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4話 オレは服を買う

桐山さんの家を出るとオレは家に帰った。本当はこの姿を桐山さんの両親に見せて安心(逆に不安になるかも知れないけど…)させたかったけど、二人とも遅くなるそうなので写真だけ撮って帰ることにした。




玄関を開けると母が迎えてくれた。

「お帰り光。…あら、ずいぶんいいカオしてるじゃない。なにか解決できそうなコトあったの?」

「ううん。そうじゃないけど…。オレ、この身体でもいいかなって……。」

「そう…。光がそれでいいと思うならお母さんもいいと思うわ…。」

「うん…。ありがとう、お母さん。」


オレは今日も母に洗ってもらいお風呂に入った。

母も仕事で疲れてるのになんだか申し訳ない。早く自分で洗えるようにならないとな……。



夕飯を食べながらオレは今日あったことを家族に話した。

話し終えると、父がワクワクしたように口を開いた。


「交通事故で性転換じゃなくて、交通事故で入れ替わったのか!ますます漫画みたいな展開だな!」

また言ってる…。父は一人で笑った後、女三人の痛い視線に気づき、申し訳なさそうにうつむいた。

こっちは大変な目に遭っているというのに…。それでも昨日と比べるといくらか気は楽だけど…。


母がその場を仕切り直すようにして言った。

「ねぇ光。明日お母さんと一緒に女の子の服や下着買いに行きましょ!お母さんと明のじゃ合わないもんね。」

「えっ…。」

確かに二人の服では合わない。でも、男のオレが女物の服なんて…。


「お、お母さんに任せるから…買ってきて……。」

「そうは言っても…。サイズがわからないじゃない。」

そりゃそうだ。仕方ない…。恥ずかしいけど行くしかないようだ。たとえ今行かなくても、男に戻る方法が見つからない以上いつかは行かなくてはいけなくなるし…。

「…わかった…。行く。」

「ふふっ、光はどんなの買ってくるのかなー?」

姉はあいかわらずイヤミなことを言ってくる。




オレは歯を磨いてから、今は自分の部屋にいる。

今日も少し早いけどもう寝ることにした。昨日も疲れたけど、今日は今日で事件の真相に触れて疲れたのだ。きっと明日も大変な一日になると思う。そう思うとまた少し不安になってきて眠れないかもと思ったけど、体の方はどうもそうじゃないみたいだ。

オレはすぐに深い眠りに落ちた。






日曜日、オレは母と近所のデパートに来ていた。

理由はもちろん、女物の服と下着を買うため。


「光、そんなに大股で歩いちゃダメよ…。」

「…あ、そっか…。」

オレはまだ全然女の子になりきれていない。もっとも、女の子の身体になってまだ3日目なのだから、無理もないか…。


「ここでいいかな…。」


母が立ち止まったところにあった店は、若い子向けの下着売り場だった。

オレはおろか、年齢的に母まで入るのが恥ずかしそうなところだ。オレのためにこんなトコに連れてきてくれたのだろう。なんだか申し訳ない。


「まずはバストサイズを測らなくちゃね。」

そういうと母は近くの店員さんを呼び、オレを試着室へと誘導する。


さすがに制服のままじゃ測りにくいと思って、オレは上を脱いでブラジャーとキャミソールになった。

しばらくするとメジャーを持った店員さんがやってきて、オレの身体の後ろに手を回し、前にメジャーを持ってきてサイズを測る。店員さんの頭がオレの顔のすぐ下にあって少しドキドキする…。アンダーやらトップやら母となにか話してるけどオレにはよくわからない。

結果からいうと、オレはEカップだった。


「やっぱり大きいわね、光。これじゃお母さんのブラじゃちょっとキツかったわよね。ごめんね。」

「そ、そんな…。謝ることじゃないよ…。お、お母さんは、な、なにカップなの?…」

「お母さんはDよ?いーなー光は大きくて。」

「べ、別にそんなつもりで聞いたんじゃないよ……。」

やっぱり女の人は胸が大きい方がいいのだろうか。…よかったね、桐山さん。


母は少し笑った後に言った。

「じゃあ光、好きなの選んでいいわよ。まだ最初だし、3セットくらいでいいんじゃない?」

「う、うん…。」


好きなのって言われも…。仕方なくオレは店内を歩いた。所狭しと並んだ下着がオレの視界を覆い尽くしている。明るすぎる照明と、それを反射するカラフルな下着が目に眩しい。なんで男のオレがこんなものを選んでるんだ…。

オレは急に恥ずかしくなって、近くにあった手頃なブラジャーを母のもとへ持っていく。


「こ、こんなの…どうかな?…」

オレが持って行ったのは、ピンクのフリフリのやけに女の子らしいブラジャーだった。

「あら、光はこんなかわいいのが好きなのね!でも、これじゃあ学校で体操服着たときとかに透けちゃうわよ…。」


オレはかわいいのが好きとか言われて恥ずかしかった。たまたま近くにあっただけなのに…。でも確かにこれでは体操服のときに透けてしまう。母はそこまで考えていてくれたのか。まあ、元高校生だから知ってるだけかも知れないけど…。


オレは結局、白のブラジャーとパンツのセットを3つ買ってもらった。形はそれぞれ多少違うけど、今どきこんな純白の下着しか持ってない女子高生なんているだろうか。もう少しちゃんと選べばよかったかな…?

あと、高校用の紺ハイソックスも買っておいた。


「まあ、最初はそんなもんでいいと思うわよ?もう少ししたら光も自分の好みがわかると思うし……さ、次はお洋服ね!」

なんか母は少しうかれてる気がする。そういえば父が母はオレみたいな女の子がほしかったとか言ってたっけ…?じゃあこれは親孝行と受け取っていいのだろうか。



次に向かったのは、これまた若い子向けの洋服売り場。カジュアルな感じのイマドキの服がたくさんある。


「光ぐらいの年の女の子にはこういうお店がいいわよね。お母さんも光に似合いそうなお洋服探そうかな。」

母も選ぶなんてなんだか恥ずかしい。それでもさっきの下着よりはオレも少し落ち着いて選ぶことができた。

ダイタンなものから清楚なものまでいろいろある。女の子は男よりも着る服によってその人のイメージが変わりやすい気がする。それほどいろんなタイプの服があるということなのだろうか。


オレは迷ったあげく、薄いピンクのシフォンワンピース(とかいうらしい)におなかのあたりに太いブラウンのベルトが付いた服を母のところに持って行った。

それを見た母が言う。

「やっぱり光はかわいいのが好きなのね!さっきから持ってくるのはピンクばっかり!女の子らしいのね、光は…。」


そ、そんな…。オレが女の子らしいなんて…。

ついおとといまで男だったのに。それにこの服を持ってきたのも、おしゃれだけどおとなしい感じがいいと思ったから、それだけだ。

でも確かにオレは服を選ぶとき、オレが着る服としてじゃなく、女の子に着てもらいたいというか、理想の彼女像的な考えで選んでいたから、どうしても男が好むような『かわいい』感じのものを選んでしまうのかも知れない。


その後もオレと母はいろいろ服を選んでいった。さすがに母はファッションデザイナーだけあってセンスがいい。




買い物を終えたオレたち二人は出口に向けてフロアを歩いていた。

すると、前の方から見覚えのあるヤツがこちらに向かって歩いてくる。

…あれは……オレだ!!

そう、前方から歩いてきたのは紛れもなくオレ、つまり桐山さんだ。


それは母も見ていたようで、母は目を見開いたかと思うと、買ったものも置き去りにして桐山さんの元へと飛んでいってしまった。


「光ぅ〜〜〜!!」

母は桐山さんに抱き付いて頬をスリスリしている。

「ちょっ…あ、あの…。誰ですか?」

そりゃそうだ。知らない女の人にいきなり抱き付かれているんだもんな。それでも桐山さんは冷静でいる方だと思う。


仕方ない、説明するか………。






「じゃあ光が入れ替わったのが、この葉月ちゃんってコトなのね?」

「うん。」

「はあぁ〜、愛しいわぁ。二人とも我が子みたいに思えてきたわ。」

「え!?えぇ…。」

なに言ってるんだ…。母はたまによくわからないことを言い出す。

桐山さんも呆れたのか、流れを変えるようにして言った。

「光は何しに来たんだ?」

「ああ、今日はお母さんと服を買いに来たの。入れ替わっちゃって着る服がないから…。」

「二人ともすごいわね!もうしゃべり方まで変えてるの!?」

「………。」

お母さん、ちょっと黙っててよ…。


「服だったら前俺が来てたやつがあるからウチに来ればよかったのに…。」

「あっ!そうか、そうだね…。」

考えてみれば確かにそれが金銭的にもよかったかも知れない。…でも、桐山さんの服か…なんかすごい派手なヤツだらけでオレの趣味じゃない服ばかりのような気もする…。

「なんだその目は。俺がヘンな服ばっか持ってると思ってんのか?いいよ別に、いとこにでもあげるから。」

「あ、いや、そんなこと…。」

桐山さんはエスパーか!?


「桐山さんは何しに来たの?」

「俺?俺も服買いに来た。」

「あっ、じゃあわたしの服いる?わたしもどうすればいいか困ってたんだ。」

「いらない。地味なのしかなさそうだし。」

「ひ、ひどい…。」

ごもっともなのだが…。オレは派手な服なんて注目を集めそうで恥ずかしくて着られない。前も、そして今も。


「じゃあ俺、まだ買い物があるから…。光!明日頑張れよ!」

「う、うん…。」

そうだ。オレは明日から西綾女子に通わなければならないのだ。それは桐山さんも同じなのに、人のことまで頭が回るなんてやっぱりすごいと思った。






太陽が姿を隠す頃、オレは一人でお風呂に入っていた。いつまでも母に洗ってもらってばかりでは申し訳ないので、この身体でもだんだんといろいろ一人でやれるようになっていかなければならない。オレは母が洗ってくれたのを思い出して、なんとか見よう見まねで髪と身体を洗っていった。




夕飯どき、母は今日デパートで桐山さんに会ったときのことを話していた。

「葉月ちゃんはしっかりしてていい子だったわよ!」

それを聞いた父が言う。

「へぇ〜。見てみたいな。」

「見てみたいって…。姿は前までのオ、わたしだよ…。」

「ああそうか…。じゃあ入れ替わる前の姿が見てみたいな。」

「それは今のわたしだよ…。」

「あ、ああ…。そうか……。」

ふふっ、困ってる困ってる。まあ、無理もない。当事者のオレでもよくわからなくなるときがある。きっと学校に行ったらこんなことだらけだろう。もちろん、困るのはオレ一人でなければならない。他人に入れ替わったことがバレてしまったら、どうなるのかわかったものではない…。




オレはベッドに仰向けになった。

明日、見知らぬ学校へ行き、見知らぬ人たちと授業を受けなければならない。そう思うと、とても緊張してきた。

でもやっぱりそれは桐山さんも同じなのだ。

勇気を出さないとな…男だろ!………元。


そんなことを考えながら、オレはゆっくりと瞼を閉じた…。

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