バイパスドライブインにて
テレビのとあるドキュメンタリーで取り上げられた影響をひしひしと感じるような盛況具合。かといって店内がガヤガヤしている様子ではなく、春の穏やかな夜の雰囲気そのままに心地よい時間が流れている。食堂からガラス戸の向こうのゲームコーナーを眺めてみたり、年季の入った壁の色合いや、上部に貼り付けてある非常に豊富なメニューの数々を見比べて友人と「いいなぁ」と言い合ったりする。配膳とレジを行き来して忙しなく動き回る店員さんにそれぞれチャーハンや焼肉定食を注文し、配膳まで時間が掛かりますからと一緒に注文した『大』の生ビールを飲んで待ってて下さいねと伝えられた。
あまりジロジロ見つめるのも変ではあるけれど、既に座敷とテーブルの席について注文した品を待つ人々…男性も女性も、もしかしたら自分達と同じような気持ちでここに来たんだろうと思えて、俄かに一体感のようなものを感じなくもない。いそいそと食事を済ませようと思う食堂とは違う、『バイバスドライブイン』というちょっとだけ不思議な空間。車で通りがかる時にはいつも駐車場には大型のトラックが何台か停まっている場所という印象で地元なので馴染みもある建物ではあったが、実際にこの時間帯に座敷席に座っているとほんのり高揚感のようなものが出てくる。
座敷にあるテレビは土曜日の夜を彩るお馴染みの番組が流れ、その音がこの空間に完全に溶け込んでいてもはやそういう風になっているのが『自然』というか、なんの抵抗感もない。
ジョッキのビールが運ばれ、お通しの沢庵をつまみながら乾杯をする。共に活動を続けているからこその『創作談義』がどちらからともなく始まり、近くにいるお客さんの邪魔にならないような絶妙なトーンで盛り上がる。評価されたりされなかったりは致し方ないことで、需要があるとかないとか、移り変わってゆく時代とかも昭和からずっと続いてきたこの独特な懐かしさのある場所で話していると妙な納得感がある。『一周回って』希少価値が生まれている実例と言うと失礼なのかも知れないけれど、本当にこの時代に全国放送で取り上げられてから改めて見つめ直して、何ものにも代えがたい良さを味わっているこの時間が本当に貴重なものに思えてきた。銭湯もあるバイバスドライブインには微かに湯からその匂いが漂ってきている。ずっと長い間、需要に応えてきた証とも言えるのだろうか。
待ちに待った食事が運ばれてきて自然とお互い笑顔になる。やはり米は美味しく、チャーハンの味付けも完全に好みで流石という感じ。焼肉定食もただただ美味しそうで、別に注文した豚汁も美味だったそうだ。ここに来る前には評判の『スタミナ定食』を食しているイメージであったが、人気メニューゆえの必然かこの時間には品切れになっていた。
店を出る前、二人で店内のクレーンゲームの景品を確認するとしっかり『ウマ娘』だとか『アーニャ』だとか喜ばれそうな物が配置してある。当たり前と言えば当たり前ではあるけれど、なにか<しっかり稼働しているんだなぁ>という心地になった。二重になったドアの向こうの夜の世界に出て、そこからまた近くにあるカラオケ店に向かう。入り口付近に並んだ自販機の横を通り過ぎた辺りで、穏やかに波が漂っているかのような情緒があった。それに揺られるように何かを話しながら夜の道を歩く。
そして一夜明けた今思うのは、品切れになっていた『モツ煮』が猛烈に食べたいということだ。「また行こうぜ!」とメッセージをくれた友人。もしかしたらその前にモツ煮を喰らっている「なんとかさん」がいるのかも知れない。