27甘:戻る思考と情報交換
昔の事を考えているうちに、気づけばアルヴェードとエリザータは、自宅前まで辿り着いていた。そして、2人は、伴侶の顔をお互いに見る。
「エリザータ」
「アルヴェード」
夫婦は、お互いに歩み寄り、どちらからともなく衝動的にキスをする。人目を憚らず、熱くお互いの唇を貪るエリザータとアルヴェード。
「エリザータ、いやに激しいな」
「貴方こそ、アルヴェード」
熱のこもった視線を絡ませながら、エリザータとアルヴェードは言葉を交わす。エリザータは続けた。
「そうね、セブレーノと会って、ずっと昔を思い出して帰ってきたのよ」
「奇遇だな、俺もだ」
「貴方も?」
「ああ、王子とミルーネの間に横たわる政略的な思惑を突きつけられてな」
エリザータの目が曇る。アルヴェードは、苦笑いする。
「まあ、俺たちの『政略結婚』は、結果的にいい物に変わったんだ」
「そうよね?セブレーノと、ティコラセーヌのおかげで」
「だからこそ、王子とミルーネの『政略的思惑』も、2人の幸せに繋げたい」
「わかるわ」
立ち話はここまでと、邸宅に入る2人。アルヴェードは尋ねた。
「それで、セブレーノは何て?」
「ミルーネの今の主治医の紹介状をくれれば、診るって言ってたわ」
「条件付きだが、引き受けたか。やはり、セブレーノは間違いのない男だ」
「本当に、どこまでも優しくて、悪いわ。それで、貴方の方は、どんな感じだったの?」
「ミルーネの絵が、過去一族に燃やされた話を聞いた。腹が立ったな」
「それは酷い話ね?」
「だが、それよりも酷い話が今進んでいる。おそらくミルフォンソは王宮に捕らわれている」
「え?嘘」
動揺のエリザータと、義憤に燃えるアルヴェードの視線が絡みつく。2人は、しばらく沈黙し、今やるべき事を考えた。アルヴェードは、言う。
「ミルーネの主治医に接触しつつ、ミルフォンソを解放しなければならないな」
「王宮の事なら、私が動くわ。ミルフォンソって人を解放出来るようにね」
「1人では太刀打ち出来ないだろう」
「王子の力を借りるわ」
「そうか、そうだな。ここで、愛する者の兄を救えない男は、愛する者の愛を受ける資格はない、とでも言っておくか」
「きつい言い方ね。でも、そうよね。むしろ、私は、事実を伝えるのと、王子の手助けに回るわ」
「そうすればいい。だが、危険だな。俺は、ミルーネの主治医に接触するだけで本当にいいのか迷うぞ」
エリザータは、首を横に振る。そして、言った。
「貴方は、仕事が忙しいでしょ?ベルカイザ号、だったかしら?あの豪華客船の処女航海が迫ってるでしょ?」
「ああ、そうだったな」
「関係者として乗って行かなきゃならないんだから、時間がかかりそうな物は、やめておいた方がいいわ」
「ありがとう、エリザータ。そちらも最善を尽くそう」
そして、早速アルヴェードは、ミルーネに電話をし、概要を話した。
「そ、そんな。私の為に、そこまで」
「どうか、恐縮しないでください。ミルーネさん。愛する貴女の為に、力を尽くさせてください」
「わかりました。私の今の主治医は、スティン先生です」
「スティン医師ですね?わかりました。後は、こちらで動きます。後日、別の医師がお伺いするかもしれません。その際は、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」




