その⑦~ぼくがアイドルに!?~
「翔太くん、新しく結成するアイドルユニットに参加してほしいの。」
椿さんがそう言った瞬間、ぼくの時間は止まった。
アイドル? ぼくが?
何を言われているのか、一瞬わからなかった。
「……え?」
間抜けな声が出る。冗談、だよな? いや、椿さんはそんな軽いノリで話をする人じゃない。
ぼくの歌を評価してくれるのは嬉しい。でも、それはアーティストとしての話であって……。
「いや、その……ぼく、アイドルになりたいわけでは……」
確認するように言うと、椿さんはふっと微笑んだ。
「ええ、知ってます!でも、あなたはきっとアイドルとしても輝けるわ!!」
ぼくは言葉に詰まった。
椿さんの声は落ち着いていて、自信があって、まるで“それが当然”みたいに聞こえる。
でも、ぼくは——
「……ぼく、アイドルには向いてないと思います…」
ぼくはただ歌を歌いたいだけだ。派手な衣装を着て、キラキラした笑顔を振りまくのは、なにか違う・・・。
それに、アイドルはダンスもするし、トークも上手くなきゃいけない。
ぼく、そういうの得意じゃない。
「……たぶん、ほかにもっと向いてるが人がいます・・・」
椿さんは少しだけ目を細めた。
それから、ゆっくり言葉を選ぶように話し始める。
「翔太くん、あなたがキャラランドの練習生になったのは、歌いたいからよね?」
「はい……」
それは、間違いない!
ぼくは、歌うことが好きだ。大勢の人の前で歌うのが、夢だ。
「アイドルだって、歌うわ。大勢の人の前で。たくさんの人に、届けるのよ」
「……それは、そう……ですけど」
「なら、何が違うの?」
椿さんの言葉に、息が詰まった。
違う。違うはずだ。でも、何が・・・?
「アイドルは、“自分のため”だけじゃなくて、“誰かのため”にも歌うの」
誰かのために——。
「翔太くんの歌には、人の心を動かす力がある。私がそうだったから!!」
椿さんの目はまっすぐで、揺らぎがなかった。
初めてぼくの歌を聴いてくれたときと同じ目だった。
本気で言ってる。冗談でも、勢いでもなく、本気で——。
「……アイドルって、大変ですよね?」
ぼくは、ぼそっと言った。
椿さんは「そうね」と笑った。
「ダンスもあるし、表情の作り方も考えなきゃいけないし、たぶん、やることは山積み!!」
「やっぱり……」
「でも、たくさんの人の前で歌える!!!」
その言葉に、心臓がドクンと跳ねた。
たくさんの人の前で——。
それは、ぼくがずっと夢見ていたことだ。
アイドルとしてなら、それが叶うかもしれない・・・。
……それなら。
「ぼく、アイドルになれますか?」
椿さんは迷わず頷いた。
「ええ、なれる。絶対に」
ぼくは、少しだけ息を吐いた。
「……わかりました。やります」
「本当に?」
「はい。でも、ひとつだけ」
「何?」
「ぼく、やっぱり“歌うこと”がいちばん好きなんです。そこは、絶対にブレないです!」
アイドルでも、アーティストでも。ぼくは、歌いたい。
ぼくの歌を、たくさんの人に届けたい。
「うん!! その気持ち、大切にしてください!!」
椿さんは嬉しそうに微笑んだ。
ぼくの新しい道が、ここから始まる。




