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紅とヘアピン

何でガキってもんは肝試しなんかであんなに盛り上がれるんだ、こういう月の綺麗な夜は静かに月見酒、といきたいんだけど一応生徒の付き添いで来てる訳だし、タバコで我慢してやるか。

タバコの紫煙で隠れる月か、これもまた一興だな、波の音も良い感じにステレオだし、やっぱり酒が飲みてぇ、別に一杯くらい飲んでも罰は当たらないよな、ガキ共も飲んでるんだろうし。


「コウ!」


うるせぇ、何で俺の一人の時間を邪魔するんだ、人がせっかく一人の世界に入ってたのに。


「何だ、ミドリか」

「何だとは何だ!ホレ、飲みたくなる頃だと思って持って来た」

「お前少し飲んでるだろ?」

「バレた?」


バレるだろ、口からそんだけ酒の匂いをさせたら、ってか気付くなって言う方が無理だ、まぁ酒持ってきたし大目に見るか。


「潤間さんが他の男と手を繋いでも良いのか?」

「ガキの遊びに口出しするほど過保護じゃない」


ゲームに教師が口を挟んだら冷めるだろ、それくらい俺でも分かる、それに良くも悪くも四色のガキが番犬になってるから悔しいが安心だ。


「一人で寂しくない?」

「親父に付き合わされるのもガキのお守りも御免だ、一人が一番楽で良い」

「つまんない人だな、だから泳げないだよ」


何でコイツがその事知ってるんだよ!?確かに俺はカナヅチだけどミドリには一回も言った事がない、もしかして四色のガキが言ったのか?


「もしかして図星?海に入らないからまさかと思ったんだけど本当だったとは」

「知らなかったのか?」

「当たり前だろ、勘だ勘」


やられた、他人に弱みを握られて俺とした事が同様してたなんて、最悪だ。


「何で泳げないんだ?」

「ミドリには関係ないだろ」

「弱みを握られてるのはコウの方だぞ、素直に言った方が身のためだと思うんだがなぁ」

「ガキの頃溺れたからだ、ガキの頃溺れてそれ以来顔に水が着くと怖いんだよ」

「顔を洗う時でも」

「そうだよ」


クソ、笑いやがって、コッチは風呂に入るだけで戦いなんだよ、朝なんて爽やかな目覚めも顔を洗えば最悪の朝になる、最悪の恐怖症なんだよ。


「コウって島育ちなのにカナヅチって悲しくないか?」

「海に入れなくても人は死なねぇよ」

「悲しい人だね」


うるせぇ、カナヅチってのは人が思うほど可愛いもんじゃねぇんだよ。


「でもコウが完璧冷徹サイボーグじゃなくて良かったよ」

「何だそりゃ?」

「コウって何でも出来るだろ、だから一つでも弱点があると人間っぽくて愛敬があって良い」


愛敬って俺はマスコットか、それに完璧な人間なんてこの世にいるなら教えてほしい、逆に気持悪い。


「なぁ、あの防波堤の先まで行かない?何か気持良さそうだろ」

「面倒だ」

「そんな事言わないで、ほら」


ミドリは無理矢理俺の手を掴んで立ち上がった、そして俺の手を掴んで走り出す、コイツ少し酔ってる、足元がおかしい、大丈夫か?

防波堤は確かに気持良い、まぁこれくらいの潮風なら毎日飽きるほど浴びてたし、そこまで感動は出来ない。


「気持良いだろ!?」

「まぁまぁだな、島に比べたら大した事は無い」

「コウの島ってそんなに凄いんだ、私行ってみたい」

「何も無いぞ」

「別にいいよ、コウの育った所が見たい、ただそれだけだから」


俺の育った所を見て何が楽しいんだよ、山と海しかないあんな島に行きたいって奴もおかしな奴だよな、俺には理解出来ない。


「コウの島の海は綺麗なんだろ?」

「まぁ7mくらい下は軽々と見えるな」

「凄い!一回連れてけ!」

「一人で行け」

「しょうがない、婚約の挨拶までお預けか」

「俺がミドリと婚約?笑わせるな」


変な事言い出す奴だな、俺とミドリが結婚なんて天地が引っくり返ってもありえない。


「そこまで言う事は無いだろ!」

「何怒ってるんだよ?」

「いつもいつも一言多いんだ!」

「ミドリが冗談を言うからそれを返しただけだ」

「人の気持ちを知らないクセに!」


ミドリは俺の横を通って走って帰ろうとした、でも突然の風で体が流れてそのまま海に落ちた、馬鹿だろ本当に。


「早くあがって来い」

「うっ!プハッ!アフッ!」

「おい、いくら冗談かましても俺は応えられないぞ」

「こ、コウ!」

「!!?」


もしかして落ちた時に足首捻ったのか?だとしたら泳げるわけがない、俺がカナヅチだって知ってるからふざけてる訳じゃないだろ、ヤバい、助けを呼ぶ暇はない。

俺はすぐ後ろにある灯台に付いてる浮き輪を取った、でも投げたとしてもアイツは酔ってるし戻って来れない。


「あぁ!クソが!」


俺はやけくそになって海に飛込んだ、正直死ぬほど怖い、でも目の前でミドリを死なせる訳にはいかない。

俺は海に入ると浮き輪を掴みミドリを逆の腕で抱いた。


「お、おい!ミドリ!だ、大丈夫、か?」

「…………………」


クソ、水を飲んで気を失ってる、でも俺の足は恐怖で動かない、泳ぎ方は知ってるんだけど足が、何か刺激があれば動くかも。


「ミドリ、借りるぞ」


俺はミドリのヘアピンを借りた、大丈夫、何とかなる。


「……………動けよ」


俺はヘアピンを足に刺した、痛いけど動く、怖いけどこれなら動く。

俺はミドリを片手で抱いて、もう一方の腕で浮き輪を抱いた、少し泳げば足がつくはずだ、そうすれば。


「ミドリ!ミドリ!」


足が着いた!俺はミドリを抱いてそのまま浜まで走った、浜にミドリを寝かせると息をしてない事に気付く、最悪だ。


「ミドリ、恨むなよ」


俺はやむを得ず人口呼吸をした、一応これくらいの知識はある。

数分の間繰り返すとミドリが水を吐いた。


「ゲホッ!ゲホッ!」

「ミドリ、起きたか?」

「…………コ……ウ?」


はぁ、一件落着だ、安心したら震えてきた、そういえば俺泳いだんだよな、夢中で何も覚えてねぇ。


「世話をかけるな」

「ゴメン、コウ、泳げたのか?」

「そうらしい、記憶に無いけど」

「足、血が出てる」


そうだ、ミドリのヘアピンで刺したんだよな、海の中とはいえこれはヤバいよな。


「怖くて足が動かなかったからミドリのヘアピン貸してもらった、買って返すから勘弁してくれ」

「ヘアピン借りたって?」

「痛みがあれば動くかなって、動いたから結果オーライだな」

「ゴメン、ゴメンなコウ」


ミドリは泣き出した、何を謝るのか俺には理解が出来ない、落ちたのはミドリ本人の責任だし、海に入ったのも足に怪我したのも俺の意思だし。


「足大丈夫か?」

「泳げたから何とかなるだろ」

「びしょびしょだな、私達」

「そうだな、……………あぁ!」


ミドリがビックリして目を真ん丸にしてる、俺とした事が最悪だ、何で何も考えずに海に入ったんだよ。


「携帯がスクラップだな」

「本当だ」


ミドリは起き上がって携帯を取り出した、そりゃ水にあんだけつかれば壊れるだろ、最悪だ、友達の番号とかどうするだよ。


「コウ」

「何?」

「ありがとう」


俺が振り向くとミドリの唇が俺の唇に触れた、何で?


「コレはお礼」

「…………………そう」

「もしかして嫌だった?」

「不思議と嫌ではない」

「何だその言い方は!ありがたく受けとれ、私のキスは高くつくぞ」


ってかあんたは知らないだろうけどさっき人口呼吸したし、それは1には入らないか、でも何で俺?



俺はあの後ミドリをおぶって帰った、生徒や教師から騒がれたのは言うまでもない、言い訳する俺の身にもなれ、ミドリは無駄にテンション高いし、やっぱり最悪だ。

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