表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5甘:来たるもの

それから、数日後。アルヴェードの執事の男性、デストールが声をかけてきた。


「アルヴェード様、ミルフォンソ様からのお電話です」

「わかった」


 そして、アルヴェードは電話に出た。


「アルヴェードです」

「アルヴェードさん、妹がもう一度会いたいと言っていましてね。こちらに来ていただきたいのですが、ご多忙でしょう?」

「いいえ、ミルーネさんのためでしたら、何時間でも時間は作れますよ」


 少し、電話口のミルフォンソは黙った。しかし、すぐに話し始める。


「無理なさらないでください」

「無理はしませんよ」


 アルヴェードは、スケジュール帳を開き、訪問可能な日を探す。


「3日後、夕方伺います。ミルーネさんに、そうお伝えください」

「わかりました。失礼します」


 短くミルフォンソは返し、電話は切れた。


 その3日後、アルヴェードは、再びミルーネの家を訪ねた。最初の訪問の時のようにミルフォンソが応対した。


「ようこそ」

「お邪魔します」


 アルヴェードは、あの暗い部屋へと連れて行かれるのかと思った。しかし、ミルフォンソは別の部屋を案内した。アトリエだ。


「ミルーネさん、お誘いいただきありがとうございます」


 アトリエも、分厚いカーテンが引かれていた。そこにいたミルーネは、こう返した。


「来ていただき、ありがとうございます。今日は、私が絵を描く所、見てもらいたかったので、来てもらいました」

「なんと。制作過程を見学させていただけるのですね?光栄です」

「今日は、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ひと通り挨拶が終わったと見たミルフォンソは、一旦カーテンを一部開けた。すると、小さなキャンバスがミルーネの目の前にあった。ミルーネは、キャンバスの位置を再確認しつつ、水彩絵の具をパレットに素早く入れて行った。それが終わると、ミルーネは言った。


「お兄様、ありがとう」


 すると、ミルフォンソは開けたばかりのカーテンをしっかり閉めた。キャンドルの光を頼りに、ミルーネは絵を描き始めた。アルヴェードは暗闇の中息を呑んだ。そして、呟く。


「絵を描くには、暗すぎる」


 しかし、ミルーネは一切の迷いなく絵の具をキャンバスに乗せていく。そんな様子を見て、アルヴェードは心の中で「まるで、盲目の画家だ」と感嘆の声を漏らした。


 1時間程度が経ったであろうか。静かな制作時間は終了する。


「出来た」


 それを知らせるミルーネの短い一言だった。アルヴェードは声をかけた。


「お疲れ様でした」

「ありがとうございます。静かに見届けていただいて」


 すると、ミルーネは立ち上がり言う。


「お兄様、ごめんなさい、アルヴェードさんと2人きりにして?」

「ミルーネっ、駄目だ」

「お兄様、本当にごめんなさい。出て行かないのなら、お兄様の前で言う」

「ミルーネっ!」


 兄と妹の多少険悪なやり取りを聞きつつ、アルヴェードは「ミルーネが言いたいこと」を察した。アルヴェードは心の中で呟いた。「落ちたな」と。ミルーネは、そんなアルヴェードに接近し、話し始めた。


「アルヴェードさん、貴方を、私、好きになってしまいました。今日、描いた絵は、アルヴェードさんのためだけに描かせてもらいました。私の最初の愛として、お持ち帰りください」


 アルヴェードは口角を上げつつ、心の中で言った。「あっけなかったな。さて、不倫ルール第二条を遵守しつつ、心を完全に繫げるか」と。


「ミルーネさん、ご存知かもしれませんが、私は、妻がいる身です。しかし、私はもう既に貴女に心奪われています。是非とも、貴女と愛を育みたい。今日という日は、大変光栄な日です」


 ミルーネは、暗闇の中、正確にアルヴェードの方向に足を向け、抱きついてきた。それを完全に受け入れたアルヴェードの耳に、ミルフォンソの悔しそうな呟きが届いた。


「ミルーネっ」


 アルヴェードは、それを聞きつつ、暗闇の中ミルーネの唇を探す。そして、自らの唇を重ねた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ