28甘:医療との接触
後日、アルヴェードはスティン医師の元を訪れた。診療所に入ると、所々亀裂が入った壁が迎えてくれた。受付で問診票に症状の記入を求められたアルヴェードは、「適当な症状」を書く。そして、それを提出し呼ばれるのを待つ。
「アルヴェードさん、どうぞ」
スティンは自ら患者を呼んだ。アルヴェードは診察室へと入る。年頃は中年といったところのこの男性医師は、適当に書かれた問診票を一読した。
「熱は、ないようですね。頭痛と吐き気がある、という事ですね?ここに書いてない物で、他に気になる症状はありますか?」
「申し訳ありません。それは、適当に書かせてもらった物です。そこに書いてある物も含めて特に症状などありません」
「え?」
「あえて言えば、恋患い、とでも言っておきましょうか」
「わけがわかりません。では、何故こちらに来たんですか?」
スティンは、多少の不快感を顔ににじませる。それを見つつアルヴェードは返答した。
「前置きは、ここまでにします。今日の用件は、貴方が診てらっしゃる患者の1人、ミルーネさんの紹介状を書いていただきたいのです」
「ご家族ではなさそうですね。そんな方に依頼されても書きませんよ」
「そこを何とかお願いしますよ。私は、彼女の家族ではありませんので、そういったルートで貴方とお話出来ないと判断し、詐病でここに来たのは謝ります」
「話は、ここまでにします。退出をお願いします」
アルヴェードは、立ち上がらなかった。
「もう少し話をさせてください。しかし、私は、彼女を家族同然の目で見ていますし、現状、彼女の家族は、事情があってこちらに来れません。気持ちとしては、家族の代理として来ています」
「患者さん本人が紹介状を必要としているのなら、診察に来られた時にでもご依頼いただければいい話です。家族の代理など立てる必要はないと思いますがね」
「そのご意見ももっともです。しかし、彼女は外出がままならない状況でしょう?」
スティンは、はっとした様子だった。アルヴェードは、心の中で「もっともな意見ではあるが、ミルーネの病の悪化を止められなかった医師など、ここで切り捨てたい」と、怒りを吐き出した。
「ここに患者本人をお連れするベストな対策を私は知りません。彼女のご家族が彼女の傍にいませんから。だから私はここに家族代理として来たのです。これ以降、ここの診療所に私個人が出入り禁止になっても構いません。しかし、紹介状だけは書いていただきたいのです」
スティンは検討の表情を見せ始めた。アルヴェードは再び心の中で「ここで拒否したら、不本意ではあるが、財閥の力を振りかざすぞ」と言った。しかし、その事態は、回避された。
「わかりました。そんなに言うのだったら、書きましょう。それに、ここでまた拒否したら、貴方は居座りそうですからね」
「ありがとうございます」
「お時間大丈夫でしたら、長時間お待たせするかもしれませんが、本日書きます。待合室にてお待ちください」
「よろしくお願いします」
その後、1時間程度アルヴェードは待たされたが、ミルーネの紹介状を得る事が出来た。
「まずは、ひとつ片付けられたな」
アルヴェードは帰宅すると、エリザータに紹介状を見せた。
「無事に取ること出来たのね?」
「ああ。まあ、あの診療所には、俺とミルーネは出禁になっただろうがな」
「何してきたの?」
「仮病で診察室に入って言いたい放題やってきたからな」
「あら。これでセブレーノが紹介状を見て、お手上げだったら、ミルーネはお先真っ暗ね」
「そうなった場合の、俺の責任の取り方、検討しておかなければな」
「そうならないように、私頑張るわ」




