8甘:仕事
翌朝、エリザータは邸宅の廊下に見慣れない絵画が飾られているのを見た。その絵画は、中心が青で、それを囲むように様々な色がぼかされた形で乗り、そこにピンク色の点々が点在する水彩画であった。
「ミルーネの絵?」
この日の朝食は、アルヴェードとエリザータが揃った。サラダや卵料理などをパンと共に食しながらエリザータはアルヴェードに尋ねた。
「新しいミルーネの絵を、本人から買ってきたのかしら?」
「いいや?俺のためだけに描かれた描き下ろしを貰ってきただけだ」
「あら、随分愛されちゃったのね?」
アルヴェードは、笑った。しかし、すぐに真面目な顔をした。
「喜ばしい事ではあるが、おそらく、俺1人の力でミルーネはそこまで俺に『落ちた』わけではなさそうだ。タイミングかな?」
「『タイミング』。耳が痛いわね」
「罪な女だな。エリザータ」
アルヴェードは、その後朝食を平らげると、口をナプキンで拭き、立ち上がる。エリザータは、朝食途中ではあったが、それを追うように立ち上がる。アルヴェードは、玄関まで歩を進める。
「では、行ってくる。エリザータ、皆」
「いってらっしゃい。アルヴェード」
アルヴェードは、家に残る使用人たちの「いってらっしゃいませ!」という声に送られながら、運転手や秘書が待ち構える車に乗り込み、出勤して行った。
一方、エリザータは食べかけの朝食を平らげ、ナプキンで口を拭き、立ち上がる。そして、ドレッサー台へと向かい、化粧をし始める。しばらくすると、エリザータの顔は、美しく仕上がった。エリザータはえんじ色のスーツに汚れがない事を確認し、気合いを入れる。
「さあ、私も行きましょう。いってくるわね!皆!!」
使用人たちは、エリザータにも「いってらっしゃいませ!」と言ってくれた。そして、エリザータはパウルートの運転する車に乗り込む。そこには、秘書の男性モルディも乗っていた。モルディは手帳を見つつエリザータに声をかける。
「本日の下級議会の慈善チームリーダーとの面会なんですが、先方の都合で、30分程遅れるとのことでした。」
「あら、なら議会棟の近くにあるボランティア団体に資料を直接貰いに行ける時間が出来そうね。パウルート、寄れるかしら?」
「わかりました」
「もう、議員の事だから、下らない議論を長引かせる見込みなのね」
その後、エリザータはボランティア団体の資料を下級議会の慈善チームリーダーに引き渡し、議会から団体への支援の約束を取りつける。その実績は、クルーサム財閥のイメージアップに繋がった。