20甘:夫婦の12の過去その6
ビタル学園の学習カリキュラムは、基本的にクラス差はない。しかし、生徒の成績は、上級家庭クラスの方が上だ。エリザータは、必然的にクラスの中で落ちこぼれとなっていく。
「教室でも、家でも、勉強ばかり。息が、詰まるわ」
エリザータは、学園の廊下で1人呟いた。そして、学園内をふらふら彷徨う。
一方、アルヴェードは、学園内の裏庭のベンチにティコラセーヌと並んで座っていた。ティコラセーヌは、呟いた。
「ねぇ、アルヴェード、新婚生活ってどんな感じなの?」
「ん?家に女が1人増えただけと言う感じだ」
「そうなの」
アルヴェードは、ティコラセーヌの肩に手を回しつつ言う。
「ティコラセーヌがそこにいたら、俺の生活はいいものになっただろうな。そうだ、俺の心の妻になってくれるか?ティコラセーヌ」
「アルヴェードの心の奥さん?うん、それいいかも?」
「じゃあ、俺と、結婚してくれますか?ティコラセーヌ?」
「はい、よろしくお願いします」
アルヴェードとティコラセーヌは笑顔を交換した。そして、唇も。ティコラセーヌは、「誓いのキス」の最中、自らの心情の変化を振り返っていた。恐怖から始まったこの関係は、複雑な感情を経て、アルヴェードが結婚した今はエリザータへの嫉妬で溢れていた。「自分の方が長くアルヴェードの傍にいたと言うのに」と。激しい感情を、アルヴェードの唇にぶつけた。
一方、エリザータ。重い足は、裏庭へ。その視線の先には、濃厚なキスを交わしている夫と、知らない女の光景があった。
「どういう事なのよ!!」
学園の裏庭に、エリザータの叫びが響いた。アルヴェードとティコラセーヌの「誓いのキス」は、強制終了した。アルヴェードは短く返した。
「何か、問題でも?」
エリザータは、感情の嵐の中、それに言葉を返せない。そんな光景を目の前にアルヴェードはティコラセーヌに視線で起立を促し、共に教室へと戻って行った。エリザータの心の中は、混乱の一途を辿った。その後、残りの時間教室で夫婦は、学習を進め、放課後には迎えの車で後部座席に並ぶ。エリザータは、いつにも増して隣を見ることに抵抗を覚えた。
帰宅するなり、エリザータはアルヴェードの自室へとついて行った。アルヴェードは、鬱陶しそうに言った。
「何だ?」
「『何だ?』じゃないわ!あの女は、何なのよ?」
「問いに問いで返すのもなんだが、昼間質問したよな?『何か、問題でも?』と。それに答えてくれないか?」
エリザータは、答えた。
「私が妻なのよ?他に女を作ったの?最低!」
「一般論だな」
「え?」
「一般的な夫婦なら、俺は最低な夫だろうな。だが、俺たち夫婦には、それは当てはまらない」
「わけがわからないわ!!」
「一応、紹介しようか。彼女は、ティコラセーヌ。長年の俺の恋人だ。結婚したいと思っていた女だ」
「なんですって?」
「残念ながら、お前が妻になったから、愛人に早変わりだ。ティコラセーヌは」
エリザータは、下を向く。そして、声を絞り出す。
「貴方は、ずるい。貴方は、自由な恋愛を、楽しんでいたのね?」
「そうだが?」
「私は、貴方の許婚になったその時から、自由な恋愛なんて意味のない事と思って、したい恋もしなかったのに!!」
「それは災難だったな。訊くが、お前は、俺を愛しているのか?」
エリザータは、返答に詰まる。そんなエリザータにアルヴェードはこう言い放った。
「自由な恋愛をしたいか。なら、今からすればいい。おそらく、お前はその相手に俺を選ばないだろう。だが、それでも俺は痛くない。俺が愛しているのは、ティコラセーヌただ1人だからな」
エリザータは、頭の中がぐらぐらするのを覚えた。そして、叫んだ。
「もう、貴方の顔を二度と見たくない!!」
感情のまま、エリザータは制服姿の素足で家を飛び出した。アルヴェードは、黙ってそれを見送った。




