その① ~ぼくにとって歌うこと~
「翔太、また歌ってるの?」
姉の美和が呆れたようにリビングに顔を出す。
「うん、あとワンフレーズで完璧だから!」
ぼくはイヤホンを片方だけ耳にかけ、スマホのカラオケアプリと向き合っていた。
「いい加減にしたら? 受験勉強もしなきゃでしょ?」
「ぼく、歌えるならどこの大学でもいいや」
「……は?」
お姉ちゃんが目を瞬いた。
「歌が歌いたい!!だから受験とか、あんまり関係ない」とぼく。
「はぁ……またとぼけたこと言って、そん風だとどこの大学も行けないよ!」
お姉ちゃんはため息をついたが、ぼくは気にせず、また画面に視線を戻す。
ぼくにとって歌は、いつの間にか“好きなこと”から“生きる理由”になっていた。
歌うことで、自分と会話しているようで、すごく心が落ち着く。。
世界のすべてを歌詞とメロディーで歌にして伝えることができる。。
それが、ぼくにとっての「歌」だった。
「……まぁ、別にいいけどさ。でも、マイクくらい買ったら?」
「え?」
「スマホじゃ限界あるでしょ。アルバイト代貯めて、ちゃんとしたの買いなよ」
お姉ちゃんは呆れながらも、どこか楽しそうに笑った。
ぼくは少し考えてから、頷いた。
「……そうだね。じゃあ、アルバイト探そっかな!」
「マイクを買ったら『マイクはともだち!』と思えるくらい使い倒すぞ!!」
歌をもっと上手く歌うために。ぼくの“歌への思い”は、まだまだ尽きることはなかった。




