赤だ、もうこの場で押し倒したい、でもコガネ達が帰って来るし普通にバレる。


「チカも勇気あるよな、俺がこの場で押し倒しても良いんだぞ」

「カイはそんな事しないって信じてる」

「俺も男だ、欲に負ける事もある」


俺はそう言ってチカを押し倒し、チカに跨り右手を顔の横に置いつ、左手はチカの顎を掴んで目を反らせないようにした。


「か、カイ、見られる」

「見られて困るのはチカだろ?俺は男に見られて困る事は無いから」

「カイ、怖いよ―――!」


俺はチカにキスをした、ビックリして目を真ん丸にしてる、俺はそのままチカの唇を割って舌を入れた、チカは小さな声を出しながら反応してる。

顔を離すとチカは顔を真っ赤にして、溶けたような顔をしてる。


「ハハハハハハ!」


俺はそのままチカの隣に横になった、ビックリした表情で俺の事を見てる、未だに理解出来てないらしい。


「冗談だよ!いくらなんでもこんなところじゃヤらないって」

「グスン」


ヤバっ、泣いちゃった、冗談のつもりだったのに、少し冗談が過ぎたな。

俺は横になりながらチカを抱き締めた、意味もないのにチカをからかうのは辞めとこ。


「ゴメン、泣くなよ」

「カイの馬鹿、カイの顔、怖かった、愛を感じなかった」

「じゃあ愛を感じるキスなら良いんだ」

「そういう―――」


チカが言い終わる前に軽くキスをした、触れるくらいだけどさっきとは違う、さっきは欲を丸出しにしたキス、でも今のはチカを愛しいと思うキス。


「……………馬鹿」

「このキスも怖い?」

「ううん、あったかい」

「じゃあヤろ」

「やっぱり最低!」

ゴツッ!


今度は顔面を殴られた、鼻が折れるって、容赦ないなぁ、でも顔が真っ赤なチカが可愛いから許す。

にしても始めてじゃないのに、チカもうぶな女の子だな、殴りさえしなければ最高の女の子なのに。


「カイ、兄貴の聞いた?」

「ミドリちゃんをたらし込んだやつ?」

「ミドリちゃんを助けたの!兄貴はカイと違って紳士なんだよ!」


俺はベッドの上で小さくなっていじけてるふりをした、チカは呆れた感じでチラ見してシカトされた。


「兄貴はいじけないし」

「コウさんと俺、どっちの肩を持つんだよ?」

「今は兄貴」


俺はチカを後ろから抱き締める、一瞬ビクッとした後に俺はチカの肩に頭を置いた。


「こんな風にチカを抱きしめられるのは俺だけなのに?」

「甘えてもカイは意地悪するからやだ」


今日は折れないな、やっぱり最初にいじめ過ぎたのが悪かったのかな?でもこんな個室に二人だけになったらイタズラしたくなるじゃん、これでも本当に我慢してるんだから。


「でも誰よりもチカを愛してるよ」

「それでも苛める彼氏は嫌」

「じゃあ良いよ、チカが相手してくれないなら、女の子の部屋に行ってくるから」

「それはダメ!」

「じゃあ好きって言ってよ」


俺はイタズラっぽく言ってみた、チカの困ってる顔が見たいから、チカの喜怒哀楽全てが可愛いからね、とのろけてみたりする。


「す、……好きだよ」

「良く出来ました」


俺はチカの頭を撫でた、恥ずかしそうにはにかむその笑顔が俺のイタズラ心のガソリンなんだよ、俺って末期だな。


「それで兄貴の話だけど――」

「そんなに兄貴自慢したいの?俺にじゃなくてクラスの女子にしてよ」

「そうだけどそうじゃない」


これって矛盾だろ?確かにチカから見たコウさんは自慢するに値すると思うよ。

でもあんまり俺の前でコウさんの自慢しないでほしい、いくら兄妹でもヤキモチってモノがあるから。


「兄貴がカナヅチだってのは知ってるよな?」

「もう言い訳で塗り固められたカナヅチだね、あれは」

「じゃあ何でびしょ濡れで帰って来たか知ってる?」

「海に入って泳いでミドリちゃんを救ったから」

「そう、兄貴は泳いだ…………」


何が言いたいんだよ、本気で好きな人のタメなら命かけるのが普通だろ、俺が思う限りコウさんもそうだと思う。


「………兄貴は怖くて動かない足にヘアピン刺して怖いの振り払ったんだって」


足にヘアピン?怖くて動かないからって刺せば治るの?人は恐怖の前では思考回路が鈍くなるのは分かるけど、足に刺す事に対する恐怖は無い訳?


「兄貴って本当に顔に水がかかる事を嫌うんだ、朝も湿ったタオルで顔を拭いてる、顔を洗うのも怖い人が海に飛込んだんだよ、それがどれだけ怖い事か分かる?」

「理解は出来ないけど想像はできる」


スゲェ、もしかしたら死ぬかもしれないのに飛び込むなんて、でも俺は苦手なのはヘビだけ、だからそういう怖さが分からない、それがどれ程の気持ちなのか分からない、だけどコウさんは凄いと思うよ。


「だからカイも兄貴の事嫌わないで」

「嫌う?何で?」

「いつも嫌ってるだろ、兄貴といると苦笑いばっかり」

「嫌いっていうか苦手なだけだよ、掴み処の無いあの性格といい、あの冷たい目といい、何となくヘビを連想しちゃうんだよね。

でも人としては好きだよ、誰よりも一途だし、強い信念を持ってる、一つ言うなら自己チューを直してほしいね」


チカは安心したような顔をしてる、俺ってそんなにコウさんと仲悪そうに見えるのかな、俺的にはコウさんとの言い合いとか楽しんでるのに、コウさんは素で言ってそうだけど。


「アタシ損したな、無駄に心配しなきゃ良かった」

「チカも溺れたら守ってほしい?」

「サーフィンで足を捻った時に助けてもらったよ」


そういえば、チカがサーフィンしてる時に足首捻って、溺れた時に助けたな、正直あの時本気でチカが死んだと思った自分が情けない、でもコウさんはそれプラス恐怖があったのか、凄いな。


「それにこの傷もアタシのせいで付いた傷だ」

「‘せい’じゃない‘タメに’だ」


頬の傷はチカのストーカーに刃物向けられた時に出来た傷、ってか何でチカはこんなにトラブルばっかり引き寄せるんだ?もしかして疫病神とか!?


「カイはいつもアタシを守ってくれるだろ、でもアタシはカイに何もしてあげられない」

「ならキスして」

「えっ?」

「だからキスして、いつも俺からじゃん、それとも嫌とか?」


チカは無言で慌ててる、もう3年目になるのにチカはまだこんな反応が出来るんだ、この可愛い光景は俺だけのモノ、誰にも渡せないな。


「何でアタシがキスを?」

「俺は体をはってチカを守ってるだろ、だからチカも体をはってもらいたいじゃん」


別に見返りを期待してる訳じゃないんだけどね、チカに何かがあったら俺が困る、だから強いて言うならチカが笑ってる事が見返りかな。


「目、瞑って」

「はい」


俺の目の前が真っ暗になった、全ての神経が唇に集まる、聴覚も冴えわたりチカの息遣いが分かる、そんなに緊張することなのか?

チカはフーと息を吐くと息が静かになった、その静かな息も徐々に近くなる、そして俺の唇に柔らかいチカの唇が触れた。

目を開けると真っ赤なチカがいる、触れる程度のキスなのにそんなに反応してくれるなんて嬉しい。


「今度から俺キスしない」

「何で!?」

「チカからしてよ、新鮮で良いでしょ?」

「そうだけど…………」

「そうだけど?」

「…………恥ずかしいだろ」

「チカちゃん可愛い!」


自分の髪の毛より赤くなったチカが可愛くて、チカに抱きついた、何かだんだん俺が壊れてくような気がする、絶対にチカのせいだ、全部チカが俺の全てを変えやがった。


「か、カイ!離れろ!」

「じゃあ約束する?」

「……………するよ」

「約束だからな、俺は我慢させないように頼むよ」


チカは小さく頷いた、照れるチカの一挙一動が俺の心を掻き乱す、恐るべしチカ、ってか少しはチカに対する気持ちも冷めろよ、だんだんチカを好きになってるじゃん、チカに依存してるって言われても否定出来ないし。



チカ、俺の心はチカが占拠してるんだ、責任とってくれよ。

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