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10/13

10 悪役令嬢、落っこちる。

 扉の前に立つ、杖を構えた黒髪の男女ペア。

 十中八九、私たちの騒ぎ声を聞いてやってきたのだろう。

 これだから騒いでほしくなかったのに……と思わず頭を抱えた。


 もしゲームのシナリオ通りなら、ここでニーナと私が対立する。

 だけど――ニーナは私側にいるから、代わりに違う人物が宛がわれたらしい。しかも二人も。

 面倒だけど、イベントが起きたからには仕方ない。私は堂々と男女ペアの前に立ちはだかった。


「クラスと名を名乗りなさい」

「ニコラとアンダースです。……クラスは最下位(ドリト)


 ニーナ=アンブローズに近い名前の二人だった。偶然なのか、運命のいたずらなのかは分からないが、くすりと笑みがこぼれてしまう。


「へぇ……最下位(ドリト)の分際で、何のご用かしら?」


 私が笑いながら冷たい視線を送ると、二人の生徒はひるんだ。


 こんなか弱い生徒相手に、無駄な戦いはしたくない。

 立ち去ってほしい気持ちを込めて、私はあえて鼻を鳴らし、クラウディアらしい言葉を紡いだ。


「おバカなドリトに忠告してあげる。ここから立ち去るのなら、無理に決闘はしないわ。でも戦うと言うのなら――受けて立つわよ」


 私は杖を取り出した。すると二人の生徒も震える手で杖を取り出した。


「わ、私は逃げません! ドリトクラスは薬草一つで、三点もらえるんです。優勝のため、あなたと戦います!」

「僕も同じ考えだ!」


 なるほど、理解した。この《宝探し》は成績で分けられたクラス対抗だから、どうしても差が出る。だから差を埋めるため、ハンデが付けられているのだ。

 ……先生たち、そんな大事なこと教えてくれなかったな。どうなってんだ。


 私はため息をつくと、目の前の二人を真っすぐに見て杖を振った。


「ずいぶんと威勢がいいのね。それが口だけでないことを期待するわ。――結界の盾(ヒオルス・スケルダ)


 私たちの周りに、ドーム型のテントのような結界が生まれる。これで多少暴れても教室が壊れたりはしないだろう。


「ドリト相手なら、私一人で十分かしら。ニーナとレオは下がっていて」


 そう言って先制攻撃をしようとしたとき――ニーナが私の肩を抱いた。思わず杖を取り落としそうになり、慌ててニーナの顔を見た。

 鼻先が触れそうな距離に、思わず頬に熱が集まる。


「ちょ、ちょっと、なにするのよ!」

「お待ちください、クラウディアさま。《宝探し》の決闘は、同人数での戦いが必須と聞いています」

「そっ――そんな説明、あったかしら」

「ありませんでしたね。私も道すがらの噂で聞いただけなので」

「……ベリック先生め」


 私が呆れているのが面白かったのか、ニーナはふふ、と声を上げて笑った。


「とにかく、失格にならないためにも私も参加します」

「なぁ、クラウディアじゃなくてオレが参加――」

「魔力のコントロールもできない暴走野郎は下がっていてください」


 言葉を遮ったニーナは、まるで見せつけるように私の肩を抱き寄せた。なんだかニーナとレオの関係が悪化している気がする。一応は主人公と攻略キャラクターのはずなのに。

 とにかく、こうなったニーナを制したらまた面倒なことになりそうだ。


「レオ……悪いけど今回は審判役をしてくれるかしら」

「アハハ……分かったよ。大人しく見とくぜ」


 さすがにかなわないと思ったのだろう、レオはすごすごと結界の隅へと移動した。


「ではクラウディアさま、よろしいですか?」

「……ええ」

「ドリトのお二人もよろしいですね?」


 二人が頷くのを見て、ニーナは意気揚々と杖を構えた。


「僕らの愛の力、見せつけましょう!」

「落ち着いて。ただの連携スキルよ……」


 私は呆れながらも、目の前の二人に杖を向けた。


「せっかくだからハンデをあげるわ。ドリトの二人が先に攻撃しなさい。良いわよね、ニーナ」

「もちろん、それでこそクラウディアさまです!」


 私は結界魔法を常時発動しているから一層不利だ。それでもドリトに勝てる自信がある。

 なぜなら、味方にニーナ=アンブローズがいるから。


 ま、本人には絶対言ってやらないけど。


「ではお言葉に甘えて、私たちから攻撃します。氷の柱(イス・スティルガ)!」

風よ進め(ヴィンド・フラム)!」


 言い終わると同時に、風の魔法に乗った超高速の氷柱(つらら)が飛んできた。

 さっそく連携スキルを使ったようだ。二人とも内部進学者なのだろう、息の合った攻撃だ。


「へえ、以外とやるわね。ニーナ」

「はい。炎の盾(フィア・スケルダ)!」


 炎のエフェクトが私とニーナを包む。超高温の炎は、飛んできた氷を一瞬で溶かし、蒸発させた。


「次は私たちの攻撃ね」


 袖をまくり、ニーナの顔を見た。ニーナもこちらを向き、お互いの目線が交わる。

 ニーナはどんな魔法でも出すことができるはず。

 それなら私の好きにさせてもらおう。


「……氷の柱(イス・スティルガ)


 めったに使わない魔法だ。

 氷魔法は生まれ持った魔力との相性が合わないと、上手く発動しない。

 練習がてら使ってみたが――意外と正しく発動したらしい。美しい氷柱(つらら)が空中に生み出されていく。


「相手と同じ技を使うのですね! では私も、風よ進め(ヴィンド・フラム)!」


 ニーナが唱えた瞬間、ドリトの二人が放ったのとは比べ物にならない速さで氷柱(つらら)が飛んでいく。


 ドリト生は慌てて炎の盾を作って防ぐが、防げなかった氷柱(つらら)が体を傷つける。

 さらに紫色のエフェクト――毒を示すそれが、あたりに霧散した。


 しばらくして、ドリト生は二人とも床に転がった。私は遠巻きでその様子を見て笑った。


「ふふ、予想通りね」

「どう、して……」

「どうしてあなたたちの攻撃が効かず、私たちの攻撃が効くか? 簡単よ、氷柱(つらら)に毒の魔力を入れたの。私の得意属性は毒だから」


 パチン、と指を鳴らすと、紫色のエフェクトが消える。

 しばらく毒状態は続くだろうが、軽く酒に酔った程度の効果しかない。重症にはならないだろう。


 ドリトの男子生徒は体調が落ち着いたのだろう、ゆっくりと体を起こした。


「ぼ、僕たちが炎の盾を使うのを、読んでいたんですね……」

「ええ。だから『高温になると毒ガスになる』毒の水を凍らせて飛ばしたのよ」


 私はドリトの男子生徒の腕を掴み、ゆっくりと立ち上がらせた。


「一手先を考える勉強になったでしょう? どう、降参する?」


 男子生徒は頷いた。


「そこまで!」


 レオの声と同時に、私は結界魔法を解いた。


「全員杖を下ろして。……特にニーナ」


 ニーナは鬼の形相で、ドリトの男子生徒を睨んでいた。


「あの男、クラウディアさまの腕を触っていました。切り落とさないと……」

「ニーナ、早く杖を下ろしなさい」

「腕を切り落とすくらいならルールも……」

「ニーナ、いい加減にしなさい!」

「……はい」


 私が一喝すると、ニーナは肩をすくめて杖を下ろした。


「えーごほん、審判としてジャッジを下す。今回の決闘は、ニーナとクラウディア――エアスターチームの勝ちだ」

「審判ありがとう、レオ。ではあなたたちは教室から出て行ってくださる?」

「わ……分かりました」


 まだ目を回している女子生徒を背負い、男子生徒はすごすごと教室を去った。

 ドリトの二人には申し訳ないが、早々に片付いてよかった。

 これでやっと本題に入れる。


「ここまでやって、この教室に何もなかったらお笑いよ。徹底的に探しましょう」

「いや、さっきの戦いの間にもう見つけたぜ」


 レオが指差した本棚の最上段に、金色に輝くなにかがあった。


「へーえ、暴走野郎にしては良くやりましたね」

「アンタと違って、オレは周りを見てるからな」

「なっ――!」


 ニーナは耳を赤くして、レオに駆け寄った。私は大きくため息をついた。


「二人とも、いい加減にしなさい。まだ《宝探し》は終わりじゃないわ。薬草を取ったあとに襲われるかもしれないでしょう。気を抜かないで」

「失礼いたしました」


 ニーナはしょんぼりとうなだれている。喝を入れすぎてしまっただろうか。

 ひとまず、口をへの字に曲げているレオのほうに目を向けた。 


「レオ。あなたが薬草を取りなさい。見つけたのはあなただし、持ち帰りたいんでしょう?」

「い、いいのか?」

「ええ。ニーナもいいわよね、も・ち・ろ・ん?」


 少し圧を掛けてみた。


 ニーナは反論する気満々だったのだろう。

 一瞬ビクッと肩を震わせたニーナは、眉を寄せながら渋々頷いた。


「……はい。エアスターの点数になるのには変わりませんし」

「っ、二人とも……ありがとうな!」


 レオは本棚に駆け寄り、輝いている薬草に手を伸ばす。




 その瞬間――周囲の床が突然抜け落ちた。




「――きゃあああああああああああ⁉」


 慌てて下を見ると、真っ黒な空間が広がっている。


 足場となる結界魔法を作る暇は――ない。

 飛行魔法を発動する暇も――ない。


 私たちは重力に従って、黒い空間に吸い込まれていった。

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