24甘:夫婦の12の過去その10
アルヴェードのエリザータへの衝動は、波はあるものの数ヶ月続いた。特に、エリザータがセブレーノと会いに行き、帰って来た時が最高潮に達する。全てを飲み込み、アルヴェードは、ある日呟いた。
「こ、これは、嫉妬というものなのか?」
エリザータは、自らといると次第に枯れた花のようになっていく。しかし、「行ってほしくない感情」を抑え、セブレーノの所に送り出すと瑞々しい花となってエリザータは帰って来る。そして、また別の日の夜、アルヴェードは自らのベッドで、決定的な一言を呟く。
「エリザータ、ああ、俺は、お前を求めている」
隣の部屋にて眠っていると思われるエリザータを、今すぐ抱きたい気持ちに支配されながら、アルヴェードは、今の感情を整理し始めた。整理が終わると、アルヴェードは自嘲の笑い声を上げた。
「なんて、俺は、最低な男だったんだ」
自嘲とは言え、笑顔が次第に泣き顔に変わりそうな気配を振り切り、アルヴェードは無理矢理就寝した。
一方、夫の心情の変化に全く気づいていないエリザータは、翌日、セブレーノの所へ。そして、尋ねた。
「そう言えば、キャナリーンさんは戻らなかったんだね」
「そうだね。一時期一人暮らしになったから、ちょっとだけさびしかったけど」
「ごめん」
「気にしないでよ。今は、また新しい仲間がここに暮らすようになったし」
エリザータは、セブレーノのさびしさの責任は、自分にあると思った。セブレーノを好きになればなる程、あの時のキャナリーンの気持ちがよくわかるようになっていったからだ。キャナリーンは、セブレーノに片想いをしていたと。自分が配慮の欠けた告白をした事からキャナリーンは怒り、ここを出て行ってしまった。キャナリーン本人に代わり、エリザータがその恋心をセブレーノに伝えたかったが、それも野暮な事と思い、言葉を飲み込んだ。
しばらくして、エリザータはセブレーノにキスをしつつシェアハウスを後にした。帰宅すると、アルヴェードが待っていた。
「エリザータ、少し話をしたい」
「何?」
アルヴェードは、いつものように朗らかな雰囲気をたたえたエリザータを見て、「この雰囲気は、自分では引き出せない」と心を痛めながらも、妻が機嫌のいいうちに訊きたい事を訊いてしまおうとリビングへと誘った。
「何の脈絡もない話ですまないが、もし、お前の身分が貧しい物だとして、上級家庭出身の男の『命令』に反する事は出来そうか?」
「そ、それは、貧しい身分じゃなくても、言う事は聞くわよ。貴方と望まない結婚、私したでしょ?」
「そうか。そうだよな、すまない。セブレーノの所でいい思いをした後に妙な事を訊いた。しかし、セブレーノという男の全貌はわからないが、凄い男だ」
「急に何よ?けど、セブレーノを褒めてくれてありがとう。セブレーノは、これからお医者さんになる男の人よ。とっても優しいんだから!」
訝しげなエリザータの顔が、セブレーノの名前を出した瞬間に花咲く。アルヴェードの心には嫉妬の嵐が吹き荒れる。同時に、アルヴェードはティコラセーヌにした罪も噛み締めた。
「問いに答えてくれて感謝する。ここまでだ」
「わかったわ」
そして、エリザータはアルヴェードの元から去った。アルヴェードは、そんな妻の背中を見送り呟いた。
「卒業前に、全て片付ける」




