その⑧~567人の夢の先で~
「応募、締め切ったよ!」
椿さんがそう言ったとき、ぼくはちょうどスタジオの片隅で水を飲んでいた。
その声に、自然と背筋が伸びる。
「567人。すごい数だよね!!」
「……567人も?」
思わず繰り返したけど、驚きよりも、むしろ納得だった。
だって、あのオーディションは本気だったから。
夢を持ってる人なら、誰だって挑戦したくなる。
「その中から、翔太くんと一緒にユニットを組む7人を選ぶの。これからが本番だよ!」
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ぼくは、すでに“決まっている”立場だ。
でも、それはゴールじゃない。むしろ、スタートラインに立っただけ。
「……楽しみです」
ぼくはそう言った。
それは、強がりでも、気負いでもなく、ただの本音だった。
どんな人たちが来るんだろう。
どんな声を持っていて、どんな夢を抱えているんだろう。
そして、ぼくの歌と、どう響き合うんだろう。
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「プレッシャーとか、感じてない?」
椿さんがふと聞いてきた。
「うーん……ないです。ぼく、歌うのが好きなんで」
ぼくは笑った。
プレッシャーよりも、ワクワクの方がずっと大きい。
「それに、ぼくの歌は、ぼく自分が信じてるから。あとは、それが誰かに届くかどうかだけです」
椿さんは、少し驚いたように目を見開いて、それから嬉しそうに笑った。
「……やっぱり、あなたを選んでよかった!」
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567人の夢が、今、ここに集まっている。
その中から、7人が選ばれる。
そして、ぼくと一緒に、ひとつのユニットになる。
責任? もちろんある。
でも、それ以上に、ぼくは“歌”で応えたい。
ぼくの声が、誰かの背中を押せるなら。
ぼくの歌が、誰かの夢の一部になれるなら。
それが、ぼくの“役割”だと思うから。




