アラサー格闘士女子の傷心旅
「ユカ、ごめん。俺、ローラと結婚するんだ」
市場の仕事が終わって、慌てて顔を洗って腕輪を綺麗に拭いて、着替えて香水を振って、珍しく立ち飲みじゃない酒場で奢ってくれるっていうから駆け付けたのに、私がメルメル鶏の香草焼きに齧り付いていたらいきなり言われた。
は? 結婚? あたしじゃなくて?
は? ローラ? 確か粉屋の娘で実家が太いから趣味で生け花教室とか教会のボランティアとか『だけ』してるオッパイ大きい人?
は? 3年ちょい一緒に住んでたよね? 家賃とか公共料金とかあたし半分払ってたよね? なんか仕事でスキルいるってスキルスクールのお金7割くらいあたし出したの3割くらいしか返してもらってないよね?
は? は? は??
あたしが混乱の状態異常をくらってる隙に、あたしの彼氏だった男は賃貸部屋の処理や、スクールの借金や、前にくれた銀の腕輪を売って利益を分割しないか、みたいなことをまくし立ててきた。
二股については、
『俺の中ではむしろあたしの方が浮気だと半年くらい前に気付き自分に正直に生きてみようと決断できた自分を褒めてあげたい』
とのこと。
「······あー、10代の頃、お金なかったから冒険者の真似事してたことあるんだ。ちょっと強めで殴っていい」
「え? あの、顔はやめてほしいかな? 結婚するし。ハハっ」
「ボディならいいってことだねっっ」
あたしは冒険者ギルドを退会して市場に就職してからは一度も使っていない得意スキル『剛拳突き』を1割の力で放ち、顔はケガしたくない元カレの腹をブッ飛ばした。
ドゴッ!
胃の中身もリバースさせながら、壁に激突して昏倒した。
「ローラによろしく! あと、代金はコレでっ」
あたしは銀の腕輪をテーブルに置いて店を後にした。
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なんやかんやで休職したあたしは貯金を思い切って半分下ろし、旅装等を揃え、旅に出ることにした。
今年で27歳。三十路に入る前にリリースされたの不幸中の幸いかな?
取り敢えず、魔除けの街道近くの見晴らしのいい高台にきた。
途中、スライム4体に襲われたけど、本気の『旋風脚』スキルでブッ飛ばした。
「······」
いい景色だね。山、森、雲、なんかワイアーム的な下位竜が飛んでる。
自然、ピュア。
「うっ」
込み上げてきた。
「バッキャローっ! 時系列の整理オカシイだろうがよっっ?! うわ〜〜〜んんっっ」
号泣。
泣き声に釣られて、『キラーベア』が襲ってきたけど、『当て身背負い投げ』スキルからの『パイソンチョークスリーパー』スキルで首を折って倒し、引き続き泣いた。
キラーベアの肉とかは冒険者ギルドで売れるから泣きながら野営短刀で捌いてズタ袋に詰めた。
「はぁ〜、アラサーになると大体一人でなんでもできてせつねぇわ······」
あたしはグズグズ泣きながら、血の滴るズタ袋を背負って近くのギルド支部のある村に向かったさ。
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大体売ったけど、一抱えくらいは残して宿の食堂で焼いてもらうことにした。
マントと内甲なんかは外して荷物を置いて身軽なあたし。勿論さすがにもう泣き止んで、わりと『無』の顔をしている。
路銀に余裕ができたから他にも名物を色々頼んだ。
先にきた癖強め地酒の稗入りエールとトンチャカシューていうこれも癖強な御当地ナッツを摘んでる。
「へい、お待ち」
メインの料理だ。コースじゃない全部来る。
『キラーベアの香草ステーキ、ブラッククランベリーソース掛け』『イースト岩魚の岩海苔焼き』『焼き川海老のストロングニンニクスープ』『イーストサフランライス大盛り』『山盛りサラダトンチャ風ドレッシング掛け』
平時なら4食分くらいあるけど、今のあたしは旅人! 胃袋は解放されているっっ。
「頂きます······っ!」
簡易な食礼のあと、カッと目を見開きナイフ、フォーク、スプーンが乱舞しだすっ。
香草ステーキは野趣味とオシャンティなソースが完全融和! 岩魚は海苔で3倍美味い! 海老スープはニンニクがストロング! 米は米のおかずになるレベル! サラダは『でもサラダ食べたし』とあたしに赦しを与えてくれる!
地ワインも1本空けつつ、完っっ食っっっ!!
そのあと、デザートにトンチャ風フルーツサンデープレミアムも食べた。
んー、満腹っ! 食後の豆茶を飲む頃にはあたしのお腹も身体も心もホカホカしてきていた。
「ふぅ〜〜。マスター、この辺りいい温泉とかある?」
「温泉? そうだねぇ、冷泉になるが昔から旅のモンクが立ち寄る清らかな浴場がトンチャ山にあるよ。ただあそこは行場だからソロならレベル20はないと無理だよ?」
「ふ〜ん」
レベル20相当。中級の冒険者の仲間入りくらいの難度か。そうなると······
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あたしのレベルは36! 余裕ぅぅーーっ!!
翌日、あたしはトンチャ山の登山口から爆走で駆け上がりだしていた。
さすがに素手は効率悪いから『クォータースタッフ・改』を購入した。
この棒切れに練った魔力を通して強化すると、
「チェストーっ!」
魔犬『マウンテンワーグ』大サソリ『アサシンスコーピオン』怪植物『エビルウツボカズラ』デカい鳥『骨喰いカラス』なんかを薙ぎ倒してゆけるっっ。
行場だけに石材であちこち補強されてるけど安全地帯になってる小さな野営地以外は魔除けはほぼ効いてない。
魔力の強い山だからモンスターはガンガン出てくるし、山道の勾配がキツいっ。たまに落石もあるし。
「ふんっ」
落石は『砕く』けど。
これは本格的に修行だ。市場の仕事も楽じゃないけど段階の違う話。けど、思い切り身体動かすと悪いモノが出て心が研ぎ澄まされてくみたい。
「ガンガン行くよっ!」
あたしはほとんど休まず山頂の湯治場を目指した。
やがて、見えてきた! 石造りの湯治場というより祠みたいな施設っ。
だけど、黒い影がいきなり穢れた突風を巻き起こして立ち塞がった!!
「ふははーっ! 俺様はイズナデーモンっ! 人類が鍛え、浄めの祝福を得る等、不愉快千万!! 魔族の沽券に懸けてっ、邪魔してやんらぁーーーっっ!!!!」
いきなりなイズナデーモンは真空の刃をはらんだ烈風を巻き起こしてきたっ。
ここまでで消耗していたクォータースタッフ・改は砕かれちゃった。
「······脈絡なく現れてさぁっ」
「ぬ?」
あたしは地を踏み締め魔力を高めたっ。力、守り、素早さが一時的に高まる『オーラバースト』スキルだっっ。
さらに、回避しながら加速する『ダッキング』スキルで接近するっ。あちこち浅く斬られるが構わない。ちょっとの傷で怯む27歳じゃないぞっ?!
「チェストぉーーーっっ!!!!」
フルパワーの剛拳突きでイズナデーモンの胴を撃ち抜いた。
「バカ、な······ごふっ」
イズナデーモンは塵と消えた。
「あたしは、風呂に入りたい。それだけ······」
トンチャ山の山頂冷たい風が吹き、あたしの髪を揺らしていた。
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で、入浴。
「ふぉおおっ?! まさかの炭酸泉!!」
そう、ひんやりしてプチプチしてる。聖なる水の力で魔力と傷も回復。壁ないから絶景だし。
「極楽······あ、レベル上がってるじゃん?」
何気にステータスウィンドウを開けてみたらレベル38に上がっていた。
「スキルポイントも結構溜まってる。帰りはモンスターに絡まれたくないから『忍び足』スキル取っとこ」
上がったレベルのステータスボーナスは『運』の数値を2上げといた。
厄払い厄払い。
そして······
「はーいッ、ご注文の品! こちらでーす。確認お願いしまーすっ!!」
冒険者に本格復帰、はしなかったあたしは市場にカムバック! 頭オカシイ魔族とかと戦ってる場合じゃないから。お得意さん待ってるからっ。
「ありがとうございます。あ、こちらメジハ商店の試供品でして」
レベル上がっても、忍び足できても、今日もカタギの商売しながらね?
どっかマシな男いないかな〜っ! いやホント、マジで、切実なんだから!! まず家賃倍になったしっ! キラーベアもっと狩っときゃよかったよ。




