16甘:夫婦の12の過去その2
1週間後、要支援家庭クラスを訪れたアルヴェードにティコラセーヌは簡潔な返答をした。
「アルヴェードさん、私、貴方とお付き合い出来ます。よろしくお願いします」
「ティコラセーヌ、ありがとう。愛しているよ」
「愛して、います」
「俺たちは、恋人となったんだ。2人の時は、丁寧な言葉じゃなくていい。そして、これからは俺の事を呼び捨てで呼んでくれ」
「あ、アルヴェード」
「そうだ、ティコラセーヌ」
アルヴェードは、ティコラセーヌを抱きしめた。ティコラセーヌの体は、少し震えた。
ビタル学園内で新たなカップルが誕生した事を知らないエリザータは、とある日の放課後、歴史を感じさせる建物の前に立っていた。そして、迷いなく入って行く。その建物は、ルルコス銀行。行員たちは、エリザータの姿を見て次々に声をかけた。「お嬢様!」と。それに、エリザータは返した。
「パパは?」
男性行員の1人が、「頭取室にいるよ」と声をかけてくれた。そして、一目散にエリザータは頭取室に行き、入室した。
「パパ!ただいま!!」
「おお、おかえり。今日は、ここに寄ってくれたのか」
「うん!」
「だけど、これから重要な会議があるんだよ。家に帰りなさい」
「わかったわ!少しだけでもパパの顔、見たかったの!!」
「最近、帰りが遅くてごめんな?エリザータ」
「いいの!じゃ!帰るね!!」
エリザータは、入ったばかりのルルコス銀行を後にし、帰宅した。母親が迎えてくれたが、エリザータはこう言われた。
「少し、遅かったんじゃない?どこに行ってたの?」
「パパの銀行」
「もう!わかってるでしょ?パパは今、大変なの!行っちゃ駄目よ!!」
「ごめんなさい」
エリザータは、シュンとした。母親はそんなエリザータを軽く抱きしめ、言った。
「少しの辛抱だと思うから、我慢よ」
「うん」
この頃、ルルコス銀行は、経営が傾き始めていた。100年という歴史を目の前に、破綻は避けるべきと頭取であるエリザータの父親は、日々粉骨砕身の仕事をしていたのだ。
「さびしいわ、パパ。けど、我慢、我慢」
エリザータは、寝る前にそう呟いた。
来る日も来る日も、エリザータは、さびしさと共にビタル学園に通う。さびしさを埋める為に、恋が出来そうな男子をクラスの中で探すが、見つからない。
「中等部に行ったら変わるかしら?でも、その前に、パパの銀行、元気になるわよね?」
そんなエリザータの願いも虚しく、父親と会えない日々は続いた。そんな中、エリザータの父親は頭取室にて極限られた行員を目の前に、とある事を打診する。
「単独での立て直しは不可能と判断した。身売りに方針転換しようと思う。動いてくれるか?」
行員たちは、一様に悔しそうな顔をした。その顔を見渡しながら、エリザータの父親は言った。
「身売り先は、クルーサム財閥にするつもりだ。国一番の勢いがあるからな。その傘下に入れば、ルルコスは、100周年を迎えられると思うし、皆の雇用も守れる」
そして、ルルコス銀行は、クルーサム財閥に買収を打診。しかし、クルーサム財閥側は、一向に返答をしなかった。クルーサム財閥には、他の企業からも買収依頼があり、その吟味に時間を要していたのだ。焦れるルルコス銀行側。ある日、頭取は言った。
「クルーサム財閥は、ルルコスに興味を示してくれないのか」
そして、思考を巡らせ頭取は買収依頼の部隊にこう言った。
「優先順位を上げてもらうように、クルーサム財閥が求めているものを何でもいい、調査してくれ」
行員たちは、それに従ってくれた。




