6 ハギノ
「おい――どうした、ウエキ?」
ウエキは何も言わずに早足で歩いていく。
「ウエキ!」
その声で、ウエキの足が止まった。
「なんなんだよ、いったい!」
「…………」
小さくうつむくと、ノシロの手を放した。
表情は確認できない。
「…知ってるの」
「え?」
「今の、タガミって人」
「え…?」
ウエキはうつむいたまま。
「ごめんねノシロ…
ごめんね…」
「なんで…謝る?」
ウエキは、ゆっくりと振り向いた。
今までに見たこと無い、悲しそうな顔。
「見つかるなんて思ってなくて…」
「おい…何を言ってる?」
両手で顔を押さえながら、ウエキは小さく呟いた。
「ハギノは私なの」
「ハギノ――って、さっきの写真の?」
「うん…」
でも…さっきの写真。
全く今の面影は感じられなかった。
似ているところと言えば、あの小さく跳ねた髪……。
「写真の顔は、確かに私の顔だった。昔の顔だけど……」
「昔の…顔?」
まるで、昔は今と違う顔だったかのような言い方……。
「……お前、もしかして」
「馬鹿でしょ。整形したの」
ウエキの瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。
ウエキの表情を伺いながら、ノシロは恐る恐る言った。
「……猫を守るために、人を殺した…って?」
ウエキは壁に寄りかかり、ずるずると背中を引きずって、ぺたん、と座った。
「ホントだよ」
ノシロはその言葉を聞くと、ウエキのそばに座った。
「……もう10年も前の話。私が14歳の時だった」
ウエキはゆっくり、はっきりとした声で語り始めた。




