15甘:夫婦の12の過去その1
アルヴェードは、ミルーネ宅を後にした。そして、呟いた。
「政略的な思惑を聞いてしまったな。反吐が出る」
一方、エリザータはトゥルレ・ジェネラル・ホスピタルを後にした。そして、呟いた。
「セブレーノ、否が応でも、あの日々を思い出しちゃうわね」
そして、アルヴェードとエリザータの思考は、別々の場所にいながらにして、子供の頃の思い出まで遡っていった。
「アルヴェード!その言葉遣いは何だ!金輪際、自分の事を『俺』と言うな!!」
10歳頃のアルヴェードは、クルーサム財閥の総帥である父親に叱責されていた。アルヴェードは、言葉にて噛みつく。
「いいじゃないか!家の中なら!!」
「お前は、クルーサム財閥の次期総帥!乱暴な言葉は使うな!!」
アルヴェードは、唇を噛み、返した。
「俺は、それを望まない!俺は、俺として生きたい!!」
「アルヴェード!駄目だ!!この家に産まれた男児としての宿命を受け入れなさい!!」
「じゃあ、出て行く!」
「それも許さない!!」
アルヴェードは、その父親の言葉に返答する事なく、自室に走って行った。
「嫌だ!嫌だ!嫌だ!自由が欲しい!!」
ベッドの上に登り、枕を何度も叩いた。震える拳をアルヴェードは見つめ、次第に諦観が心を支配するのを感じた。
「駄目、だよな。やっぱり、俺の道は決まっている」
翌朝、アルヴェードは父親に謝罪した。
「父さん、昨日は、すみませんでした。私は、間違っていました。総帥を継ぐことが私にとっての誇りですよね?」
「よく、わかったな。よし、いい子だ。アルヴェード」
そして、アルヴェードは学校に登校して行った。ビタル学園初等部の校舎にいつものように入り、教室にてクラスメイトに挨拶を次々にした。そして、こんな話を耳に挟んだ。クラスメイトの男子の許婚がこの度決まったと。それに、アルヴェードは返した。
「おめでとうございます。よき女性だといいですね」
その男子は、微笑んだ。その顔を見つつ、アルヴェードは心の中で言った。「いずれ、俺にも許婚が決まるんだろうな」と。
やがて、授業が始まる。このビタル学園は、各学年が上級家庭クラス、中流家庭クラス、要支援家庭クラスに別れる学園。勿論、アルヴェードは、上級家庭クラスの一員だ。上級家庭クラスの保護者が高額の授業料を支払い、貧しい要支援家庭クラスの児童生徒授業料を免除するシステムのこの学園にて、日々アルヴェードは知識を蓄えている。
アルヴェードと同じ学年の中流クラスの教室には、エリザータの姿があった。休み時間、エリザータは、クラスメイトの女子が2年上の学年の男子に恋をしたという話を聞いた。
「あの人、かっこいいもの!わかるわ!!」
そして、エリザータは心の中で言った。「私もいつか、かっこいい男子に恋したい!」と。
そんな中であった。アルヴェードはある日呟く。
「クルーサム財閥の総帥にはなる。けれど、妻は自由に選びたい。その候補は、あえて上級家庭からは選ばない」
そして、日を改めてアルヴェードは同じ学年の要支援家庭クラスの教室を休み時間に覗いた。上級家庭クラスの男子が来た事に要支援家庭クラスの児童は驚いた。そんな視線をもろともせずに、アルヴェードは、とある女子児童の元へと歩を進めた。その女子は、そのクラスの中で一際かわいらしい女子だった。アルヴェードはその女子に声をかける。
「俺は、アルヴェード。君、名前は?」
「ティコラセーヌ」
ティコラセーヌの声は、驚きで震えていた。アルヴェードは微笑み、こう言う。
「少し、2人で話がしたい、いいか?」
「は、はい」
そして、ティコラセーヌは、アルヴェードについて行った。学園の校庭のベンチに座り、アルヴェードは単刀直入に告げる。
「ティコラセーヌ、君に一目惚れした。俺と付き合ってくれないか?」
「えっ!!」
ティコラセーヌは、目を丸くした。そのティコラセーヌにアルヴェードは言った。
「急だから、考える時間をやるよ。1週間後、また来る。その時に返事を聞く」
アルヴェードは立ち上がり、教室に帰って行った。ティコラセーヌはそれを見送りながら、震える声で言った。
「じょ、上級家庭クラスの人の言う事聞かなかったら、私、ここに通えなくなる。言う事聞くしかないよね?」




