62甘:想いはその心に
ミルフォンソとキャナリーンは2人で心の傷に向き合う約束をした。しかしその後、お互いの仕事が忙しくなりその合間を縫って会う日々を強いられた。そのうちに夏が来た。
そんなある日、アルヴェードは自宅にてエリザータにとある報告をしていた。
「冬のベルカイザ号の航海だが、ようやく全てのチケットが売れた」
「あら!そうなの?よかったわ」
すると、呼び鈴が鳴った。その後、使用人から客の名前を聞く。応接間に行ったエリザータとアルヴェード。エリザータが第一声を上げた。
「ミルフォンソさん!」
「キャナリーンさん!」
アルヴェードもそれに続いた。そして、4人が席に着くと、キャナリーンが言った。
「あの、私たちお付き合いを始めたんです」
「その報告をしたくて来ました」
ミルフォンソのその言葉が終わるや否や、エリザータとアルヴェードは顔を見合わせて喜んだ。
そんな夫婦の顔を見ながらミルフォンソとキャナリーンの思考は、過去に遡る。
キャナリーンは、ある日言った。
「ねぇ、ミルフォンソさん、私たちこれから好きな人にしてもらいたかった事とかしてあげたかった事をお互いにし合いませんか?」
「それ、いいですね」
「だから、今日から敬語の仲もやめません?」
「そうですね」
キャナリーンは、ミルフォンソを少々不服そうな目で見た。ミルフォンソは、一旦怯んだが、気を取り直しこう言い直した。
「あ、いや、そうだね。キャナリーン」
「わかってくれて、ありがとう、ミルフォンソ。これから、恋人ごっこみたいな事、私たちするんだからって思ってね」
それからと言うものの、2人はお互いに奉仕した。想い人と一緒にやりたかった事をしたり、行きたかった所へと行ったり、相手にとことん付き合う日々を過ごした。
そして、別の日。2人にとって転換点となる日が来た。その日のミルフォンソは、多少挙動不審であった。
「ミルフォンソ?どうしたの?」
キャナリーンの問いが投げかけられる。ミルフォンソは多少長い時間、躊躇の態度を見せた。キャナリーンは首を傾げるばかり。
「もしかして、この恋人ごっこ、嫌になった?ミルフォンソ?」
「違うよ。あの、とても頼みづらい事を考えてて」
「何?」
「その、キスをしたいんだ」
キャナリーンの目が丸くなる。そして、赤い顔になり、短く答えた。
「私も、キス、して欲しかった」
ミルフォンソは、同意が得られた事から、キャナリーンの唇を確認すると瞳を閉じた。目の前にいるのは、ミルーネだと考える為に。キャナリーンもそんなミルフォンソに続き、瞳を閉じる。これから自分とキスをするのはセブレーノだと考える為に。そして、唇は重ねられた。
注ぎたかった愛をぶつけた。注がれたかった愛を貪った。お互いの唇が痺れてくるまで唇を離さなかった。しかし、それは永遠に続ける物ではない。名残惜しそうに離れる2人の唇。
「ミルフォンソ」
「キャナリーン」
ミルフォンソは熱のこもった目でキャナリーンを見た。キャナリーンは潤んだ目でミルフォンソを見た。
「ミルフォンソ、好き」
「僕も好きだよ。キャナリーン」
もはや2人はわからなかった。その愛の告白がお互いの想い人の代わりに聞いてもらったのか、本当にお互いへ向けた物なのかが。しかし、それはどうでもよかった。心の中を支配する幸福感が、それを有耶無耶にした。
ミルフォンソとキャナリーンの思考は、現実に戻る。その目の前には微笑ましい視線で見つめるエリザータとアルヴェード。エリザータは言った。
「何か、幸せな事でも思い出してたんですか?」
傍らのアルヴェードは本人たちに代わって返す。
「それは、そうだろう?心が結ばれた時でも思い出してたんだろう」
ミルフォンソとキャナリーンは顔を赤くした。しかし、気を取り直しキャナリーンが言った。
「恥ずかしながら、そうです」
ミルフォンソも続く。
「それから、僕たち決めました。好きだった気持ちは、お互いの心に預けるって」
エリザータは感嘆の声を上げた。
「まあ!素敵!!」
アルヴェードもそれに続いた。
「なかなかそんな考え、浮かびません。立派です」
ミルフォンソは言った。
「だから、僕がミルーネを愛していた事」
「私がセブレーノを愛していた事は、私たちと」
「お二人だけの秘密にしたいと思います」
「だから、そこの所、配慮をお願いしたくて」
エリザータとアルヴェードは顔を見合わせた後、声を揃えて「勿論!」と答えた。それにミルフォンソとキャナリーンは「ありがとうございます!」と声を揃えた。
その後、少々世間話をした後、ミルフォンソとキャナリーンは腕を組みながら帰宅して行った。それを見送ったエリザータは、アルヴェードにもたれかかり言った。
「本当に、よかったわ」
「ああ、よかったな」




