抽斗
それは、子供たちの間で密かに流行り、増殖し…
その夏、ある主婦が違和感に気が付いた、
「最近、コバエ多くない?」
夏に増える害虫としても、
… 何かおかしい?
台所よりも二階に多く飛んでいるのも気になる。
息子たちの様子もおかしい、
御飯が終わるとそそくさと二階の子供部屋に上がっていく。
何か食べ物が古くなったまま放置されているのかしら?
男の子は困っちゃうわねえ …
子供部屋に入る、
意外と片付いているし、変な臭いもしない。
しかし、その時、
「何か気になったのよねぇ」
お母さんのカンよ、と、その主婦は後に語ったのだが、
息子さんの学習机の一番下の抽斗が妙に気になったそうである。
そして、抽斗を開けた彼女は、
「 なんじゃこりゃあ ! 」
妙齢のご婦人には似つかわしくない声で雄叫んだ、という。
学校から帰宅した息子を問い詰めると、
悪びれる様子もなく、
「大きい水槽がなかったから、ごめんなさい」
と、小学五年生の息子さんは一部始終を語った。
仲良しのA君にカブトムシを貰ったこと、
のびのびした場所で飼ってあげたいので、
抽斗にみっしりと土とおがくずを入れて、
貰ったカブトムシを放したこと、
幼虫もいっぱいもらったので嬉しかったこと、
A君が洋服箪笥の抽斗でカブトムシを育てていること、
このナイスアイディアがクラスの男子の熱烈な支持を受けて、
密かなブームとなっていること …
その後、この情報はお母さんたちの間で共有され、
小学生男子と甲虫たちの蜜月は終了したと伺った。