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黄と道場

自分で言うのも何やけど、わいって部長が性に合ってるな、もともと師範代やってるから人を教えるのは元から得意やからな、それが学校に飛び火しただけや。

道場に遅れて入るといつもの熱気やな、今日は生徒会があったさかいにちょいと遅れてもうた、生徒会も楽しいけどやっぱり部活や、ってかこれから家の道場もあるのにわいって元気やな。


「烏丸、また生徒会か?」

「そやで、今日も順調?」

「順調順調、早くお前も空手着に着替えてこいよ」


コイツは副部長の名尻、わいの事をフルサポートしてくれるわいの相棒や、コイツがいなかったら空手部はメチャクチャになっとった、名尻様々やね。


わいは着替えて道場に入る、組手中でみんなの真剣な顔付きが眩しい。

わいは腕組しとる名尻の横に真似して立った、二人で顔を見合わせると思わず吹いてもうた。


「一年はどうや?」

「まぁまぁだな、烏丸程の逸材はいないけど」

「そりゃそうや、わいは1歳の頃から親父の殺気と戦って来たんや、皆とは生きてきた道が別やからな」

「ハハハ」


名尻は苦笑いを浮かべとる、殺されかけた事も何回もあった、そりゃ必然的に強くなる、ってか強くならな死ぬからな。


わいん家は父子家庭やさかい、母親がわい産む時に死んで、子供はうるさいわい一人で、最初はわいの事恨んでそういう事やっとるのかと思った。

でも小学校上がって気付いたんや、父子家庭ってガキやといじめの的なんや、それを力でねじ伏せた、今思うと間違った教育やけど、良くも悪くもいじめられなくなった。

今でも親父には感謝はしとらんけど尊敬はしとる、男だけで道場やってお好み焼き屋やって子供育てるなんて普通じゃできひん、だから尊敬はしとる、成りとうないけど。






部活が終わるとわいん家の道場に向かった、ホントはツバサとあんな事やこんな事したいんやけど、道場任されてるさかい、投げ出す訳にはいかないやろ。

道場に迷わず上がると中に雑巾がけしとる奴が一人、いつも稽古が始まる1時間も前に来て道場の掃除しとる、本当なら週一でもええんやけどやってくれるなら有難い。


「いつもいつも悪いなぁ」

「あっ!師範代!」

「だから堅苦しいんや、メグはん、『コテツ』でええ、タメやないか」


東雲恵シノノメメグ、烏丸道場に通う真面目ちゃん、ポニーテールで普段はメガネを付けとる、小学校の頃から通ってるんやけど、道場にいるときは『師範代』としか呼んでくれへん、小中学校一緒でその頃は『烏丸君』って呼んでくれてたんやけどな。


「師範代はうちの尊敬する師範代です!だからとてもそんな呼び方なんて…………」

「コテツって呼んでくれなきゃキスするで」


わいはメグはんに歩み寄った、メグはんは顔を真っ赤にして今にも湯気が出そうや。


「それなら良いような………、ってダメです!師範代にはツバサさんが!」

「あっ、また師範代言うた、そんなにわいとキスしたいん?」

「ダメダメダメダメ!!コテツ君!ホラ、言った、言ったから辞めて!」

「君付けたからダメや」


わいは覆い被さるような状態になってメグはんの頬にキスした、メグはんもうぶやな、これくらいで顔真っ赤にして。


「酷いよ」

「笑ってたら説得力無いで」

「でも良いの?ツバサさんがいるでしょ?」

「別に頬にチューしたくらいで騒ぐなや、幼馴染みみたいなもんやろ」

「そうだけど、やっぱり」


わいは立ち上がってメグはんに手を差し出した、メグはんは手を掴むと思いっきり立ち上がらせる、そしたら勢い余ってわいに抱きつきながら倒れてもうた。


「失敗やな」

「コテツ君が―――」

「君?」

「コテツが力強すぎるんだよ、もう少し手加減してよ」

「悪い悪い」


わいはメグはんを起こして立ち上がった、頬にキスするのはダメでもハグはOKなんやな。

ってか事故ったのに何でそんなに笑顔なん?わいに惚れてるとか?まぁそないな事はありえへんな、わいかて女の子として見れへんもん。


「せっかく早く来たんやし稽古つけたろか?」

「良いの!?」

「当たり前や、こない早く来て掃除させてるのも可哀想や、どうする?しごかれたい?」

「お願いします!」


何でこないアホみたいに真剣なんやろ、空手に熱心なのはええ事や、わいもそういう奴の方が教えてて楽しい、部活のヤル気無いアホ共にも見習ってほしいな。


わいはその後稽古が始まるまでみっちりしごいてやった、その間もずっとツバサの事考えとった、最近わいが忙しゅうて学校以外で会いづらいんや、学校にいても生徒会があって、わいってダメな彼氏やな。




稽古も終ってわいの今日のお勤めも終了や、わいの時間に合わせてもろてるから10時になるんよな。


グゥ〜


今の腹の音はわいや無いで、唯一道場に残ってるメグはんや、そりゃ腹も減るわ、一番に来て最後までいるんやもん。


「飯食ってく?」

「良いの!?」

「ええで、今からやとお好み焼きになってまうけどな」

「ヤッター!」


わいとメグはんは隣の店の方に行った、サラリーマンやら若い人やらでごったがえしとる、この店はほとんどアルバイトで回っとるさかい、かなり世話しないんよな。

わいは厨房に入って冷蔵庫から二人分のお好み焼きの生地を出した、店の空いてる所に座って焼き始めや。


「コテツのお好み焼き久しぶりだなぁ」

「そうやったか?」

「うん、去年のうちの誕生日以来だよ」


よく覚えとるなぁ、誕生日に作ったのは覚えとるけど、それが最後だとは思わへんかった。


「そういえば何でうちの誕生日祝ってくれたの?彼女いるでしょ?」

「しゃあないやないか、覚えとるんやから祝わなあかんやろ、それともわいに祝われるのが嫌か?好きな人でも出来たんか?」

「好きな人はいるけど…………、嫌じゃないよ」

「ホンマに!?やっとメグはんにも好きな人出来たんかぁ、わいで良ければ相談のるで、先輩として」

「……………うん」


メグはんは空手馬鹿さかい、彼氏が出来たとか聞いた事無いんよな、幼馴染みとしてはメグはんの恋が実るのは万々歳や。


「出来たで、食いや」


メグはんはいきなり口に放り込んだ、アホやな、そのまま食ったら熱いに決まっとるがな。


「少し頭使い」

「熱い、でも美味しい」

「当たり前やろ、わいが作ったお好み焼きや、不味い訳がない」

「今度うちにもお好み焼きの焼き方教えてよ、うちもコテツに焼いてあげたい」

「ええけど空手よりスパルタやで、それでもやるん?」

「お願いします!先生!」


お好み焼きなんて見よう見真似で出来るのに、まぁええか、別に難しい事なんて何一つあらへんもんな。


「やっぱり彼女にもこうやって作ってるんですか?」

「当たり前やろ、ツバサに食わせずに誰に食わす言うねん」

「そっかぁ………………」

「どないしたん?」

「ツバサさんは幸せだろうね」

「じゃなきゃ困る」


何でメグはんそない悲しい顔をするんやろ、もしかして好きな人に愛が伝わらない悲しみとか?だとしたらこないのろけ話は良く無いな、お互い幸せになってから自慢したろ。


「メグはんの好きな人ってどない人なん?」

「う、うちの好きな人!?」

「そや」

「うちの好きな人は、優しくて誰よりも頼りがいがあって、いつもうちを楽しませてくれるの、でも鈍感で少しじれったいって感じる時もある」


メグはんも可哀想やな、相手は何しとるん?こない可愛い女の子に惚れられてるのに気づけや、勿体無い事するなぁ。



メグはん、それはツバサとは違ったかけがえのない存在。

そして、わいの封印した初恋の相手。

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