3 闇の夜
傾いた三日月が、うっすらと夜空に浮かぶ夜。人々は皆家に帰る。ウエキ、彼女にも家がある。俺には無い。家の無いものはそこらを徘徊し始め、食べ物を探す。売ることの出来るものを探す。
いずれも、ノシロが探しているものとは違った。
ノシロは路地裏の奥の暗闇で目を光らせていた。そこには、塗装が剥げ、錆に囲まれたゴミ箱が放置されている。このゴミ箱の存在は完全に忘れられており、誰も回収に来ない。このゴミ箱が存在することは、ノシロがこの路地裏に好んで住み着く理由のひとつである。
「……あった」
彼は呟きながら、大量のゴミの中から、黒光りする長いものを引き出した。それは、ノシロの身長くらいあろうかという程の、刀であった。それを僅かな月の光にあて、ノシロはしばらく眺めた。
その長い鞘には金具が等間隔に幾つも付いていた。その金具を外せば、刀をわざわざ抜かなくとも、素早く取り出すことが出来る。ずいぶんと年季が入っているようで、金具はほとんど色落ちして、小さな錆が出来ていた。
ノシロは短く息を吸って長く吐き、刀を愛でるようにゆっくり撫でた。
俺には、やるべきことがある。
ノシロはぼろきれのようなマントを素早く脱ぎ捨てた。その頭のほぼ天辺から、音も無く黒い猫の耳が現れる。彼の全身スーツの背中には溝があり、そこに、金属音を立てながら長い刀を装着した。
永峰家の滅亡に関わった人間、全員。必ず全員、この手で始末する。それが、猫の一族でたった一人残されたノシロの、やるべきことであった。少なくとも、彼はそう信じていた。
一人残らず、必ず。それが俺の、生きていく糧になる。ノシロは歪んだ三日月を今一度見つめると、闇へと消えた。




