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14甘:大病院

一方、その頃エリザータは、大きな建物の前に1人佇んでいた。そして、呟く。


「約束の時間が迫ってる。行かなきゃ」


 その建物の内部に恐る恐るエリザータは足を踏み入れる。この建物、トゥルレ・ジェネラル・ホスピタルは真新しい匂いと光に包まれていた。患者や病院スタッフが行き交う間を縫うようにエリザータは歩を進め、受付にこう言った。


「院長とお約束をしている、エリザータと申します」


 受付の女性は、必要な連絡の上、こう返した。


「どうぞ、4階にお上がりください」


 エリザータは、一礼しつつ、エレベーターを探し、4階まで上がった。エレベーターから降りると、すぐに院内案内図が目に入り、それを確認。案内図通りに歩を進めると、院長室まで辿り着く。エリザータは、深呼吸を数度し、扉をノックした。


「はい」


 扉の向こうから、優しげな男性の声が聞こえる。エリザータは、それに導かれ院長室に入室した。


「セブレーノ」

「エリザータ」


 刹那の沈黙が流れた。セブレーノは、それを破るように言葉を続けた。


「手紙、驚いたよ?エリザータ」

「その、面会を快諾してくださって、感謝しますわ」


 セブレーノの表情は違和感の塊だった。


「エリザータ、他人行儀かい?昔のように話してもいいんだよ?」

「その資格がないと思いまして」

「気にする事ないさ。資格はある。でなければ、手紙に返事は書かなかったよ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。久しぶりね?セブレーノ」


 ようやくセブレーノは笑顔を見せた。


「本当に、10年以上ぶりだね?」


 エリザータとセブレーノは見つめ合った。しばらくすると、エリザータは口を開いた。


「用件は、手紙の通り、ミルーネという患者を貴方が診てほしいの」

「又聞きの又聞きだから、何とも言えないけれど、ほとんど光を浴びる事が出来ないという事だから、患者は重度の光過敏症だよ。医師がついてないわけない。そこに、僕が入り込んでいいのか。と、迷ってるよ」

「その先生のままじゃ駄目なんじゃないかってアルヴェードは考えてる。一縷の望みを貴方に託したいって言うのが、私たち夫婦の願いよ」

「仮に、僕が診たとして、更に悪化させる可能性だってあるのに」


 エリザータは、セブレーノをまっすぐ見て返した。


「貴方を私は信じる。そして、アルヴェードも貴方を信じてる」

「買いかぶりだよ」

「そんな、後ろ向きな事を言わないで、セブレーノ。貴方は10代だった頃の私の心の傷を治してくれた優秀な医師だわ。あの時は、まだ医師の卵だったのに」

「それとこれとは、関係ない気がする。でも、わかったよ。危ない橋を渡る事になりそうだけど、引き受ける」

「ありがとう!セブレーノ!!」

「その代わり、その患者の今の主治医に紹介状を書いてもらってくれ。勝手に診るわけにはいかないからね」

「勿論、それは力を尽くすわ」


 エリザータは、心からの感謝の気持ちをその声に乗せた。


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