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23甘:夫婦の12の過去その9

それから、エリザータはシェアハウスに通う日々を過ごした。家人は、それをいちいち咎めたが、アルヴェードは、その度に夫権限を振りかざし、エリザータを送り出した。一方、エリザータは必ず帰宅した。セブレーノからアルヴェードとの家で生きていく力をもらい、学業と財閥関連の学びを進めていけるようになったからだ。


 エリザータは、ある日セブレーノに言われた。


「ねぇ、エリザータ。今日は、君を帰したくないな」

「嬉しい!セブレーノ。今日は泊まっていくわ!!」


 そして、愛しさ満点のキスを交わした。


 翌朝、2人は抱き合った状態で目覚める。


「おはよう、エリザータ」

「セブレーノ、おはよう」


 セブレーノと挨拶を交わしたエリザータの顔は、満面の笑みであった。その後、エリザータは帰宅した。


「ただいま、帰りました!」


 そんなエリザータの声が、休日の朝のアルヴェードへと届く。アルヴェードは、それに返した。


「帰ったのか。おかえり」


 エリザータは、少し止まった。が、アルヴェードにこう声をかける。


「珍しいわね?『おかえり』なんて。でも、出かける時に、送り出してくれてありがとう!アルヴェード!!うん!ただいま!!」


 エリザータは、意図せずかわいらしい笑顔をアルヴェードに見せた。アルヴェードはその笑顔にクラッとした。それに気づかず、エリザータはこの家の妻としての仕事を探しに行った。その背中を見送ったアルヴェードは、自らの胸のあたりをさすりつつこう呟く。


「な、なんだ?この、胸の高まりは?」


 それから、アルヴェードは度々眠れない日々を過ごす事になる。エリザータの存在が、頭を駆け巡るのだ。


 一方、エリザータは、セブレーノにもっと自分を見てもらいたくて化粧を覚えた。化粧で綺麗な顔になり、笑顔でセブレーノに会いに行くエリザータを、アルヴェードは「いつも通り」送り出す日々を過ごすが、それからエリザータが帰るまで落ち着かない。


「早く、帰って来てくれ、エリザータ」


 アルヴェードは、自分でも驚く呟きを自室で響かせる。


 そんなある日、いつものようにセブレーノ宅から帰って来たエリザータにアルヴェードは尋ねる。


「その、お前にも、愛人が出来たのか?」

「そうよ。お言葉に甘えて愛人、作っちゃったわ」

「そうか」


 アルヴェードは、胸が痛んだ。しかし、言葉を続けた。


「名前くらいは、知っておきたい」

「セブレーノよ」

「セブレーノか。どんな男なんだ?」

「もう、名前だけって言ったでしょ?その先は、答えないわよ。急に、どうしたのよ?貴方には、関係ないでしょ?」

「関係ないか。そうだな」


 アルヴェードの声は、震えていた。エリザータは首を傾げながらその場を去った。


「俺が、やれと言った事をしているだけだ、エリザータは。『よくやった』と何故言えない?俺は、どうしてしまったんだ?」


 アルヴェードは、動揺のまま、学園に行けばティコラセーヌと前にも増して会う機会を増やした。しかし、その最中エリザータの事が頭にちらつく。それを振り切るようにティコラセーヌにキスを何度もする。そんなアルヴェードにティコラセーヌは、異変を感じ、問い質した。


「最近のアルヴェード、変だよ?」

「変?俺は、俺は、至って普通だろう?」

「違う。違うよ」

「すまない。卒業が近いから、疲れているのかもしれない」


 歯切れの悪い返答をし、1人アルヴェードは教室に戻る。そこには、柔らかい表情を浮かべ休み時間を穏やかに過ごす自らの妻が。アルヴェードは、その妻、エリザータを抱きしめたい衝動にかられる。


「何を、何を俺は考えているんだっ」


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