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61甘:乗り越えるための一歩

それから、おおよそ2週間後の出来事だった。キャナリーンは、いつものように仕事をしていた。すると、1人の女性患者が薬を取りに来た。キャナリーンは、処方箋を見た瞬間、「あっ」という小さな声を上げた。その後、キャナリーンは、薬の説明の為にその患者の名前を呼ぶ。


「ミルーネさん」

「はい」


 キャナリーンは、動揺しつつもいつもの仕事をする。


「お薬は、いつもの通りですね」


 ひとつひとつの薬の説明をキャナリーンはし、ミルーネはそれを受け止める。キャナリーンは、最後に尋ねた。


「何か薬の件で、気になる事はありますか?」

「いいえ」

「そうですか」


 会計を済ましたミルーネに、キャナリーンは言った。


「お大事にどうぞ」

「ありがとうございます」


 朗らかな笑顔を見せ、ミルーネは去って行った。キャナリーンは、呟いた。


「ここの薬局を使ってくれていたのね?ミルフォンソさんの妹さん」


 すると、キャナリーンの心に、ミルフォンソに会いたい気持ちが溢れてくる。


 夜になり、キャナリーンは退勤。セブレーノの病院をいつものように見上げた後、自宅とは違う方向に足を向けた。そこは、ミルフォンソとミルーネの家だった。呼び鈴を鳴らすと、ミルーネが対応した。


「えっ?薬局の方?」

「あっ、あの、ミルフォンソさんは?」

「兄のお知り合いだったんですか!兄はそろそろ仕事から帰ると思います!」


 ミルーネは、キャナリーンを家に上げた。


 しばらくすると、ミルフォンソが帰宅。


「ただいま」


 玄関へとミルーネは行く。そして、開口一番に言った。


「お兄様?お客さん来てるよ。薬局の女の人なんだけれど」

「薬局?キャナリーンさんかな?」


 そして、ミルーネは、ミルフォンソをキャナリーンの所に連れて行く。


「キャナリーンさん」

「ミルフォンソさん、突然来てしまってごめんなさい」

「いいえ。どうしたんですか?」

「えっと」


 そのやり取りを聞いていたミルーネはこう言った。


「お兄様?私は暗い部屋に行くね。お客さん、ゆっくりしていってください!」


 ミルーネをミルフォンソとキャナリーンは見送る。ミルフォンソは、再度尋ねた。


「今日は、どうされたんですか?」

「ええと、その、ただ、貴方に会いたくなってしまったんです。えっと、妹さん、昼間私の職場でお薬を取りに来られて、貴方を思い出して」

「妹が、お世話になっていた方だったんですね?いつもありがとうございます」

「いいえ、どういたしまして。その、妹さんかわいらしいですね」

「そうでしょう?」


 ミルフォンソの顔がわずかに暗くなる。


「ミルフォンソさんが、好きになっちゃうのは無理もないと思います」


 キャナリーンは微笑む。ミルフォンソははっとする。


「ありがとうございます。僕も、あれからセブレーノ先生の事をそういう視点で考えてみたんです。底なしに優しくて、いい先生なんですよね。だから、キャナリーンさんが長年想い続けてしまうのも、納得いきますよ」

「こちらこそ、ありがとうございます」


 ミルフォンソとキャナリーンの心に去来したのは、「それでも、自分の想いはいつか断ち切らねばならない想いだ。そして、相手にもその想いを勇気をもって断ち切ってもらいたい」という考えであった。それを口にしたのは、キャナリーンだった。


「ミルフォンソさん、一緒に乗り越えてみませんか?私たちのどうしようもない想い」

「一緒に?そうですね。1人じゃ乗り越えられないものも2人なら可能になるかもしれません。お力を貸してください。キャナリーンさん」

「是非。私の力にもなってくださいね」

「約束します」


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