その㉛~もも先生~
その日、スタジオのドアを開けた瞬間、空気が少し違うことに気づいた。
レッスン前のざわめきが、どこか緊張を帯びている。
「今日は猫太Pが歌唱指導の先生を連れてくるらしい」――そう聞いていたけど、猫太Pの隣に立っていたのは、どう見ても同級生か、もしかしたら年下に見える女の子だった。
「えっ……先生?」
思わず声が漏れた。
だって、先生っていうから、もっと年上で厳しそうな人を想像していたんだ。
でも、その子――もも先生は、柔らかい笑顔で「よろしくお願いします」と深々と頭を下げて挨拶をした。
その瞬間、ぼくの頭の中は「先生っていうより…どちらかと言うと僕たちよりもアイドルっぽい…」って混乱していた。
たつきが、不躾に年齢を聞く。
「えっと…16歳です」
もも先生の声は、澄んでいて耳に心地よい。
猫太Pが、もも先生に歌を歌うよう促した。
もも先生はピアノの前に立った。
伴奏はカノンくん。
スタジオの空気が一瞬で張り詰める。
ぼくも息を呑んだ。
カノンくんのピアノの伴奏が始まる。
そして――もも先生が声を出した瞬間、ぼくは衝撃を受けた。
その声は、芯があって力強い、でも今まで聴いたことのない透明感。
まるで空気を震わせるような響きだった。
高音は光の粒みたいにきらめき、低音は深い湖の底に沈むように静かで力強い。
一音一音が、ぼくの胸に突き刺さる。
「……っ」
心臓がドクンと鳴った。
まるで世界が止まったみたいだった。
ぼくが今まで聴いてきた歌とは、まったく違う。
ただ上手いだけじゃない。言葉が生きていて、感情が乗っていて、聴いているだけで景色が見える。
――青空、風、涙、笑顔。全部が音に溶けて流れ込んでくる。
気づけば、ぼくは息をするのも忘れていた。
「え……なにこれ……すごい…」
声にならない声が喉で震えた。
曲が終わった瞬間、スタジオは静まり返った。
誰も拍手できない。
ただ、呆然と見つめるしかなかった。
「次は、翔太くんが歌うニャ」
猫太さんが優しく微笑む。
その笑顔に、ぼくの胸がさらに締め付けられる。
――もも先生の前で歌うの?
正直、比べるのも恥ずかしいくらいだ。
「ぼくの中に、日和ってるぼくはいる?いねえよなぁ!?」
そう呟いて自分を奮い立たせた。
不思議と「もっと知りたい」って気持ちの方が強かった。
ぼくは深呼吸して、声を出した。
今、ぼくが出せるすべてを出し切って、無我夢中で歌を歌った。
でも、頭の中ではずっと、もも先生の歌が響いていた。
その声に追いつきたい。
その景色を、自分の声でも描きたい。
――この人から、歌を学びたい。
そう思った瞬間、ぼくの中で何かが変わった。
休憩中、ぼくはスマホを握りしめながら、もも先生の声をもう一度思い出していた。
どこかで聞いたことがある気がするんだ。
誰かの歌声に似てるんだよな……。
でも、思い出せない。
ただ一つ言えるのは、あの声は忘れられないってこと。
ぼくは、もも先生の歌に完全に魅了されていた。
*La♪Ra・RISE!キャラクター原案者*
英賀田 雪雄 :日花子
根古島 カノン :日花子
京極 真秀 :茶ばんだライス
折原 千鶴 :夏也 すみ
狭山 那音 :ギフカデ
Daz・Garcia :HUNGRY
赤河 辰煌 :ウニヲ
佐藤 翔太 :niko




