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45甘:決戦開始

それから、数日後の事であった。王宮前にアルヴェードらベルカイザ号の関係者が集まっていた。


「では、行きましょう」


 そんなアルヴェードの一言で一行は王宮へと入って行った。


 再びの王マーディルとの謁見であった。その場には、当然ギャスバーもいたが、アルヴェードの申し出により、王妃ランクーナ、王子ランディレイも同席していた。ベルカイザ号の船長は、そうそうたる顔ぶれに恐縮した様子だった。そんな中、マーディルが口を開く。


「先日の続き、どのような話か聞かせてもらおう」


 ベルカイザ号関係者は、揃って頭を下げる。それを確認すると、マーディルは言葉を続けた。


「先日と同様に聴取は側近が行う。偽りのない証言を」


 ベルカイザ号関係者の「はい」という揃った声が響いた。ギャスバーは口を開いた。


「レト共和国、クルセイン首相との会談の内容の事細かい報告を」


 政府高官が話し始めた。


「続きと申しますか、王妃や王子が新たに立ち会っていただいているので、はじめからご報告致します。簡単にクルセイン首相との会談に至った経緯を振り返ります。船長」

「はい。我々が乗船していたベルカイザ号は、レト共和国近海でワイカル国の海賊船に取り囲まれました。回避出来ない状況でした。そこで、次期総帥の判断に従いました」


 アルヴェードがこの日最初の証言をし始める。


「レトが手を挙げる可能性はありましたが、乗客の安全を第一に考え、周辺地域全ての国に救援要請の通信を入れました。それを受け、やはりレトが手を挙げ、海軍が完璧なベルカイザ号への保護作戦を展開してくれました。」


 船長がそれに続く。


「海軍の提案により、レトの港への一時避難を実行しました」


 政府高官が更に続く。


「そこで、クルセイン首相が我々に面会を求めて来たので、それを受けました」


 アルヴェードが話に一旦区切りをつけた。


「救援に対する感謝を述べに行かねばならない立場でしたからね」


 それにギャスバーはこう返した。


「救援を要請する国を、わが国と国交がある国に限定すべきだったのでは?」


 アルヴェードは、それに返答。


「今思えば、その前提を掲げた上で要請すれば無用な誤報を生み出す事はなかったでしょう。その事実は大いに反省致します。しかし、当時はなりふり構っていられない状況でした。新造船に傷ひとつつけたくありませんでしたし、略奪などの被害を受けないように一刻も早く避難をしたかったので」

「ぬぅ、起こってしまった事は覆せない。仕方なかったとしよう」

「ありがとうございます」


 アルヴェードが頭を下げると、ベルカイザ号関係者もそれに続いた。全員が頭を上げると、ギャスバーは、聴取を続けた。


「それで、本題をそろそろ話せ。改めて訊く、クルセイン首相は何を話し、それにお前たちがどのように返したのかを」


 アルヴェードがそれに返した。


「これより、私1人で答弁致します。他の者には、事前に了解は得ております」

「許そう」


 ギャスバーはアルヴェードを睨みつつ許可を出した。


「面会は、少しの時間でしたが、濃い話をさせていただきました。クルセイン首相は、ブンボルの言葉が達者でしたので」


 ランディレイやランクーナはその話に興味深そうにした。それは、マーディルも同じで、口を開く。


「それは、なんと」


 アルヴェードは、柔らかい表情でマーディル、ランディレイ、ランクーナを見渡し、こう言った。


「首相はブンボルの国民かと思えるくらいの言葉をお話ししていましたよ。また、他のレトの関係者たちもブンボルの言葉を使って我々に対応してくれました」

「ええい!レト関係者が話したブンボルの言葉の件はどうでもいい!先の話に進め!!」


 しびれを切らしたようにギャスバーは喚きはじめる。アルヴェードは一転、そんなギャスバーに鋭い視線を向け、極めて冷静に言葉を返した。


「これは、世間話ではありません。この先の話の為の重要な事柄です。ギャスバーさん、何故クルセイン首相らは、ブンボルの言葉を話したと思いますか?」

「尋問しているのは、こちらだ!質問は受け付けない!!」

「わかりました。それは、失礼致しました」


 アルヴェードは、慇懃に頭を下げる。そして、頭を上げると言った。


「答えは、クルセイン首相が1世紀半前にブンボルの炭鉱で働いたレトの労働者の子孫だからですよ。おそらく、そんな首相の指導にて、一部の国民は、ブンボルの言葉を話せるようになった」

「ま、まさか!当時のレトの国民は、ブンボルの言葉は話せなかった筈!!」

「ん?何故、それがわかるのです?あ、いや、私からの質問はこの場では厳禁でしたね。そうでしたか。そうですよね?あの暴動を起こしたレト国民をブンボルに連れて来たエウル一族の方なら、伝承として知っていて当然の話ですね。これは、また失礼しました」


 アルヴェードはさすがにもう頭を下げなかった。そして、話を続ける。


「クルセイン首相は、おっしゃっていました。ブンボルには多大な恩があると。ブンボルは多額の金をレトにもたらし、それが今の発展の礎になったからと。そして、先日報告いたしました通り、国交回復を望みました。おそらく、それがクルセイン首相の悲願。その為にブンボルの言葉を猛勉強されたのでしょうから」

「推測の話はいい!」

「はい、わかりました」


 ギャスバーは、次第に手をわなわなさせはじめる。それを見つつ、アルヴェードは意見を述べた。


「こちらも、救援や補給などの恩を受けました。個人的、いや、ベルカイザ号に乗船していた者の総意として申し上げます。レトとの国交回復を何卒前向きにご検討いただきたい。そして、正式に国交を回復するまでの間、クルーサム財閥とレトの経済団体との民間レベルでの交流をお認めください」


 政府高官もそれに続く。


「私も経済担当大臣として、それを望みます」


 ランクーナは、感嘆の声を上げる。


「素敵な話ですわね。貴方様?どうされます?」


 問われたマーディルは返答。


「うぬ。レトへの恩返しにもなるであろう。許す」

「陛下!」


 ギャスバーの焦りの声が響いた。アルヴェードはそれをものともせず、こう言った。


「陛下、王妃様、寛大なご判断に感謝致します。しかし、その前に、ひとつはっきりさせたい事があります」


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