11甘:反逆
結局、エリザータは1週間もの間、ランディレイに拘束された。その間で、ランディレイは冷静さを取り戻していった。
解放の日の朝、ランディレイは、エリザータに言った。
「すまなかった、エリザータ。僕は、冷静さを欠いていたようだ」
「構いませんわ。この1週間、王子のお傍にいられて幸せでしたわ」
「エリザータ、これからも、僕の所へ来てくれるかい?」
「それは!お約束致しますわ!私、王子を愛しておりますもの!!」
「エリザータ、では、その日を楽しみにしているよ」
そうして、王子の元からエリザータは離れた。そんなエリザータは、王宮を去る前、リンデンスに話しかけられた。
「エリザータ様、今までのご無礼、お許しください」
「え?」
「王子の恋人『だった』ミルーネは、とんでもない女でした。反逆の一族に取り込まれ、王子を誘惑していた。貴女は、既婚者という瑕疵はありますが、由緒あるクルーサム財閥の次期総帥の夫人。よっぽど貴女の方が、『綺麗な』女性でした」
矢継ぎ早にリンデンスが言う言葉に、エリザータは戸惑うばかりだった。しかし、なんとかこんな言葉を返す。
「気にしませんわ」
そして、エリザータは深々と頭を下げたリンデンスに見送られながら、王宮が用意した車に乗り込み、帰路についた。帰りの車中、1週間の間で繰り広げられたランディレイと自らの会話が頭の中を駆け巡った。
「王子、前から聞きたかったのですが、どうして私を愛してくださったのですか?」
「僕の恋人は、病弱なんだ。出会った頃は、そんなに酷い病気ではなかったんだけど、ここ数年で冬の限られた時期しか外に出る事が出来なくなる程病気が重くなってね。会いに来てもらえなくなってさびしかった。そんな時に、酔った天使、君が僕に惚れてくれた。これは、逃したくないと思ったよ。だから、君を愛した」
「そうでしたの。でも、会いに来てくれないのなら、会いに行けばいいのでは?」
「それは、出来ない。頻繁に一般の家に大規模警備を敷くわけにはいかないからね」
「それは、そうですわね。王子という立場を考えたら、そうなってしまいますわね。考えが足りませんでした。申し訳ありません」
エリザータは、頭を下げる。少しして頭を上げたエリザータにランディレイは突然のキスをする。
「考えが足りなかった罰だよ」
「とても気持ちのいい罰ですわね」
「そうかい?と言う事で、こうして、会いに来てくれるエリザータだから離したくないんだ」
「とても、よくわかりましたわ。その思い、ありがたいですわ」
ランディレイは、下を向く。
「もっともっと早くに、君が夫と結婚する前に君と出会っていれば、反逆の一族の彼女と愛し合う事はなかった」
「反逆の一族?」
エリザータは、アルヴェードが心酔する画家、ミルーネがそんな一族に属して王子を陥れるとは到底思えなかったが、それを飲み込んでランディレイの返答を待った。
「出会った頃は、彼女は違う家の娘だった。けれど、何かしらのやり取りがあったんだろう。今のシュク一族の養女になった」
「シュク一族は、ある程度の家柄ですわよね?王子と結婚するにあたって、彼女が身分を求めたのでは?」
「どうだろう?その頃から彼女の病状は悪化して、よく電話をしたけれど、あまり、悪い話をしたくなかった。だから、彼女にその真相は聞いてない」
「そうでしたの。でも、初耳ですわ、シュク一族にそんな悪名があったなんて」
「シュク一族という名前に騙された。シュク一族は、あの悪名高いヒュラ一族の傍系一族だったんだ」
エリザータは身震いした。
「ヒュラ一族ですって?あの、1世紀半前に、外国人労働者の暴動を煽動して、国を傾かせた、あの一族?」
「そうだよ。当時傍系王族でありながら、外国人に自国民を攻撃させた、あの一族だよ」
「確か、王族を追放されたのですよね?その一族は」
「シュク一族は、彼女を通じて王族への復帰を狙っていると推測された。再び王族として、このブンボル王国に仇を成すつもりだろう。だから、彼女との仲を禁じられたんだ。わかったね?僕の立場は」
「よく、よくわかりましたわ」
エリザータの頭は、混乱の一途を辿った。そんな混乱は、帰りの車中でも続き、思わず呟いた。
「私、何が出来る?第四条を破らないように、アルヴェードとランディレイを同時に幸せにしなきゃいけない。私に、何が出来る?」




