67甘〜最終話〜:新たなる愛人
ベルカイザ号は、それからレト共和国等の国に寄港しつつも、順風満帆の旅を終えた。
それからおおよそ半年後のある日。ブンボル王国の国中に王子妃ミルーネの懐妊の報が駆け巡った。仕事場にてアルヴェードはそれに接した。
「ランディレイ、やるな。おめでとう」
そして、アルヴェードは夕方帰宅。
「ただいま、エリザータ」
「おかえりなさい、アルヴェード。あの、寝る前に話があるの」
「ん?ああ、わかった。そう言えば、ミルーネは、妊娠したってな」
「そうらしいわね。お祝いしたいわね」
「ああ、そうだな」
その会話の後、夕飯や風呂の時間を経て、リビングにてエリザータとアルヴェードは顔を合わせる。エリザータは、物欲しそうな目でアルヴェードを見ながら、始めの一言を夫に投げかけた。
「そろそろ、跡継ぎを作りましょ?」
アルヴェードは、半分立ち上がりこう返した。
「そんな事をしたら、しばらく、そうだな、1年くらいはお前、不倫出来ないぞ?それでいいのか?」
「いいわ。それより何より、ミルーネの懐妊のニュースを聞いたら、貴方の跡継ぎを産みたくなったの!」
「そうか。なら、覚悟はいいか?」
「ええ」
「わかった。俺もその間、不倫は自粛する」
「いいわよ、私のわがままなんだし。第三条を破らないで」
「お前も場合によっては破るんだから、俺も破るさ」
「そう。ありがとう」
それからおおよそ半年後。セブレーノ主導の医療チームの尽力により、ミルーネは出産した。ランディレイを父に持つ、王子ウィンヒートの誕生であった。国中が歓喜に湧く中、エリザータとアルヴェードの家にも歓喜の報せが。
「ねえ、アルヴェード、私、赤ちゃん出来たの」
「本当か!」
「ええ。それに、どうやら、双子らしいのよ」
「それは、また驚いたな。よし、無事に産まれるよう、俺は力を尽くすぞ」
「ありがとう、アルヴェード」
アルヴェードは、エリザータにキスを贈った。
更に、半年後の出来事であった。その日の夜、大きなお腹をしたエリザータにアルヴェードが話しかけた。
「病院、付き添えなくてすまないな」
「どうしてもって用事だったんだから、仕方ないわよ」
エリザータはいつになく優しく自らのお腹を撫でていた。そして、言葉を続ける。
「それでね?お医者さんに訊いたのよ、赤ちゃんの性別」
「それで?」
「男の子と女の子1人ずつだって」
「そうか!」
アルヴェードもエリザータのお腹を撫で始める。2人でしばらく撫でた後、アルヴェードが急にこんな事を言い出した。
「次の愛人、決まったぞ」
「え?急に?誰?」
アルヴェードはエリザータのお腹に目を落とし、答えた。
「ここにいる、女の子だ」
「ええっ?」
エリザータの悲鳴のような声が響く。そして、言葉を続けた。
「そんな、馬鹿な事、考えないでよ」
「馬鹿、か?」
アルヴェードは、エリザータを見つめる。すると、エリザータは、少し考え、言葉を返した。
「そ、それも、いいかも?馬鹿って言うのは、忘れて?私も、真似していいかしら?」
「という事は?」
「貴方がここにいる女の子を愛人にするなら、私はここにいる男の子を愛人にするわ」
「よし、今日から俺たちの子供が愛人だな」
「ええ」
エリザータは、そう返すと、真剣な目をして言った。
「これから、この子たちを愛人にするから、不倫ルールおさらいしない?」
「ああ、再確認しよう」
「今度こそ、全部守れるようにね!」
そして、不倫ルールを認めた1枚の厚紙を取り出した。
第一条、恋人を持つ者を愛人にしない。
「これは、確実に破る事はないだろう」
「産まれてすぐに、恋人がいる人なんていないものね!」
第二条、愛人候補には自らが既婚者である事を必ず開示する。
「これは、どうかしら?私たち親だから、わかってくれるかしら?」
「わかるように、教育していくのが親の使命ってものだろう?」
第三条、不倫したくなったら、我慢しない。
「これは、もう既に破ってはいないな」
「だって、我慢してないんだものね!もう、愛してるわ!!」
第四条、伴侶、愛人、どちらも幸せにする。
「これは、私たちが家族でいられたら、破る事はなさそうね!」
「それは、そうだろう。既に、俺は幸せだからな。後は、この子たちを幸せにするだけだ」
第五条、何かしらの選択に迫られた場合、伴侶を優先する。
「これは、今回の場合のみ、凍結しよう」
「そうね!子供を第一に考えるわ!」
第六条、子供は作らない。なお、肉体関係を妨げるものではない。
「これは、当たり前よね。でも、この後半も凍結よね?」
「いくら愛していたって、子供とそんな事をする親などカスだからな」
第七条、愛人の存在をはじめ、愛人との間にあった事は、全て伴侶と情報を共有する。なお、報告の時期は、自らの裁量で決めてよい。
「これは、いつにも増して、密にしよう」
「そうよね、大事にしたいもの」
第八条、いずれ愛人とは別れ、解放してやる。
「これは、いつになるのかしら?」
「いつだっていい。その時が来るまで、深く愛してやろう」
第九条、愛人の未来を慮る事を忘れない。
「これは、いつまでも続けよう。例え、俺たちが死んでもな」
「そうね、永遠に私たちの愛する子供たちだものね」
第十条、決してアルヴェードとエリザータは離婚しない。
「これは、本当に絶対よ」
「ああ、絶対に破らない」
夫婦が不倫ルールを再確認してから、数ヶ月後。エリザータは、出産した。男児にライゼニング、女児にレアターシャと名付け、宣言通りに夫婦は「愛人」とした。
決して楽ではない子育てが始まったが、その合間にエリザータとアルヴェードは言った。
「ライゼニング、愛しているわ」
「愛してる、レアターシャ」
そして、声を揃え、「勿論」と言った後、言葉を続ける。
「ライゼニングも、エリザータもな」
「レアターシャも、アルヴェードもね」
エリザータとアルヴェードは、それから愛する伴侶と愛する愛人こと子供たちに囲まれ、幸せな日々を過ごしたという。
後に、ウィンヒートとレアターシャが成婚し、アルヴェードがクルーサム財閥の総帥と、王族クルーサム一族の当主を兼ねる事になり、その夫人としてエリザータが活躍したのは別の話である。
(完)




